第63話 ステーション建設開始と小さな協力者たち
『ドラゴンステーション』の建設地が決定し、
俺たちは、いよいよ本格的な準備に取り掛かった。
まずは、リンドブルム領主アルフォンス侯爵への報告と、
正式な土地使用の許可を得ることだ。
俺は、ギドさんが描いた詳細なステーションの設計図と、
ピクシー・ドレイクたちが見つけてくれた土地の利点をまとめた
報告書を手に、再び領主の館を訪れた。
「ほう、あの丘の麓の牧草地か。
確かに、あそこならば街からも適度に離れており、
竜たちの離着陸にも支障はあるまい。
それに、天然の洞窟を利用するとは、
なかなかの慧眼じゃな、ケンタ殿」
アルフォンス侯爵は、俺の報告に満足そうに頷き、
快く土地の使用を許可してくれた。
さらに、ステーション建設に必要な資材の一部を、
領主家から提供してくれるという、
願ってもない申し出まであった。
本当に、度量の大きな領主様だ。
こうして、俺たちの『ドラゴンステーション』建設プロジェクトは、
ついに現実のものとして動き出した。
建設作業は、ギドさんの指揮のもと、
ドワーフ族ならではの驚くべき速さと正確さで進められていった。
まず、リュウガのための広大な発着場と厩舎の基礎工事が始まる。
ギドさんは、工房から持ち込んだ特殊な道具と、
ドワーフに伝わる測量術を駆使し、
ミリ単位の狂いもなく、地面を均し、杭を打ち込んでいく。
その姿は、まさに建設現場の総監督だ。
俺も、リリアさんも、
できる限り建設作業を手伝った。
俺は、主に力仕事だ。
重い石材を運んだり、木材を加工したり。
前職で鍛えた体力と、
異世界に来てから少しだけマシになった腕力が、
こんなところで役立つとは思わなかった。
リリアさんは、薬屋の仕事の合間を縫って、
作業員たち(ギドさんの知り合いのドワーフや、
日雇いで雇った街の若者たちだ)のために、
美味しい食事や飲み物を差し入れたり、
怪我をした者の手当てをしたりと、
持ち前の優しさと気配りで、現場のムードメーカーとなっていた。
彼女の明るい笑顔は、
過酷な作業で疲れ切った男たちの、
何よりの癒やしになっているようだった。
そして、そんな俺たちの周りを、
ピクシー・ドレイクたちが、
相変わらず興味深そうに飛び回っていた。
最初は、ただ遠巻きに眺めているだけだった彼らだが、
俺たちが親しげに声をかけたり、
時折、甘い蜜や果物をおやつとして与えたりするうちに、
少しずつ警戒心を解き、
俺たちの作業に興味を示すようになってきた。
ある日、ギドさんが小さな金属の部品を落としてしまい、
それが草むらの中に転がり込んで見つからなくなった時だった。
一匹のピクシー・ドレイクが、
まるで何かを察したかのように、
ひらりと草むらの中へ舞い降り、
次の瞬間、その小さな口に部品を咥えて、
ギドさんの手のひらの上にそっと置いたのだ!
「おお! こいつは驚いた!
このチビ竜、なかなか賢いじゃないか!」
ギドさんは、目を丸くして感心したように言った。
それをきっかけに、
ピクシー・ドレイクたちは、
まるで遊びの延長のように、
俺たちの建設作業を手伝い始めた。
小さな釘やネジを運んだり、
高い場所にある道具を取ってきたり、
あるいは、離れた場所にいる作業員へ、
短い伝言を伝えたり…。
その小さな翼と、俊敏な動きは、
意外なほど建設現場で役立ったのだ。
ケンタは、彼らの協力に心から感謝し、
毎日、新鮮な果物や、
リリアさんが特別に作った花の蜜のゼリーなどを
報酬として与えた。
ピクシー・ドレイクたちは、
それを嬉しそうに受け取り、
ますます張り切って手伝ってくれるようになった。
彼らの存在は、
過酷な建設作業の中で、
俺たちにとって大きな癒やしであり、
そして、かけがえのない小さな協力者となっていた。
『ドラゴンステーション』の建設は、
多くの困難も伴ったが、
それ以上に、たくさんの喜びと、
新しい出会いに満ち溢れていた。
リュウガは、日に日に形になっていく自分の新しいねぐらを、
誇らしげに、そして嬉しそうに眺めていたし、
ギドさんは、ドワーフの技術の粋を集めた工房の完成を
心待ちにしているようだった。
リリアさんも、お客さんを迎えるためのカウンターや、
薬草を保管するための特別な棚のアイデアを、
楽しそうに俺に話してくれた。
俺たちの夢が、
少しずつ、しかし確実に形になっていく。
その手応えが、俺の胸を熱くする。
だが、そんな俺たちの希望に満ちた日々を、
快く思わない者たちの影が、
再び忍び寄ってきていることにも、
俺たちは、まだ気づいていなかった…。




