不穏なイベント?
美しいって罪だよね。
うん。意味不明なのは承知してます。
でもさ、あんなに好きで好きで仕方ないみたいな笑顔は反則だと思うんだよね。
元々整った綺麗な顔で、あの笑顔。
破壊力が半端なくて。直視したら眼も心臓も潰れそうだから。
レイエスの告白の後、散歩して、ご飯を食べて、他のお店も回って買い物をしました。
これって既にデートだよね。エスコートされて、しかも手は繋いだままだったし。
いや、拒絶しない私のせいでもあるのか。でも、別に手を繋ぐのは嫌ではなかったしね。
その後、近くのカフェに入って二人を待っている。
元々ここのカフェで集合予定だったらしい。やっぱり計画的犯行でした。
レイエスが、私のどこに惹かれたのか不思議なんだよね。女らしさの欠片もないし。でも本人に訊く勇気はない。何か地雷っぽいし、自爆は勘弁。
「アンジー、左手出して」
急にどうしたのかな、と思いながらも素直に左手を出せば、その手を優しくレイエスの方に引き寄せられる。
目を瞬かせていると、レイエスは胸ポケットから何かを取り出して、私の手首に着けた。
少しひんやりとした感触に驚く。
レイエスの手が離れたので、手首に視線を落とす。
ピンクゴールドのチェーンに、透き通った丸いアメジストの宝石が等間隔に配置された、綺麗なブレスレットだった。
「……可愛い」
思わず呟いた声は、どこか弾んでいる気がする。
「気に入ってくれたみたいだね」
レイエスは、私の表情を見てわかったようで、少しホッとしながら微笑んだ。
「いつの間に買ったの?」
レイエスが、何かを買ってたのは知らなかった。殆ど私の傍に居たし。
「それは秘密。アンジーの為に買った物だから、受け取って」
私の為に選んでくれたプレゼントを、返すとでも思ってるんだろうか。私、そんな酷い奴ではないからね。
私はもう一度ブレスレットを見て、次にレイエスの翡翠色の眼を見た。真っ直ぐ私だけを見つめる瞳。
「ありがとう。嬉しい」
ほんの少し照れながらも笑顔でお礼を言えば、レイエスも嬉しそうに微笑んだ。
高い物じゃなければいいけど、と思いながら、今度お返しに何かプレゼントしようと決意する。
その後は学園での事や、師匠や兄との事を話しながら待っていると、二人がカフェに現れた。
レイエスとの会話は楽しかった。
聞き上手だし、話題も豊富で時間が過ぎるのが早く感じたくらいだ。
師匠に戦闘狂だと言われた事も話したけど、引く様子はなく逆に可笑しそうに笑っていて。
意外にも穏やかな時間に、自分でも驚いてる。
「遅くなってゴメンね」
マリアの声に顔を上げれば、違う意味で吃驚した。
マリアの横に居るアル。そのアルの服が土で汚れていたのだ。
「何かあったの?」
眉を寄せて問い掛ければ、アルが苦笑した。
服が汚れててもイケメンオーラは消えないって凄いよね。
「たいした事はないよ。心配かけたね。とりあえず帰ろうか」
「本当に大丈夫なのか」
レイエスが低い声で訊けば、アルははっきりと頷いた。
それを確認して、レイエスは立ち上がる。
それ以上は追求しないみたいだ。
私も大人しく立ち上がり、四人で店を出た。
すぐに馬車に乗り込んで、学園に帰っていく。
部屋に戻る際、マリアを強制的に連れて行く。大人しくついて来るので話す気はあるようだ。
「それで、何があったの?」
いつも通りメアリが出て行ってから、話を切り出した。
「……二人と別れた後にね、強盗に遭遇しちゃって。十人はいたかな。アルが全員返り討ちにしたけど……多分、貴族に雇われた人達だと思う」
少し疲れた表情のマリアに、心配になる。
「……まさかだけど、イベントだったりする?」
私の言葉に、マリアは苦笑して頷いた。
「そうみたい。アルのルートで起こるイベント。でも、今日はアンジー達も一緒だったから大丈夫だと思ってたんだけど。二人になった途端にイベント突入とか勘弁して欲しいよ……でも、アンジーを巻き込まないで済んで良かった」
乙女ゲームを何度もやり尽くしたマリアは、今日のイベントを知っていたのだろう。
ゲームでは二人でのお出掛けが、実際は四人に変更したから安心してたら……って事か。
謝るマリアに、私は首を横に振った。
「そんな事気にしなくていいから。巻き込まれても返り討ちにするだけだしね。それより雇われって、アルと縁戚を結びたい貴族とか?」
今日、ちょうどレイエスと話した内容を思い出す。
「うん。ゲームではそうだった。アルの隣に居る私が邪魔で、とか。そんな感じだったよ。でも、私とアルは全然ゲーム通りじゃないから、色々と心配なんだよね」
マリアは、困ったように眉を八の字にする。
多分、大体はゲームと同じ理由だろう。
アルは今、根回ししてる最中らしいから。今回の事も解決の為に既に動いてる筈だ。
「マリア。大丈夫だから。アルを信じて待ってればいいの。待ってるだけなんて嫌だろうけど、マリアが勝手に動いて余計に拗れたら大変だしね」
私は出来るだけ明るい声を出した。
「それに、レイエスもエイデンも味方だしね。それでも足りないなら兄にも頼むから」
私の言葉にやっとマリアが笑った。
「それは過剰戦力すぎるでしょ。あの三人だけでも凄いのに」
「ふふ、皆チートだからね。だからさ、大丈夫だよ」
「……うん。そうだよね。ありがとう」
納得したのか、マリアはいつも通りの笑顔で頷いた。
次の日から、彼等とお昼に会う事が出来なくなった。




