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第51話 ゴードンの焦燥

マードック氏からの通信は、

まるで乾ききった大地に降り注ぐ恵みの雨のように、

俺たちの心に希望と活力を与えてくれた。


ヴェリタス商業連合が、

正式にリンドブルムの領主に対して、

運送ギルドの不正調査とゴードンの処罰を要求する――

これほど心強い追い風はない。


「やった…!

ケンタさん、やりましたね…!」


リリアさんは、通信機を握りしめる俺の隣で、

喜びのあまり、再び涙を浮かべていた。

その涙は、もう不安や恐怖の色ではなく、

確かな希望の輝きを宿している。


「フン、あのヴェリタスの商人も、

なかなか骨のある男じゃないか。

これで、ゴードンのクソ野郎も、

少しは肝を冷やしたことだろうよ」


ギドさんも、満足そうに大きく頷きながら、

修理していた『ドラゴンギア』の部品を、

いつもより少しだけ優しい手つきで磨いている。

その口元には、珍しく笑みが浮かんでいた。


俺は、通信機をそっと岩棚に置いた。

まだ、戦いが終わったわけではない。

むしろ、マードック氏の言う通り、

追い詰められたゴードンが、

なりふり構わず最後の抵抗を試みてくる可能性が高い。


「ああ、油断はできない。

だが、俺たちには強力な味方が現れた。

これは、大きな前進だ」

俺は、二人に向き直り、力強く言った。

「ゴードンがどんな手で来るにしても、

俺たちは、これまで通り、

いや、これまで以上に結束して立ち向かうんだ」


「はい!」

「おう!」


リリアさんとギドさんの力強い返事が、

洞窟の中に響き渡った。

その声には、もう迷いも恐れもない。

あるのは、仲間への信頼と、

悪を許さないという強い意志だけだ。


それから数日間、

俺たちは、ヴェリタスからの正式な動きを待ちながら、

それぞれがやるべきことに集中した。


リュウガの翼の傷は、

リリアさんの献身的な看病と、

ギドさんの秘薬のおかげで、

目に見えて回復していった。

もう、洞窟の中で窮屈そうにしているだけでなく、

時折、俺を乗せて隠れ家の周辺の森を、

ゆっくりとではあるが、

楽しそうに飛び回るまでになっていた。

その力強い羽ばたきを見るたびに、

俺の胸には、熱いものが込み上げてくる。

こいつとなら、どこまでも飛んでいける。

そんな確信が、日に日に強くなっていた。


ギドさんは、

『ドラゴンギア Lv.1 改』の最終調整と、

俺が頼んでいた「秘密兵器」の開発に没頭していた。

工房から持ち込んだ様々な道具や素材が、

洞窟の一角で火花を散らし、

金属のぶつかり合う音が響く。

その姿は、まさに戦いに備える老練な戦士のようだった。


「小僧、これを見てみろ」

ある日、ギドさんが、

目を爛々と輝かせながら俺に手渡したのは、

リュウガの爪に取り付けることができる、

鋭く磨き上げられた金属製の鉤爪と、

そして、鞍の側面に装着できる、

小型の連続式『黒煙弾』発射装置だった。


「こいつがあれば、

空での戦いも、少しは有利になるはずだ。

まあ、使わんですむのが一番だがな」

ギドさんは、そう言ってニヤリと笑った。

その顔には、確かな自信が漲っている。


そして、リリアさんは…。

彼女は、薬屋の仕事を手伝いながらも、

これまで以上に精力的に街の情報を集め、

そして、ギルドの悪評を打ち消すための

地道な活動を続けていた。


「ケンタさん、聞いてください!

最近、街の広場で、

『ドラゴン便は本当に危険なのか?』って、

商人たちが話し合っているのをよく見かけるんです。

中には、『俺はドラゴン便に助けられた』って、

声を大にして言ってくれる人もいて…!」

リリアさんは、興奮した様子で報告してくれた。

彼女の小さな勇気が、

確実にリンドブルムの風向きを変え始めているのだ。


俺自身は、

スキルウィンドウの情報を駆使し、

ゴードンの動きを常に監視し続けていた。

奴は、表向きは平静を装っているが、

水面下では、何やら不穏な動きを見せている。

衛兵隊長との密会。

怪しげな傭兵らしき者たちのリンドブルムへの出入り。

そして、俺たちの隠れ家を探ろうとするような、

執拗なまでの探索行…。


(ゴードンめ…

追い詰められて、焦っているのは間違いない。

だが、奴が最後にどんな手を打ってくるか…

それが問題だ)


そして、ついに、その時は来た。


ヴェリタス商業連合からの正式な使節団が、

リンドブルムの領主の元へ到着したという知らせが、

街を駆け巡ったのだ。

使節団は、運送ギルドの不正に関する詳細な調査報告書と、

ゴードンの処罰を求める厳重な抗議文を提出したという。


リンドブルムの街は、

一瞬にして騒然となった。

これまで絶対的な権力を持っていた運送ギルドの悪事が、

白日の下に晒されようとしているのだ。

市民たちは、驚きと怒り、

そしてほんの少しの期待を込めて、

事の成り行きを固唾を飲んで見守っていた。


「やった…!

ついに、ヴェリタスが動いてくれた…!」

俺は、リリアさんがもたらしたその知らせに、

思わず拳を握りしめた。


だが、その直後だった。


ギドさんが設置した、

洞窟の入り口の警報装置が、

けたたましい警告音を発したのだ!


「敵襲だ!!」

ギドさんの怒号が、洞窟に響き渡る!


俺たちが外へ飛び出すと、

そこには、信じられない光景が広がっていた。


数十人を超える、完全武装したギルドの私兵たち。

そして、その先頭には、

怒りと憎悪に顔を歪ませた、

ゴードンの姿があった。


「見つけたぞ、ドラゴン便の小僧ども…!

そして、その忌々しいドラゴンもな…!」

ゴードンの声は、

まるで地獄の底から響いてくるかのように、

冷たく、そして殺意に満ちていた。


「ヴェリタスの小賢しい真似も、ここまでだ!

お前たちと、その証拠を全て闇に葬り去り、

このリンドブルムは、再び俺の手に戻るのだ!」


ゴードンは、高らかにそう宣言すると、

私兵たちに攻撃開始の合図を送った!


矢が雨のように降り注ぎ、

剣と剣がぶつかり合う甲高い音が響き渡る!


ついに、最後の戦いの火蓋が切って落とされたのだ!


俺は、リュウガの背に跨り、

ギドさん特製の剣を抜き放った!

リリアさんも、薬草の知識を活かし、

支援の準備を整えている!


「行くぞ、リュウガ!

俺たちの、そしてリンドブルムの未来のために!」


「グルルルルルァァァァァッ!!」


リュウガの雄叫びが、

リンドブルムの空に、高らかに響き渡った。

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