第15.5話 噂を聞いたアメリアと甘い抱擁
午後の宮殿。柔らかな光が回廊の大理石に反射し、静かに煌めいていた。
アメリアは侍女と共に歩いていたが、遠くから小声で囁く声が聞こえてきた。
「皇太子殿下って、本当に冷徹で、まるで悪魔のような方だって……」
「ええ……噂によると、殿下は誰にも心を許さないらしいわ……ほんとは、アメリア様にも心を開いていなのでは?」
「あの冷徹な殿下ですものね」
アメリアの胸は一瞬で締めつけられ、驚きと怒りが入り混じる。
(……殿下はそんな人じゃない! 国のために冷静でいるだけなのに……!)
小さく歯を噛みしめ、アメリアはその場で立ち止まり、声を震わせながら叫ぶように言った。
「皇太子殿下は、そんな冷たい人じゃありません! 私が知っている殿下は、国のことを思い、冷静でいるだけです! 本当に誰よりも優しい方です!
それに、わ、私のことも、ちゃんと愛してくれています」
周囲は息をのむ。
使用人も侍女も、アメリアの真剣な眼差しと、胸の奥からあふれる熱い声に圧倒され、声を失った。
廊下の奥でその光景を見ていたリュシアン。
普段の冷徹な表情のまま、静かにアメリアを見つめている。
しかし胸の奥では、熱い衝動がこみ上げる。
(……俺を信じてくれている……他人の噂なんて、どうでもいい。俺のアメリアは……俺だけのものだ)
リュシアンは静かに、しかし確実にアメリアのもとへ歩み寄った。
その歩みはゆっくりで、アメリアを安心させるようでもあり、独占的でもある。
「アメリア……俺のことを……信じてくれるのか?」
低く、囁くような声に、アメリアは胸の奥で熱い鼓動を感じ、少し息を詰める。
「はい……殿下……私は……殿下だけを信じています……」
頬を赤くしながらも、アメリアは目を逸らさず、真剣な眼差しでリュシアンを見上げる。
リュシアンはその言葉に胸を高鳴らせ、自然とアメリアを抱きしめた。
腕の中でアメリアの体温を感じ、心の奥で甘い衝動があふれる。
「誰にも渡さぬ……俺だけのアメリアだ……」
アメリアは小さく息を漏らし、胸の奥で甘い震えを感じる。
リュシアンはそっと唇を重ねる。
そのキスは短くとも濃密で、二人だけの世界を包み込む。
周囲の視線も、囁く声も、宮殿の空気も、二人の甘い時間の前では霞んでいく。
唇を離した後、リュシアンはアメリアの額にそっとキスを落とす。
「俺は……誰よりも君を愛している。噂なんて、気にする必要はない……」
アメリアは胸の奥で甘く震えながら、頬を上げてリュシアンを見つめる。
「殿下…もちろんです……私も殿下のことを愛しています……」
その日、二人は宮殿内で人目を気にすることなく、甘く濃密な時間を過ごす。
アメリアは心の奥で確信する――私は殿下にとって唯一無二の存在。
リュシアンもまた、胸に抱いたアメリアを意識し、誰にも渡さぬ決意を新たにする。
――俺だけのアメリアだ、と。
午後の光は二人の背中を優しく包み、婚約式までの数か月間、二人の愛と信頼はさらに深まっていった。




