第19話 夜――二人だけの甘い時間
婚約式後の華やかなパーティーが終わり、宮殿は夜の静けさに包まれていた。
大広間の光は消え、シャンデリアの煌めきも消えた廊下には、月光だけが柔らかく差し込んでいる。
遠くで使用人たちの足音が響くものの、パーティーでの喧騒とは比べ物にならない静寂が支配していた。
アメリアはクリーム色のドレスの裾を整えながら、鏡の前で深呼吸をする。
「……今日も無事に終わったのね」
胸の高鳴りを抑えながら、アメリアは鏡に映る自分を見つめた。
柔らかなクリーム色のドレスは、昼の純白のドレスとはまた違った華やかさを放ち、軽やかに揺れるフリルが月光に反射して優雅に輝いていた。
扉が静かに開き、リュシアンが姿を現す。
白と紺の礼服、肩には勲章が輝き、普段の冷徹さを漂わせながらも、視線は完全にアメリアに向けられていた。
「アメリア……今日も君は美しい」
その低く落ち着いた声に、アメリアは胸の奥が跳ね、思わず頬を赤くする。
「殿下……ありがとうございます」
微笑みながら手を差し出すアメリアに、リュシアンは静かに手を重ねる。
二人は廊下を抜け、宮殿の庭へ向かう。
月光に照らされた花々は淡く輝き、夜風が髪をそっと撫でる。
夜空に浮かぶ月は、まるで二人だけの世界を見守るかのように光を注いでいた。
リュシアンはアメリアの手を取り、そっと自分の胸に引き寄せる。
「誰も君に手を出させはしない……俺だけのアメリアだ」
低く囁かれる言葉に、アメリアは胸が熱くなる。
「殿下……私……ずっと殿下のそばにいたい」
「そうだ……ずっと俺のそばにいろ」
リュシアンは少し強く抱きしめ、額にそっとキスを落とす。
二人はゆっくりと歩きながら、お互いの存在を確かめ合う。
「今日のパーティー、殿下はずっと私を気にかけてくれて……嬉しかったです」
アメリアの声に、リュシアンは微笑み、軽く頭を撫でる。
「君を守るのが俺の役目だ……そして誰よりも大切なのは君だ」
庭の一角にある静かなベンチに腰を下ろすと、リュシアンはアメリアを抱き寄せる。
「アメリア……俺は、君だけを見ている」
「私も……殿下だけ……」
小さな囁きに、月光が二人の影を優しく揺らす。
そして、ゆっくりと唇を重ねる。
最初は軽く、優しいキスだったが、次第にお互いの感情が溢れ、深く濃密なものに変わっていく。
アメリアは手をリュシアンの背中に回し、リュシアンもそっと腰に手を回して包み込む。
「アメリア……俺の全てを、君に捧げたい」
「殿下……私も……」
二人の心と体が重なり合い、夜の静寂の中で、甘く濃厚な時間がゆっくりと流れる。
しばらく抱き合った後、リュシアンはアメリアの頬にそっと触れ、微笑む。
「君の存在が……俺を強くする」
アメリアは静かに目を閉じ、リュシアンの胸に顔をうずめる。
「殿下……私も、殿下がいるから……」
夜風が二人の周囲を撫で、月光がアメリアのクリーム色のドレスを柔らかく照らす。
宮殿中の視線や噂など、すべて遠くに感じられる。
ただ、二人だけの世界が広がり、互いに全てを委ね、深く愛し合う時間が続くのだった。
その夜、アメリアは心の奥で確信する。
(私は……殿下だけのもの。誰よりも大切にしてくれる……)
そしてリュシアンもまた、胸の中で強く思う。
(アメリア……誰にも渡さない……ずっと俺だけのものだ)
夜は静かに更け、二人だけの愛と誓いが、宮殿に深く刻まれる。




