#三:ちょっ、おまっ!
商業組合
「"大きい街だと、さすがに賑わいが違うな"」
「はい、そのようですね」
表の通りも荷馬車の出入りが多いが、整理されているがためにそこまで混雑にはなっていない。
受付窓口のほうも、人の出入りは多いが、そこまでの人が混雑している様子もない。
そうして、自分たちはというと、買取カウンターへと赴く。
買取に関していうならば、ここの手続きを通さなければならないという説明を受けていた。
順番となり、視線を浴びつつもそのカウンターへと挑む……
* * *
「"売れなかったなぁ"」
結果は惨敗。
売るために作成していたものは軟膏。
ぶっちゃけていえばスキンケアクリームみたいなものである。
元居た世界でいえば、馬油とかガマの油とか、そういう奴。
旅の道中で手に入った獣脂を使用しており、効果はサグアで実証済みなのだが……
出自不明な物を持ってきて、なおかつ肌に塗り付ける代物。
効果や効能は遅効性の為に、すぐに解るものでもないのなら、安全性がどうたらかんたらで、取扱ができないと。
いうなれば、二人だけだと共謀……信用がないと判断されて、門前払いされた訳だ。
試供品として、数点は受け取ってはもらえたが、あれは廃棄されてる可能性が高いだろうな。
「"我が主"の賜物だというのに、何もわかろうともしない愚者ばかりかと」
「"いやいや。そんな事、思ってないからね?彼らは普通に対応してただけだぞ"」
「大変申し訳ありません。ですが、彼らは"我が主"の寛大な仁心に感謝をするべきかと」
「"それもいらないからね?仕方ない、次は労働組合に行くか"」
「承知しました」
* * *
「"見つからないな……"」
「何かしら残しておかない、組合の方が間違っているかと」
「"そうまで思ってないからね?"」
こちらの労働組合においても見つからなかった。
そして、見つからない理由も教わった。
昨日まで続いた大雨のおかげで、人手が足りないかと思いきや、逆に人手があぶれているそうな。
ぬかるんだ地面での作業は危険だからと、街の外での灌漑事業、つまりは土木工事はしばらく中止。
そこで働いていた人たちが、ほかの場所へと日雇いで向ってしまい、逆に流れの人に信用のおける仕事はさせられないとのことで、これまたお断りされた。
まぁ、組合に入った際に「お、騎士さまじゃねーか!!」と、荷馬車救出時の野郎たちもいたが、「仕事探してるのか?」と聞かれて、そう答えたのだが、「今はちょっとタイミング悪かったな」と返される始末でもあった。
そうして、出口からは先ほどの雑談していた一団が表れては
「んじゃ、俺らはいくわ。今度はエールを奢ってやるから、またな!」
「"ああ、気をつけてな"」
「(ペコリ)」
仕事にありつけて、働きに出ていく野郎共を見送る。
その際、棚卸は必要だと思い、傷にも使えるからと売れなかった軟膏をいくつか渡しておく。
「ありがとよ!」と気さくに受け取ってくれるオジサンたち。
あらやだ、オジサンたちへの好感度が高くなるんですけど……?
なお、サグアの視線は無視するものとするが……
「やはり、わかられる方は、わかられる様ですね」
「"いや……まぁ、いいか、次いってみよう"」
「はい、わかりました」
言葉と表情が合ってない気がしたけれど、忘れておきます。
* * *
「ああ?豪勢な鎧を着た騎士様が何のようだ?」
「"何か仕事がないかと"」
今度はサグアは表で待たせている。
場所が場所なので。
荒くれものを相手にしている相手からは、上から下までしっかりと視線を動かせて眺め見られる。
そして出された言葉は
「帰えんな……傭兵組合じゃ、そういう仕事、今ねぇんだわ」
「"そ、そこを何とか"」
「だから、そういわれても言っただろ?今、依頼がねぇんだよ。みんなこの前の大雨で足止めされちまってるからな」
「"ここもか……"」
「他もそうだったんだろ?ま、雨季の季節じゃぁしゃーねーよ、タイミングが悪けりゃそうなるからな」
「"すまないな。邪魔をした。そうだ、これを差し上げよう。私も使っている軟膏だ"」
「へえ?これは……塗り薬か。これはどうした?」
「"いやなに、大量に手に入ったのでな。日持ちがしないからタダで配っているだけだ。もったいないだろ?"」
「ま、日持ちしないのなら、もったいないわな」
と、ここでも結構な在庫処分で差し上げておく。
これで、かなり減ったので、助かるというものである。
受付のおっさんは、手に取ってすぐにヌリヌリしてくれた。
「こりゃいいもんだな」
「"だろ?カミさんの水仕事後の手荒れにも効くかもしれんぞ、ご機嫌取りにどうだ?"」
「確かに。なら、もうちっともらっとくか。ただ、こっちもすまんね、斡旋できずに。表の嬢ちゃんにも悪かったって言っといてくれや」
「"ああ、わかった"」
という感じで、傭兵組合も駄目であった。
というか受付のオッサン、なにげに表にいたサグアに気づいてたとか、なかなかにやり手かもしれない。
* * *
日は傾き夕暮れ時。
仕事にありつくことすらできない無能無職のラーマです。
街中の階段の段差で座り込み、途方にくれております。
いまから次の組合に行っても、時間的に営業時間外だろうし、
ああ、これも天気が悪いんや……
雨なんか降るから悪いんや……
こんなんじゃ
「"……宿、泊まれるかなぁ"」
「!!」
その一言が聞こえたのか、サグアがなんかまた百面相みたいな顔をし始めたかと思えば、
「私めが、何とか致します。しばらくお待ちください!」
「"えっ?どこ行くの?お、おーい・・・"」
と、こちらの制止はスルーし、深刻な顔をして脱兎のごとく走り去っていった。
いや、アテがあるのならいいんだけど……
しばらくして、帰ってきたサグアは、とてつもない爆弾を携えていた。
「"我が主"よ!お喜びください!卑小な私めの体を売ることで宿泊できるようです!!」
……?
…
!?
「"えっ?いや、ちょっ、おまっ!おおい!"」
一所懸命に役に立とうとして暴走するのを書きたかったので書いてみた。




