第59話 風の噂と、小さな翼との出会い
リュウガの負担を少しでも減らしたい。
そして、『ドラゴン便』の可能性をさらに広げたい。
そんな想いを胸に、
俺は、リュウガ以外のドラゴンとの出会いを
密かに模索し始めていた。
もちろん、そう簡単に見つかるものではない。
ドラゴンは、この世界でも伝説に近い存在だ。
人里離れた山奥や、
険しい渓谷の奥深くに棲んでいると言われ、
その姿を見た者は少ない。
ましてや、心を通わせるなど、
夢物語に近いだろう。
それでも、俺は諦めきれなかった。
スキルウィンドウのマップ機能を頼りに、
配達の合間を縫って、
リュウガと共にリンドブルム近郊の
これまで足を踏み入れたことのないような
山深い場所や、鬱蒼とした森の奥へと
探索の範囲を広げていた。
「なあ、リュウガ。
この辺りに、お前の仲間とか、
あるいは、お前とは違う種類のドラゴンとか、
いないかな…?」
俺の問いかけに、
リュウガは、首を傾げながら「グルゥ?」と不思議そうな声を出す。
彼にとっても、他のドラゴンとの接触は、
もしかしたら初めての経験なのかもしれない。
そんな探索行が数日続いたある日のことだった。
俺たちは、リンドブルムの北東に広がる、
『囁きの森』と呼ばれる、
普段は人も魔獣もあまり寄り付かないような
静かな森の上空を飛行していた。
その日は、特に配達の依頼もなく、
リュウガの飛行訓練も兼ねてのんびりとした偵察だった。
(やっぱり、そう簡単には見つからないよな…)
俺が諦めかけて、
リンドブルムへ引き返そうとした、その時だった。
「ピィ! ピィィ!」
不意に、甲高い、
しかしどこか可愛らしい鳴き声が、
森の木々の間から聞こえてきた。
それは、鳥の鳴き声とは明らかに違う、
もっと金属的で、
そして知性を感じさせるような響きだった。
「ん? なんだ、今の声…?」
俺はリュウガに合図し、
音のした方へとゆっくりと高度を下げていく。
リュウガも、興味深そうに鼻をくんくんと鳴らしている。
木々の葉が途切れた、小さな開けた場所。
そこに、そいつらはいた。
体長は、人間の子供くらいだろうか。
羽毛ではなく、
まるで蝶の翅のように薄く、
虹色にきらめく美しい膜状の翼を持つ、
小さな、小さなドラゴンの群れだった。
その数は、十数匹。
彼らは、まるで戯れるように、
楽しそうに空中でくるくると舞い踊り、
時折、甲高い鳴き声を上げている。
(こ、これは…!
ドラゴン…なのか…?
こんなに小さいドラゴンがいるなんて、
聞いたことがないぞ…!)
俺は、息を呑んでその光景を見つめた。
彼らは、俺たちが知るドラゴンのような威圧感はなく、
むしろ、森の妖精か何かのように、
可憐で、そしてどこか神秘的な雰囲気を漂わせている。
『ピクシー・ドレイク…
風の噂で聞いたことがある。
悪戯好きで、人懐っこいとも言われるが、
滅多に人前に姿を現さない、幻の小型竜だ…』
ギドさんの言葉が、ふと脳裏をよぎった。
俺たちが近づいたことに気づいたのか、
ピクシー・ドレイクたちは、
一斉に警戒したように動きを止め、
こちらをじっと見つめてきた。
その小さな瞳は、
好奇心と、そしてほんの少しの警戒心で揺れている。
「グルゥ…」
リュウガが、彼らを威嚇しないように、
穏やかに、そして優しく一声鳴いた。
まるで、「俺たちは敵じゃないよ」と
語りかけているかのようだ。
ピクシー・ドレイクたちは、
リュウガのその態度に少しだけ安心したのか、
警戒しながらも、その場から逃げ出す様子はない。
俺は、リュウガの背中からそっと降り、
ゆっくりと両手を広げて、
敵意がないことを示した。
「やあ、こんにちは。
驚かせてごめんね。
俺はケンタ。こっちは、相棒のリュウガだ」
言葉が通じるかどうかは分からない。
だが、俺は精一杯の誠意を込めて、
彼らに語りかけた。
ピクシー・ドレイクたちは、
互いに顔を見合わせるようにして、
「ピィ?」「キュル?」と不思議そうな鳴き声を上げている。
俺は、懐から、
リュウガのおやつ用に持っていた干し肉のかけらを
いくつか取り出し、
地面にそっと置いた。
「お腹、空いてないかい?
よかったら、どうぞ」
ピクシー・ドレイクたちは、
干し肉と俺の顔を交互に見比べ、
しばらく躊躇していたが、
やがて、一匹の、
ひときわ小さな個体が、
おそるおそるといった感じで近づいてきて、
干し肉をちょこんと咥えると、
嬉しそうに「ピィ!」と一声鳴いて、
仲間たちの元へと飛んで帰っていった。
それをきっかけに、
他のピクシー・ドレイクたちも、
次々と地面に降り立ち、
夢中で干し肉を食べ始めた。
その姿は、まるで小鳥のようで、
見ているだけで心が和む。
(こいつらなら…
もしかしたら、俺たちの仲間になってくれるかもしれない…)
俺は、そんな淡い期待を抱きながら、
小さな翼で空を舞う、
愛らしいピクシー・ドレイクたちの姿を、
リュウガと共に、静かに見守っていた。




