婚約式までもうすこし
――宮殿内は準備で慌ただしかった。
しかしアメリアは数日前、偶然耳にした陰口の噂をまだ心に抱えていた。
「皇太子殿下は冷徹で、悪魔のようだって……」
「誰にも心を許さない人だって……ほんとは国以外には冷たいらしいわ」
廊下を歩きながら思い出すたび、胸の奥に熱い感情が湧き上がる。
(殿下はそんな人じゃない……ほんとは優しい……!)
その数日後、リュシアンは陰口を叩いていた貴族たちを正式に宮殿の広間に呼び出すことを決めた。
低く冷たい声に、侍女や使用人たちも息を飲む。
広間に呼び出された貴族たちは、顔色を変え、微かな震えを隠せない。
周囲には宮廷の使用人も集まり、緊張が広がる中、リュシアンは静かに、しかし圧倒的な存在感で立ち上がった。
「どうせ元々、対して役にも立たん者たちだ。
仕事もできず影でコソコソ言うだけの者たち、そして何より俺のアメリアを悲しませた」
その声は低く、広間全体に冷気のように響く。
「お前らなど、もはやこの城には不要だ」
「二度とこの城の門を跨ぐな」
一言一言が鋭く、威圧感を漂わせる。
貴族たちは顔を青ざめ、視線を伏せるしかない。
広間に張りつめた空気の中、リュシアンの権威と冷徹さが誰の目にも明らかだった。
貴族たちが震えながら退出すると、リュシアンは深く息をつき、アメリアのもとへ歩み寄る。
「少し疲れた」
その声は低く、アメリアの胸に響く。
「殿下…私は殿下のことを信じています…殿下がこの国の事を誰よりも考えていると」
「アメリア……」
リュシアンはそっと腕を回し、しっかりと抱きしめる。
周囲の視線も、広間の冷たい大理石も、二人の世界には存在しないかのように甘い時間が流れる。
唇を重ねるそのキスは、短くても濃密で、二人だけの時間を全身で感じることができる。
唇を離すと、リュシアンは額にそっとキスを落とす
午後の宮殿に、二人だけの甘く濃密な時間が流れる。
婚約式までの準備期間中、二人の愛と信頼はさらに深まり、宮殿の光も風も二人を祝福するかのように優しく包み込むのだった。




