第74話 氷晶の洞窟発見
オーロラの夜が明け、
俺たちは再び、果てしない氷原の旅を再開した。
目的地である『氷晶の洞窟』は、
スキルウィンドウのマップ情報によれば、
もうそう遠くないはずだ。
だが、旅は決して楽なものではなかった。
相変わらず気温は低く、
時折、猛烈な地吹雪が俺たちの視界を奪う。
食料も、リリアさんが持ってきた保存食と、
俺が時折狩る小型の雪兎くらいしかなく、
贅沢は言えない状況だった。
それでも、俺たちの心は、
不思議なほどに前向きだった。
焚き火を囲んで語り合った夜の誓いが、
そして、仲間たちとの確かな絆が、
俺たちに困難を乗り越える力を与えてくれていたのだ。
ピクシー・ドレイクたちも、
最初は寒さに震え、元気がなかったが、
リリアさんが、彼らのために特別な栄養剤
(花の蜜と薬草を混ぜたものだ)を作って与えると、
みるみるうちに元気を取り戻し、
再び俺たちの周りを賑やかに飛び回るようになった。
彼らの存在は、
この厳しい旅の中での、
ささやかな癒やしとなっていた。
そして、出発から数日後。
ついに、その時は来た。
「ケンタさん!
あれを見てください!」
リリアさんが、興奮した声を上げて指差した先。
そこには、巨大な氷河が、
まるで天から降りてきたかのように聳え立ち、
その裂け目のような場所に、
青白い、神秘的な光を放つ洞窟の入り口が見えた!
「間違いない…!
あれが、『氷晶の洞窟』だ!」
俺も、思わず声を上げた。
スキルウィンドウのマップ情報も、
ここが目的地であることを示している。
長かった旅が、ようやく一つの節目を迎えようとしていた。
「グルルゥ…」
リュウガも、洞窟の入り口を見つめ、
低い唸り声を上げた。
その声には、緊張と、
そしてほんの少しの期待が混じっているように感じられた。
俺たちは、逸る心を抑え、
慎重に洞窟の入り口へと近づいていった。
洞窟の周囲は、
まるで時が止まったかのように静まり返り、
ただ、風が氷の壁を削る、
ヒューヒューという不気味な音だけが響いている。
「…なんだか、空気が違うな」
ギドさんが、鋭い目で周囲を見回しながら言った。
「この洞窟の奥には、
とてつもない魔力が眠っているような気がするわい。
そして…」
ギドさんは、そこで言葉を切り、
地面の一点を指差した。
「これは…新しい焚き火の跡だ。
それに、この足跡…人間のものであることは間違いない。
どうやら、俺たちの他にも、
この洞窟に用がある奴らがいるようだな」
ギドさんの言葉に、
俺たちの間に緊張が走った。
こんな人里離れた、
極寒の地に、一体誰が…?
まさか、運送ギルドの残党か?
いや、彼らがここまで来るメリットはないはずだ。
だとすれば…?
「ケンタさん、あれ…!」
リリアさんが、洞窟の入り口近くの雪の上に、
何か小さなものが落ちているのに気づいた。
それは、黒曜石で作られた、
奇妙な形の装飾品のようなものだった。
見覚えのない紋様が刻まれている。
「これは…どこの国のものだ…?」
俺がそれを拾い上げようとした瞬間、
スキルウィンドウが、
これまで聞いたことのないような、
甲高い警告音を発した!
【警告! 強力な敵意反応多数!
洞窟内部より接近中!
識別不能! 高度な隠蔽魔法使用の可能性あり!】
「なっ…!?」
俺たちが顔を見合わせた、その時だった。
洞窟の奥の暗闇から、
複数の黒い影が、
音もなく、しかし恐ろしいほどの速さで
俺たちに襲いかかってきた!
その動きは、まるで訓練された暗殺者のようだ!
「くそっ! 敵襲だ!」
俺は咄嗟に剣を抜き放ち、
リリアさんを庇うように前に出る!
ギドさんも、金槌を構え、臨戦態勢に入る!
リュウガも、鋭い咆哮を上げ、
敵を威嚇する!
だが、敵の数は多く、
しかも、その動きは人間離れしていた。
彼らが振るう黒い刃は、
不気味な魔力を帯びており、
リュウガの硬い鱗すらも切り裂こうとする!
「こいつら…一体何者なんだ…!?」
俺は、敵の猛攻を防ぎながら、
必死で活路を探す。
だが、敵の連携は完璧で、
俺たちはじりじりと追い詰められていく。
『氷晶の洞窟』。
そこは、ただ『永久氷石』が眠るだけの場所ではなかった。
俺たちの想像を遥かに超える、
新たな脅威が、
その氷の迷宮の奥で、
静かに牙を研いでいたのだ。




