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第82話 『コールドボックス・マークIII』爆誕!~リンドブルムの食卓革命~

リンドブルムへの帰還は、

街を挙げての歓迎を受けた。


俺たちが『深淵の水晶』を持ち帰ったという知らせは、

瞬く間に街中に広まり、

ドラゴンステーションには、

俺たちの無事を喜び、

そして新たな奇跡の素材を一目見ようと、

多くの市民たちが詰めかけたのだ。


「ケンタさん! リリアさん! ギドさん!

お帰りなさい!」

「よくぞご無事で…!」

「あの『深淵の水晶』とやら、

本当に手に入れたのかい!?」


市民たちの興奮した声と、

温かい祝福の言葉に包まれ、

俺たちは、少し照れくさいような、

しかし誇らしい気持ちで、

彼らの声援に応えた。


特に、ギドさんは、

『深淵の水晶』を一目見ようと集まった

他のドワーフの職人たちから、

羨望と尊敬の眼差しを一身に浴び、

まんざらでもない様子で、

得意げに顎髭を撫でていた。

この頑固なドワーフも、

たまには素直に喜びを表現するらしい。


その日の夜、

ドラゴンステーションの事務所では、

ささやかな祝賀会が開かれた。

リリアさんが腕によりをかけて作った料理と、

ヴェリタスから取り寄せた極上のワイン。

そして、仲間たちの笑顔。

これ以上の幸せはない、と俺は心から思った。


翌日から、

ギドさんは、工房に籠りきりになった。

『深淵の水晶』という、

ドワーフの魂を揺さぶるほどの究極の素材を前に、

彼の創作意欲は、まさに爆発寸前だった。

工房からは、昼夜を問わず、

金槌の音と、炉の火の勢い、

そしてギドさんの気合の入った唸り声が聞こえてくる。

その集中力は凄まじく、

リリアさんが差し入れを持って行っても、

気づかないことすらあったという。


そして、数週間後。

ついに、その時は来た。


「できたぞ、小僧! 嬢ちゃん!

これこそが、わしの生涯の傑作!

『コールドボックス・マークIII』だ!」


ギドさんが、

工房の扉を蹴破るような勢いで飛び出してきて、

高らかに叫んだ。

その手には、

これまでのコールドボックスとは比較にならないほど、

洗練され、そして美しいフォルムを持つ、

銀色の箱が掲げられていた!


それは、まるで芸術品のような輝きを放っていた。

表面は、ミスリル銀とアダマンタイト合金を

組み合わせた特殊な素材で覆われ、

驚くほど軽量でありながら、

絶対的な強度と断熱性を誇っている。

そして、箱の中央には、

あの『深淵の水晶』が、

まるで心臓のように埋め込まれ、

青白い、神秘的な冷気を放ち続けていた。


「すごい…!

これが、ギドさんの…!」

俺は、言葉を失い、

ただその完璧な造形美に見入っていた。


「この『コールドボックス・マークIII』はな、

深淵の水晶の力を最大限に引き出すために、

わしの持つ全ての技術と知識を注ぎ込んだ代物だ。

箱の内部は、ほぼ絶対零度にまで冷却可能で、

その状態を、外部からの魔力供給なしに、

数週間は維持することができる。

さらに、水晶の力を調整することで、

冷蔵、冷凍、さらには超低温冷凍まで、

自在に温度設定を変えることも可能だ!」

ギドさんは、得意満面で説明する。

その顔には、やり遂げた男の満足感と、

そして、新たな発明への興奮が満ち溢れていた。


「これさえあれば、

どんなデリケートな食材も、

どんな希少な薬品も、

その鮮度と品質を完璧に保ったまま、

アースガルド大陸のどこへだって運ぶことができる!

まさに、物流の革命だ!」


俺とリリアさんは、

ギドさんの言葉に、

ただただ圧倒されるばかりだった。

これは、もはや単なる輸送用の箱ではない。

この世界の食文化、医療、

そして人々の生活そのものを、

根底から変えてしまう可能性を秘めた、

まさに『魔法の箱』だった。


早速、俺たちは、

『コールドボックス・マークIII』の性能を試すべく、

いくつかの試験輸送を開始した。


まずは、リンドブルム近郊の漁村から、

獲れたての新鮮な『銀鱗魚』を、

ヴェリタスの高級料理店へ。

これまでは、どんなに急いで運んでも、

半日もすれば鮮度が落ちてしまっていた銀鱗魚が、

マークIIIの中では、

まるで今しがた水揚げされたかのように、

生き生きとした輝きを保ったまま届けられたのだ!

ヴェリタスの料理長は、

その奇跡のような鮮度に驚嘆し、

通常の何倍もの価格で買い取ってくれたという。


次に、南の温暖な地方でしか採れない、

熱に弱い特殊な薬草を、

北の寒冷地の薬師の元へ。

これまでは、輸送中に薬効が失われてしまうため、

決して届けることができなかった貴重な薬草が、

マークIIIのおかげで、

完璧な状態で届けられ、

多くの病に苦しむ人々を救うことができた。


『コールドボックス・マークIII』の噂は、

瞬く間にアースガルド大陸中に広まった。

『ドラゴン便』には、

これまでとは比較にならないほど多くの、

そして多様な輸送依頼が舞い込むようになった。

遠方の特産品、希少な食材、

高度な医療品、さらには、

古代遺跡から発掘された、

厳重な温度管理が必要な遺物まで…。


リンドブルムのドラゴンステーションは、

連日、多くの荷物と人々で賑わい、

まさに大陸の物流ハブとしての様相を呈し始めていた。


「ケンタさん、見てください!

今日の依頼リストです!

もう、羊皮紙一枚じゃ書ききれないくらいですよ!」

リリアさんが、嬉しそうに、

しかし少しだけ困ったような顔で言った。


「ははは、嬉しい悲鳴だな、リリアさん。

だが、これだけの依頼を捌くには、

俺たちだけでは、そろそろ限界かもしれないな…」


俺は、活気に満ちたドラゴンステーションの光景を眺めながら、

新たな課題と、そして新たな可能性に、

胸を躍らせていた。


『コールドボックス・マークIII』の誕生は、

リンドブルムの、いや、アースガルド大陸の

食卓と医療に、静かな、しかし確実な革命をもたらし始めていた。

そして、それは、

俺たち『ドラゴン便』の、

次なる飛躍への序章に過ぎなかったのかもしれない。

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