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第61話 領主への直談判

俺は翌日、

リンドブルムの領主、

アルフォンス・フォン・リンドブルム侯爵の館へと

足を運んだ。


もちろん、アポイントメントなんて洒落たものはない。

しがない運び屋の若造が、

一地方を治める大貴族にそう簡単に会えるはずもない。

門前払いを食らうのが関の山だろう。

だが、俺には、

この『ドラゴンステーション』構想を

どうしても領主様に直接伝えたいという、

燃えるような思いがあった。


「ドラゴン便のケンタと申します!

リンドブルムの未来に関わる重要なお話があり、

アルフォンス様にお目通りを願いたく参上いたしました!」


俺は、立派な門構えの前で、

できるだけ大きな、そして誠意のこもった声で叫んだ。

門番の兵士たちは、

俺の場違いな格好と、

あまりにも突拍子もない申し出に、

訝しげな顔で顔を見合わせている。


「領主様はご多忙である!

平民風情が、そう気安くお会いできる方ではない!

日を改めて出直すがよい!」

一人の兵士が、槍の柄で俺を追い払おうとする。


(くそっ、やはりダメか…!)

俺が諦めかけて、肩を落としかけた、その時だった。


「…待て。その者を通せ」


凛とした、しかしどこか威厳のある声が、

門の奥から響いてきた。

兵士たちが慌てて道を開けると、

そこには、細身ながらも隙のない立ち姿の、

初老の紳士が立っていた。

おそらく、領主様の側近か、執事のような立場の人だろう。


「ドラゴン便のケンタ殿ですな?

領主様が、あなたのお話を一度聞いてみたいと仰せです。

こちらへどうぞ」

紳士は、感情の読めない目で俺を一瞥すると、

静かに館の中へと案内してくれた。


通されたのは、

これまでの俺の人生ではおよそ縁のなかった、

豪華絢爛な応接室だった。

磨き上げられた床、

壁にかけられた高価そうな絵画、

そして、部屋の中央には、

重厚な彫刻が施された大きな執務机。

その向こうに、

リンドブルムの領主、アルフォンス侯爵が、

静かに座っていた。


年の頃は五十代半ばだろうか。

白髪混じりの髪を後ろでまとめ、

落ち着いた色合いの上質な服を身にまとっている。

その顔には、貴族特有の厳格さと、

しかしそれだけではない、

民を思う為政者としての深い思慮が刻まれているように見えた。

その鋭い、しかしどこか温かい眼差しが、

俺をじっと見据えている。


「…よく来たな、ドラゴン便のケンタとやら。

お前の噂は、かねがね耳にしている。

ゴードンの悪事を暴き、

このリンドブルムに新たな風を吹き込んだ若者だと」

アルフォンス侯爵の声は、

穏やかだが、有無を言わせぬ響きを持っていた。


「は、はい!

