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特にこれといった目的もない異世界転生  作者: zaq2
2:       
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#四:突撃したい、とてもしたい

 体を売る。


 これはよくある、比喩表現のあれだろう、肉体労働の事を言っているんだと、きっとそうに違いないと。

 そう思っていたのですが……



「あら、騎士様、今晩私とどう?」

「いえいえ、ワタシと一緒にどう?」

「サービスするから、こちらに如何?」



 サグアの後を追うようについていった先の道を歩くたび、あちらこちらで立っている女性からお声がかかる。



 こういう勧誘を受けまくる時点で察してください。




 連れて来られたのは色街でした。

 本当にありがとうございました。





 何でここなのかと、軍資金があれば突撃したい、とてもしたい。

 したいのだが、軍資金が無いこの悲しさ……


「"すまない、今日は持ち合わせが無いのでな……"」


 と、やんわりお断りをいれるが、ここでひらめく。


 そそくさと次の客を探そうと離れかけていく女性に「"代わりに、試供品だがコレを差し上げよう、肌を綺麗にするクリームだ"」と、プレゼントをしておく。


 ついでに、ファンタジー力を駆使し、効能を調整して即効性と滅菌効果も高めておく。

 こういう所では、()()()()病気とかあるだろうからね。


 あとは、日持ちがしないから、すぐに使い切ってほしいと念も押してもおく。


 そして、声がかけられるたびに配りまくっては、だいぶ荷物となっていた軟膏が少なくなった。

 あれだけ売ろうとしてたので、タダで配る事になるとか……すこし寂しいものである。



 配布時にサグアも手伝ってはくれたが、感謝の念がどうたらこうたら、慈悲がどうからこうたらと、呪詛みたいに吐き続けるのを、止めていただけないのだろうか……


   *   *   *



「白騎士様、こちらのお店です」



 色街の一等地よりもだいぶ離れた場所。


 周囲は寂れてはいるものの、人気が無いわけでもないが結構立派な娼館だった。


 キレイな亜人のおねーさんたちが、こちらを値踏みするかの様に……

 ん?亜人のオネーサンたちだけ?



「白騎士様、しばらくお待ちください」



 そういって、堂々と店の中に入っていったと思ったら、サグアの代わりに恰幅が良い女性が勢いよく出てきた。


「あんたかい?亜人を売り飛ばそうとしてる主人ってのは?」

「"いや、そんな事をする気はないのだが"」

「じゃぁ、なんでさっきの亜人の子がうちの店で働きたいとか言ってくるんだ?ああ?しかも主人のためだとか、許可はもらっているとか言ってるじゃないのさ」

「"許可をだした覚えは……"」

「ああ?こちとら真面目に商売してんだよ、主人の許可状なしだと犯罪幇助になるんだよ!やめとくれよ!!」



 ……自分の主張を言うだけ言って、一切話を聞かないタイプだな、これ。

 言葉のキャッチボールはどこにあるのだろうか……

 明後日の方にぶんなげられてるんだろうなぁ……


 こういう時は、とりあえずは相手の意見を聞くだけ聞いてから次に進むしかない。 

 待つんだ、耐えるんだ……耐えてたら、ギャラリーが増えてきた。


 そうしたころ、ポツリポツリと雨が降り始めてきた。


「降ってきやがったよ……あんたも店に入んな、ここじゃこれ以上は邪魔になる」

「"りょ、了解した"」


 気圧される格好にはなったが、その娼館の中へと(いざな)われた。

 雨に感謝することになろうとは……



   *   *   *


「なんだい、雨季で宿無し、そんで宿代をと模索してたらこの子が勝手に走り出したって?」

「"まぁ、そういう事だ"」

「だったら、ちゃんと紐つけときな。ほんと、いい迷惑だよ、あのままじゃ、マズい所に回されてたんだからね。ったく」

「すみません。雇っていただけるという事だったので……」



 事務所的な部屋で、話がようやく出来る形となった。

 雨季の季節、足止めされると宿代が足りなくなるからと、亜人を手放しては路銀にするケースもあるとの事だ。


 そして、サグアは、そういうところに目をつけられて勧誘されかけたところを、この女将が声をかけて黙らせたそうな。



「この国じゃぁね、亜人の価値はヒトとして扱われないのさ。下手なところに連れてかれるとね、使いつぶされるだけなのさ、なんせ、救済の対象じゃないからとかでね」

「"では、ここで働いているのは?先ほどから見てると、そういう人達が多いと見受けるが……"」

「ここはね、モノとして、売られた子たちが働いてるのさ」



 いままで通ってきた、小さな宿場町でも、そういう扱いをされているのは見かけていた。

 なので、そういう事は頭では理解してはいる。


 ただ、ここにいる亜人たちは、それまでに見た"生きるのに疲れた"という表情をしていない。

 何というか、生きているとでもいうぐらい、活き活きとしているのだ。


 何でもこの娼館は、そういった"モノ"として売られた"亜人たち"に働き口として運営されているそうだ。

 行き場をなくしたという者たちを率先して。



「とりあえず聞くが、あんたんとこのその子は売る事はないんだな?」

「"当たり前だ。なぜそんな事をしなくてはならない?そもそも彼女は、いや亜人はモノなんかじゃなく、立派な人でもあるからな"」

「白騎士様……」

「へぇ……ま、口では何とでもいえるさね。けど、売る気が無いってのは解った。空いてる部屋なら貸してやるよ。ただし、一宿一飯、アンタにもキッチリ働いてもらうがね」


 やれやれといった表情で、女将がそうしてくれた。

 

「"それと、サグアには……"」

「仲居として扱うさね。アンタはそうさね……人夫か用心棒として、しばらく雇ってやるよ」

「"ああ、それはありがたい。感謝する、女将よ"」



 そうして、宿泊先が決定することになった。

 あと、それと……



「"ところで、女将よ、礼という訳ではないが、これは美肌にも効く軟膏で──





 セールストークを交えて在庫処分セールをしておいた。



そういう色的な世界もある事を書きたかったから書いた。


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