第69話 リリアの決意とケンタへの想い
『ドラゴンステーション』の建設は着々と進み、
ギドさんによる『ドラゴンギア Lv.2』と
『コールドボックス・マークII改』の開発も
最終段階に入っていた。
リュウガの翼も、リリアさんの献身的な看病と、
ギドさんの秘薬のおかげで、
ほぼ完全に回復し、
以前にも増して力強い羽ばたきを見せるようになっていた。
そんな、希望に満ちた日々の中で、
リリアさんの心には、
ある特別な想いが、
日増しに強く、そして鮮やかに育っていた。
それは、ケンタさんへの、
友情だけでは説明できない、
温かく、そして少しだけ切ない気持ち…。
(ケンタさん…
最近、なんだかすごく忙しそうだけど、
ちゃんと休めているのかな…)
リリアは、薬屋の店番をしながら、
事務所で山のような羊皮紙の書類と格闘しているであろう
ケンタの姿を思い浮かべ、そっとため息をついた。
『ドラゴン便』が軌道に乗り、
ステーション建設も本格化したことで、
ケンタの仕事は、以前にも増して多忙を極めていた。
その大きな背中には、
リンドブルムの未来と、
そして仲間たちの期待が、
重くのしかかっているようにリリアには見えた。
(私に、何かできることはないかな…
ケンタさんの力になりたい…
少しでも、その重荷を軽くしてあげられたら…)
リリアは、市場調査で得た情報を元に、
『ドラゴン便』の新しいサービスを提案したり、
顧客からの細やかな要望をケンタに伝えたり、
あるいは、ステーションの運営に関するアイデアを
積極的に出すようになっていた。
最初は、ケンタの役に立ちたい一心で始めたことだったが、
次第に、それが自分自身の喜びにもなっていることに気づいていた。
ケンタが「ありがとう、リリアさん。助かるよ」と
笑顔で言ってくれるたびに、
リリアの胸は、温かいもので満たされるのだ。
「リリアちゃん、最近なんだか楽しそうだねぇ。
何か良いことでもあったのかい?」
薬を買いに来たマルタおばさんが、
からかうような目でリリアに尋ねる。
「えっ!? そ、そんなことありませんよ!」
リリアは、顔を真っ赤にして慌てて否定する。
だが、その表情は、
誰が見ても幸せそうに輝いていた。
(ケンタさんのこと、考えてたなんて、
絶対に言えない…!)
そんなある日の夕暮れ、
リリアが事務所で帳簿の整理をしていると、
珍しく早く仕事から戻ってきたケンタが、
少し疲れた顔で、しかし穏やかな表情で話しかけてきた。
「リリアさん、いつもありがとう。
君がいてくれるおかげで、
俺は安心して外の仕事に集中できるよ。
本当に、感謝してるんだ」
ケンタの言葉は、ストレートで、
そして心からのものだと、リリアにはすぐに分かった。
「け、ケンタさん…
私の方こそ、いつもケンタさんに助けられてばかりで…
私にできることなんて、本当に些細なことですから…」
リリアは、照れくささと嬉しさで、
俯いてしまう。
ケンタに褒められると、
どうしてこんなに心臓がドキドキしてしまうのだろう。
「そんなことないさ。
リリアさんの細やかな気配りや、
お客さんを大切にする心は、
俺にはない、素晴らしい才能だよ。
それに、君の市場調査のレポートは、
いつも的確で、新しいサービスのヒントに満ち溢れている。
君はもう、立派な『ドラゴン便』の戦略担当だ」
ケンタは、悪戯っぽく笑って言った。
「せ、戦略担当だなんて…!
私には、そんな大それたこと…!」
リリアは、顔をさらに赤くして手を振った。
だが、ケンタの言葉は、
彼女の心に、温かい自信と勇気を与えてくれた。
(私にも、できることがあるんだ…
ケンタさんの、そして『ドラゴン便』の力になれるんだ…)
その時、リリアの胸の中に、
ある決意が芽生えた。
それは、まだ小さな、
しかし確かな決意。
(いつか…いつか、ケンタさんに、
この気持ちを、ちゃんと伝えられるようになりたいな…
そして、ケンタさんの隣で、
ずっと一緒に、『ドラゴン便』の夢を追いかけていきたい…)
そんなリリアの秘めた想いを、
工房の隅でニヤニヤしながら見ていたギドさんと、
そして、厩舎の窓からそっと顔を覗かせていた
ピクシー・ドレイクたちが、
面白そうに、しかし温かく見守っていたことを、
リリアはまだ知らなかった。
一方のケンタもまた、
リリアの存在の大きさを、
日増しに強く感じていた。
彼女の優しさ、聡明さ、そして何よりも、
自分と『ドラゴン便』を信じ、
献身的に支えてくれるその姿に、
ケンタの心は、知らず知らずのうちに
強く惹きつけられていたのだ。
(リリアさん…
君は、俺にとって、
ただの協力者じゃない。
かけがえのない、大切な…)
だが、ケンタもまた、
その想いを言葉にすることができずにいた。
今は、まず『ドラゴンステーション』を完成させ、
『ドラゴン便』の事業を軌道に乗せることが最優先だ。
個人的な感情は、まだ胸の奥にしまっておかなければならない。
リンドブルムの空に、
優しい夕焼けが広がっていた。
それは、まるで、
二人の淡く切ない想いを、
静かに包み込んでいるかのようだった。