本日は、お忙しい中お時間をいただき、

誠にありがとうございます!」

俺は、緊張でカチコチになりながらも、

必死で頭を下げた。

社畜時代に培った、

上司への完璧な土下座スキルが、

こんなところで役立つとは…。


「それで、リンドブルムの未来に関わる重要なお話とやらを、

聞かせてもらおうか」

侯爵は、興味深そうに俺を促した。


俺は、ゴクリと唾を飲み込み、

震える手で、懐から『ドラゴンステーション設計図(第一次案)』の

羊皮紙を取り出した。

そして、このリンドブルムの地に、

アースガルド大陸初の物流拠点…

『ドラゴンステーション』を建設したいという、

俺の壮大な夢を、

熱意を込めて語り始めた。


荷物の集荷・仕分け・保管・発送を効率的に行うための倉庫。

リュウガや、将来仲間になるかもしれない他のドラゴンたちが

安心して休息できる厩舎と訓練場。

ギドさんのための最新の鍛冶工房。

リリアさんのための機能的なオフィスと顧客待合室。

そして、それら全てを繋ぎ、

リンドブルムを物流の中心地へと変貌させるという、

未来への展望を。


俺の拙い説明を、

アルフォンス侯爵は、腕を組み、

時折鋭い質問を挟みながらも、

最後まで静かに聞いてくれた。

その表情は、最初は訝しげだったが、

次第に驚きと、そして強い関心の色へと変わっていくのが分かった。


全て話し終えた後、

応接室には、しばしの沈黙が流れた。

俺は、緊張で、心臓が張り裂けそうだった。


やがて、侯爵は、

ふぅ、と大きなため息をついた。


「…ケンタ殿。

お前の話は、正直に言って、

途方もなく、そしてあまりにも大胆だ。

だが…」

侯爵は、そこで言葉を切り、

俺の目をまっすぐに見つめた。

「同時に、このリンドブルムの未来にとって、

計り知れないほどの可能性を秘めているとも感じた。

ゴードン亡き後、

この街の物流が停滞しつつあるのは事実。

お前の『ドラゴン便』と、

その『ドラゴンステーション』構想は、

まさに、その閉塞感を打ち破る起爆剤になるやもしれん」


「で、では…!」

俺の顔に、パッと希望の色が浮かぶ。


「うむ。よかろう。

この計画、リンドブルム領主として、

全面的に支援させてもらおう」


「ほ、本当ですか!?」

俺は、信じられないという顔で侯爵を見つめた。

まさか、これほどあっさりと許可が下りるとは…!


「ただし、条件がある」

侯爵は、悪戯っぽく片方の眉を上げた。

「まず、その『ドラゴンステーション』の建設と運営は、

あくまでお前たち『ドラゴン便』の責任において行うこと。

領地からの資金援助は最小限とし、

基本的にはお前たちの力で成し遂げてもらいたい。

それが、真の自立と発展に繋がるはずだ」


「はい! もちろんです!」


「次に、ステーションの建設場所だが…

いくつか候補地はある。

だが、最終的な選定は、

お前自身が、その『竜の目』で確かめ、

最も適した場所を選ぶがよい。

ただし、リンドブルムの民の生活や、

既存の街道との調和も十分に考慮すること」


「肝に銘じます!」


「そして、最後に…

これは条件というより、わしからの願いだがな」

侯爵は、少しだけ優しい表情になった。

「その『ドラゴンステーション』が完成した暁には、

このリンドブルムだけでなく、

アースガルド大陸全体の平和と繁栄のために、

その翼を役立ててほしい。

お前たちの力は、それだけの可能性を秘めていると、

わしは信じている」


「…はい!

必ずや、ご期待に応えてみせます!」

俺は、胸に込み上げてくる熱いものを感じながら、

深々と頭を下げた。


こうして、俺たちの『ドラゴンステーション』建設計画は、

リンドブルム領主アルフォンス侯爵という、

これ以上ないほど強力な後ろ盾を得て、

ついに、現実のものとして動き出すことになったのだ。


だが、それは同時に、

新たな、そしてより大きな責任と困難の始まりでもあった。


館を辞去する俺を、

先ほどの初老の紳士が見送ってくれた。

「ケンタ殿、期待しておりますぞ。

もし何か困ったことがあれば、いつでも私を頼られよ。

私は、フィンレイ・グレイと申す。

以後、お見知りおきを」

フィンレイと名乗った紳士は、

意味深な笑みを浮かべて言った。

彼もまた、俺たちの未来に何かを感じているのかもしれない。


事務所に戻り、

リリアさんとギドさんに結果を報告すると、

二人は、最初は信じられないという顔をしていたが、

やがて、大きな歓声を上げて喜びを爆発させた。


「やったな、小僧!

お前の熱意が、あの石頭の領主を動かしたか!」

ギドさんは、珍しく上機嫌で俺の肩を叩いた。


「すごいです、ケンタさん!

これで、私たちの夢が、また一歩現実に近づきましたね!」

リリアさんの瞳は、

嬉し涙でキラキラと輝いていた。


その夜、俺たちの事務所では、

ささやかな、しかし希望に満ちた祝宴が開かれた。


だが、俺の心の中には、

喜びと共に、新たな課題も生まれていた。

領主様から提示された、建設用地の選定。

そして、莫大な建設資金の調達。

『ドラゴンステーション』完成への道は、

まだ始まったばかりなのだ。


そして、その頃…。

リンドブルムの森の奥深くでは、

俺たちが以前出会った、

小さな翼を持つピクシー・ドレイクたちが、

何やら楽しげに空を舞いながら、

ケンタたちの事務所の方角を、

興味深そうに見つめていたという…。

彼らが、やがて『ドラゴンステーション』の

最初の小さな協力者となることを、

この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。

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