第67話 ステーション運営の課題と新たな仲間(?)の影
『ドラゴンステーション・リンドブルム』の建設は、
多くの人々の協力と、
ピクシー・ドレイクたちという小さな英雄たちの活躍により、
驚くべき速さで進捗していた。
リュウガ専用の広大な厩舎はほぼ完成し、
その隣には、ギドさんのための最新鋭の鍛冶工房が、
ドワーフの技術の粋を集めた威容を誇り始めていた。
荷物の仕分けと一時保管を行う倉庫エリアも、
その巨大な骨組みが姿を現し、
俺が夢見た物流拠点の心臓部が、
力強く脈打ち始めているのを感じる。
「いやあ、ケンタさん、
このステーションが完成したら、
リンドブルムは本当に変わりますね!
ヴェリタスからの荷物も、もっとスムーズに受け入れられるし、
近隣の村々への配達も、格段に効率が上がりますよ!」
事務所で、山のような依頼書と格闘しながら、
リリアさんが嬉しそうに声を弾ませる。
彼女は、ステーションの運営計画にも積極的に関わり、
顧客対応の窓口の配置や、
荷物の受付・管理システムのアイデアなどを、
目を輝かせながら俺に提案してくれていた。
その姿は、もはや薬屋の娘ではなく、
有能なビジネスパートナーそのものだ。
「ああ、本当にそうだな。
だが、リリアさん。
ステーションが完成すれば、
俺たちの仕事は、今よりもっと複雑で、
そして責任の重いものになる。
それだけの覚悟は、できているか?」
俺は、少し意地悪な笑みを浮かべて尋ねた。
「もちろんです!」
リリアさんは、きっぱりと胸を張った。
「ケンタさんとリュウガさん、そしてギドさんと一緒なら、
どんな困難だって乗り越えられます!
私、この『ドラゴンステーション』を、
世界一素敵な場所にしてみせますから!」
その瞳には、一点の曇りもない。
彼女のその純粋な熱意が、
俺の心を強く打った。
「ありがとう、リリアさん。
君がいてくれて、本当に心強いよ。
このステーションの運営、
君に色々と任せたいと思っているんだ」
「えっ…私に、ですか…?」
リリアさんは、驚きと戸惑いが入り混じった表情で
俺の顔を見つめた。
「ああ。君の細やかな気配りと、
人々を惹きつける笑顔、
そして何よりも、この『ドラゴン便』を愛する心は、
ステーションの運営に不可欠な力になるはずだ。
もちろん、俺もギドさんも全力でサポートする。
一緒に、最高のドラゴンステーションを作り上げよう」
「ケンタさん…
はいっ! 私、頑張ります!」
リリアさんの瞳に、嬉し涙が滲んだ。
だが、ステーションの完成が近づくにつれて、
新たな課題も浮上してきた。
それは、運営のための『人材不足』だ。
今の俺たち『ドラゴン便』の正規メンバーは、
俺とリリアさん、そしてギドさんだけ。
リュウガとピクシー・ドレイクたちは、
かけがえのない仲間であり、重要な戦力だが、
人間が行うべき事務作業や、
専門的な知識が必要な業務まではこなせない。
増え続ける依頼の処理、
複雑化する荷物の管理、
ステーション内の施設の維持、
そして、将来的な事業拡大を見据えた新しいサービスの開発…。
これら全てを、俺たち数人だけで
回していくのは、どう考えても無理がある。
「うーん、やっぱり人が足りないな…。
特に、俺の代わりにリュウガに乗って、
近距離の配達を担当してくれるような、
信頼できる『ドラゴンライダー』候補が欲しいところだが…
そんな都合のいい人材、そう簡単に見つかるわけも…」
俺が事務所で頭を抱えていると、
不意に、工房の方からギドさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、そこのお前!
何をごそごそと嗅ぎ回っておるか!
怪しい奴め!」
何事かと慌てて工房へ駆けつけると、
そこには、ギドさんに金槌を突きつけられ、
タジタジとなっている一人の男の姿があった。
年の頃は三十代半ばくらいだろうか。
旅慣れたような、少し薄汚れた服装をしているが、
その目つきは鋭く、
どこか掴みどころのない雰囲気を漂わせている。
腰には、使い込まれた短剣を差していた。
「ま、待ってくれ、ドワーフの旦那!
俺は別に怪しいもんじゃねえ!
ただ、このリンドブルムで最近噂の
『ドラゴン便』とかいうのに興味があって、
ちょっと様子を見に来ただけなんだ!」
男は、慌てたように弁解する。
「ドラゴン便に興味、だと?
お前、何者だ?」
俺は、警戒しながら男に尋ねた。
「へへ、俺はただの旅の者さ。
名前は、まあ…クロウとでも呼んでくれ。
色々な街を渡り歩いて、
珍しい品物や情報を集めてる、しがない情報屋みたいなもんだ」
クロウと名乗った男は、
胡散臭い笑みを浮かべて言った。
「それで、あんたたちが、
あのデカい瑠璃色の竜を使って、
とんでもない速さで荷物を運んでるって噂は本当かい?
もし本当なら、俺にも一つ、
儲け話があるんだがねぇ…」
男の目が、怪しく光った。
(こいつ…ただの情報屋じゃないな。
何か裏がある…)
俺は、直感的にそう感じた。
だが、同時に、この男が持つ情報や人脈が、
俺たちの『ドラゴン便』にとって、
何か新しい可能性をもたらしてくれるかもしれないという、
淡い期待も抱いていた。
運送ギルドの残党の影が完全に消えたわけではない。
そんな中で現れた、この謎の男クロウ。
彼は、俺たちにとって、
新たな仲間となるのか、
それとも、新たな脅威となるのか…?
俺は、クロウの胡散臭い笑顔の奥にある
真意を探るように、
じっとその目を見つめ返した。




