豊穣祭 ①
実りの秋、豊穣の秋。
今日の夜には豊穣を祝う舞踏会が開かれるらしい。アルスラン皇国、聖ラファエロ王国、オルフェリート王国が入り混じって。
豊穣の祝いと、来年の祈りを込めて。
「日本ではこんなのやったことないよね?」
「まぁ……ハーヴェストは日本では一般的とは言えないからな」
俺たちがいた世界でいう収穫祭みたいなモノだろうな。
この世界では収穫を祝い、来年の豊穣を祈願する舞踏会になってるようだが。
舞台は同盟学校宴の間と呼ばれる大広間だった。
ものすごい広い舞台では、学生や同盟学校の領地に住む人たちが集まっている。
みんな背伸びしたようなドレスやタキシードを着て談笑に励んでいる。
「壬午くんだ」
「よぅ」
「お前らここにいたのか」
「へきちゃ〜ん。楽しんでる〜?」
「集まりましたね……」
東、壬午の勇者たちと宇和島、みのりの聖女コンビも集まってきた。
やはりこういう舞踏会は全員慣れ親しんではいないのでめちゃくちゃ窮屈らしい。知ってる人もそこまでいないし、周りは貴族だらけだから踊れるやつばかりでどうしようもないということで逃げてきたんだとか。
「やっぱ俺たちは端っこで食って飲んでが似合うな」
「そうですね……。堅苦しそうなダンスは嫌ですし……」
「へきちゃんなら踊れるんじゃない?」
「踊れると思うけど堅苦しくて楽しくなさそう……」
「そうでもないと思うけどな。少なくとも全力で楽しんでる奴もいるぜ?」
それはいるにはいるだろ。踊るのが好きな奴。
俺はオレンジジュースを片手に会場の料理をつまむ。すると、リヒターとリエリーが駆け寄ってくる。
「おや、勇者様お揃いで。楽しんでいただけてますかな?」
「……誰?」
「おっと。僕はリヒター・アンデルセン。オルフェリート王国の貴族さ」
「あ……貴族様……」
「なに、堅苦しくなくていい。僕たちは同級生さ。それより……へきるさん、どうだい? 僕と一曲」
「えっ」
「エスコートは僕に任せたまえ。どうだろうか?」
「……行ってこいよへきる。楽しいだろ」
「うん……。や、やります!」
「ふふ。良い返事をありがとう。慣れないダンスだろうけれど、君ならすぐに覚えられるさ」
へきるはリヒターの手を取り踊り始めた。
「……で、そっちの人もオルフェリートの?」
「はーい! リエリー・アスマルドでぇーっす! よろ!」
「よろしく。俺は東 理人だ」
「アズマさん! かっこいいお名前ー!」
「……踊りにきたの?」
「いや、疲れたから料理食べにきた。みんな踊ってないで食えばいいのにねー」
「なるほど……」
リエリーは料理をむしゃむしゃと食べ始める。
見かけによらず豪快なんだよなリエリーって。本人曰く食うのは好きだけど作るのは苦手らしい。そういう人いるよね。
本人は結構な大食漢なんだが食べても太らない体質らしい。新陳代謝が良すぎる。
「……理人。私たちも踊ってみよ」
「そうだな。せっかくの舞踏会だし踊ってみるか」
「……俺は?」
「はいはい。あんたは私と……」
「あぁ、俺はあまりね……」
まぁ仕方ないか。
壬午の彼女は宇和島だし東はみのりと仲良さそうだしな。
「四人とも行っちゃったねぇ」
「ま、俺踊るの好きじゃないし……」
「そーなの? ……というかさ、ヒヨリちゃんって女の子なのに俺って言うよね〜。見た目とのギャップすごい!」
「……悪いか?」
「いいと思うよ!」
やっぱ女の子の見た目で俺ってのは変なのか?
アニメとかでは俺っ子とかいるけど現実じゃ見たことねえしな……。
でも今さら私とか女の子らしい口調に矯正なんて出来ないしな……。
「……おい」
「あら、アギトくん」
「暇してるのか?」
「見ての通り」
「……俺と踊るぞ」
「……踊るのぉ?」
「あぁ。リエリーでもいい。父上が一人とは踊れと煩いから……」
「よっしゃ。じゃ、ヒヨリちゃん任せた!」
「……俺多分めっちゃ転ぶよ?」
「……おいリエリー」
「聞こえませーん」
リエリーは食べるのに集中するようだ。
アギトはため息をつく。そして、手を差し出してきた。
「エスコートしてやるよ。手を出せ」
「偉そー……」
「うるせえ。いいからさっさと踊るぞ」
うわぁ強引。




