第29話 明かされた秘密と仲間たちの結束
「くそっ…!
やられた…!」
リュウガの存在が、
ついに運送ギルドの男に目撃されてしまった。
スケッチまで取られたとなると、言い逃れはできない。
ゴードンたちの耳に入るのも時間の問題だろう。
いや、もう入っているかもしれない。
俺はリュウガに跨り、
全速力でリンドブルムの街へと引き返した。
一刻も早くリリアさんとギドさんにこの危機的状況を伝え、
対策を練らなければならない。
「リリアさん!
大変だ!」
集荷ポイントの小屋に駆け込むと、
リリアさんが驚いた顔で俺を迎えた。
「ケンタさん!?
どうしたんですか、そんなに慌てて…!
リュウガさんは?」
「リュウガは森に隠してある!
それより、聞いてくれ!
運送ギルドの奴に…リュウガを見られた!
スケッチまで取られちまったんだ!」
俺の言葉に、
リリアさんの顔からサッと血の気が引いた。
「そ、そんな…!
リュウガさんが…?
大丈夫なんですか!?」
「ああ、リュウガは無事だ。
だが、俺たちの最大の秘密がバレた。
これからギルドがどう出てくるか…」
俺たちはすぐにギドさんの工房へ向かった。
道中、リリアさんは不安そうに何度も後ろを振り返っていた。
工房の扉を叩きつけるように開けると、
ギドさんが金槌を片手に、
何事かと顔を上げた。
「なんだ小僧!
今度は何の騒ぎだ!?」
「ギドさん!
大変なんです!
リュウガが…リュウガがギルドの奴に見つかりました!」
リリアさんが震える声で説明する。
ギドさんは最初、
眉間に皺を寄せて黙って聞いていたが、
事の重大さを理解すると、
その表情は険しいものへと変わった。
「…やはり、嗅ぎつけられたか。
ゴードンのような強欲な男が、
お前たちの急成長を黙って見過ごすはずがなかったからな」
ギドさんは金槌を置き、腕を組んだ。
その目には、いつになく真剣な光が宿っている。
「どうするつもりだ、小僧?
奴らは、その『ドラゴン』とやらを、
ただでは済まさんぞ。
捕らえて見世物にするか、
あるいはもっと悪質なことに利用しようとするかもしれん」
ギドさんの言葉は、
俺の最悪の想像を裏付けるものだった。
「俺だって、そんなことはさせません!
リュウガは俺の大事な相棒で、仲間なんです!」
俺は拳を握りしめて叫んだ。
「ケンタさんの言う通りです!
リュウガさんは、私たち『ドラゴン便』にとって、
かけがえのない存在です!
何としても守らないと!」
リリアさんも、不安を押し殺すように、
強い口調で言った。
「フン、威勢だけはいいがな」
ギドさんは鼻を鳴らした。
「だが、具体的にどうする?
奴らは組織だ。
お前たち二人と竜一頭で、
何ができるというんだ?」
ギドさんの言葉は冷たいが、
的を射ている。
感情だけでは、この危機は乗り越えられない。
「まずは、リュウガの隠れ家を変えましょう。
今の場所はもう安全じゃない」
俺は提案した。
「もっと森の奥深く、
簡単には人が立ち入れないような場所を探さないと」
「それから、今後の飛行ルートも見直す必要があります。
できるだけ人目につかないように、
夜間や早朝の飛行を増やすとか…」
リリアさんが続ける。
「それだけじゃ足りん」
ギドさんが口を挟んだ。
「奴らが本気で竜を狙うなら、
隠れ家を見つけ出すのも時間の問題だ。
何らかの『防御策』も必要になるだろう」
「防御策…ですか?」
「ああ。
例えば、隠れ家の周囲に簡単な罠を仕掛けるとか、
あるいは…わしが何か、
奴らを寄せ付けんようなカラクリでも作ってやるか…」
ギドさんの言葉に、
俺とリリアさんは顔を見合わせた。
頑固なドワーフが、ここまで協力的になってくれるとは…。
「ギドさん…!
本当にいいんですか!?」
「勘違いするな。
わしは、お前たちのためじゃない。
あの瑠璃色の竜が、
くだらん人間の欲の犠牲になるのが気に入らんだけだ。
それに…」
ギドさんは少し目を伏せた。
「昔、わしも…いや、なんでもない」
ギドさんの過去に何があったのかは分からない。
だが、彼の言葉には、
ドラゴンへの複雑な想いが込められているように感じられた。
「ありがとうございます、ギドさん!
心強いです!」
俺は深々と頭を下げた。
「それで、具体的にギルドはどう出てくると思いますか?」
リリアさんが不安そうに尋ねる。
「考えられるのはいくつかあるな」
俺は腕を組んで答えた。
「一つは、リュウガを直接捕獲しようとする。
そのためには、それなりの手練れを雇ってくるだろう。
もう一つは、リュウガの存在を公にして、
俺たちを社会的に追い詰めようとする。
『危険なドラゴンを無許可で使役している』とか、
そういう噂を流してな。
あるいは、その両方か…」
「どちらにしても、
厄介なことには変わりありませんね…」
リリアさんがため息をつく。
「ああ。だが、俺たちにはやるべきことがある」
俺は二人の顔をまっすぐに見た。
「ヴェリタスのマードックさんとの契約は、
絶対に守り抜かなければならない。
あれは、『ドラゴン便』にとって大きな希望だ。
それに、俺たちのサービスを待ってくれている人たちが、
このリンドブルムにはたくさんいるんだ」
俺の言葉に、リリアさんもギドさんも、
静かに頷いた。
「そうですね…。
私、マードックさんとの契約書、
もう一度しっかり確認しておきます。
何か、私たちに不利な条項がないか…」
リリアさんが言う。
「わしは、早速リュウガの新しい隠れ家の候補地を探して、
防御策の設計に取り掛かる。
それと、お前たちのギアも、
少しはマシなものに改良してやらんとな。
いざという時に、逃げる足くらいは確保しておかんと」
ギドさんがぶっきらぼうに、しかし頼もしく言った。
「ありがとうございます、二人とも!」
俺は、胸が熱くなるのを感じた。
一人じゃない。
信頼できる仲間がいる。
この危機も、きっと乗り越えられるはずだ。
「よし、決まりだな!
まずはリュウガの安全確保!
それから、ギルドの動きを探りつつ、
ヴェリタスとの定期便の準備を進める!
どんな手を使ってきても、
俺たちの『ドラゴン便』は絶対に潰させない!」
俺の宣言に、リリアさんとギドさんも力強く頷いた。
その夜、俺たちはリュウガを連れて、
ギドさんが目星をつけてくれた森の奥深く、
切り立った崖に囲まれた小さな洞窟へと移動した。
そこは、空からでなければ近づくのが難しい、
まさに天然の要害だった。
「ここなら、しばらくは安全だろう」
ギドさんは、洞窟の入り口にいくつかの仕掛けを
施しながら言った。
「リュウガ、少しの間、
窮屈かもしれないが我慢してくれな」
俺が声をかけると、リュウガは「グルゥ」と小さく鳴き、
俺の頬にそっと鼻先を寄せた。
その温もりが、俺に勇気を与えてくれる。
運送ギルドという大きな影が、
確実に俺たちに迫ってきている。
だが、俺たちの結束は、この危機を乗り越えるための、
何よりも強い武器になるはずだ。




