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第26話 雨雲を裂く知恵と新たな契約の光

前夜、リリアさんの温かい薬草茶と励ましで

少しだけ心が軽くなった俺は、

翌朝、新たな決意を胸にギドさんの工房へと向かった。


課題は山積みだが、

一つ一つ解決していくしかない。


「ギドさん!

おはようございます!

ちょっと相談したいことがあるんですが!」


工房の扉を叩くと、

中からいつものように不機嫌そうな声が返ってきた。


「朝っぱらから騒々しい小僧だな!

…何の用だ?

また面倒事か?」


ギィィ、と重い扉が開き、

顔を出したのはやはり汗だくで金槌を握るギドさんだった。

その目には「また厄介事を持ち込んできたな」と

言わんばかりの警戒心が浮かんでいる。


「ええ、まあ…

面倒事と言えばそうなんですが、

俺たち『ドラゴン便』にとっては死活問題でして」


俺は苦笑いしながら、

工房の中へ招き入れられた。

炉の熱気がむわっと顔を撫でる。


「昨日、雨の中を飛んだんですが、

リュウガも俺もびしょ濡れで…。

荷物はなんとか無事でしたが、

いつまでもこのままじゃマズいんです。

雨風から荷物を守るためのカバーとか、

リュウガの視界を確保するための何かとか、

ギドさんの知恵を貸していただけませんか?」


俺が真剣な顔で頼み込むと、

ギドさんは大きなため息をついた。


「フン、ようやく気づいたか、この鈍感小僧が。

空を飛ぶということは、

天候との戦いでもあるんだぞ。

そんな初歩的なことも分からんとは、

聞いて呆れるわい」


相変わらず口は悪いが、

その言葉にはどこか「やっと相談に来たか」という

ニュアンスも感じられる。


「それで、具体的にはどんなもんが欲しいんだ?

言っておくが、わしの技術は安くないぞ」


ギドさんは作業台に腰掛け、

腕を組んで俺を見た。


「まず、荷物カゴを覆う防水カバーですね。

軽くて丈夫で、簡単に着脱できるものがいいです。

それから、リュウガの目元を保護する風防みたいなものも…。

高速で飛ぶと、雨粒が直接目に当たって辛そうなんです」


(現代のバイクのヘルメットシールドや、

飛行機のキャノピーみたいなものがあれば最高なんだが…

この世界の素材でどこまで再現できるか…)


俺の要望を聞いたギドさんは、

しばらく顎髭を捻りながら考え込んでいた。


「ふむ…防水カバーか。

ワイバーンのなめし革に、

特殊な油を何層にも塗り重ねれば、

かなりの防水性と耐久性が得られるだろう。

着脱式にするなら、ミスリル銀の留め具を使うか…

高くつくぞ?」


「お願いします!

安全には代えられませんから!」


「竜の風防ねぇ…

透明で頑丈な素材か。

…ふむ、磨き上げた水晶板を湾曲させてみるか?

あるいは、特定の魔獣の甲殻を使うという手もあるな。

視界の確保と強度、どちらを優先するかだ」


ギドさんはブツブツと独り言のように呟きながら、

羊皮紙にいくつかのデザイン案をスケッチし始めた。

その姿は、まさにマッドサイエンティスト…

いや、偏屈だが腕は確かな発明家だ。


「それと、ギドさん。

もう一つお願いが…。

今の『ドラゴンギア Lv.1』のハーネスなんですが、

もう少しリュウガの体にフィットするように

改良できませんか?

最近、少し窮屈そうにしている時があって…」


「なにぃ?

あのギアは、お前たちのために急ごしらえで、

しかも余り物で作ってやったもんだぞ!

文句があるなら使うな!」


ギドさんがカッと目を見開く。

しまった、言い方が悪かったか。


「い、いえ!

文句だなんて滅相もありません!

あのギアのおかげで、

俺たちはどれだけ助かっているか!

ただ、リュウガの負担を少しでも減らしてやりたいんです。

あいつは俺にとって、かけがえのない相棒ですから…」


俺が必死に頭を下げると、

ギドさんはふいと顔をそむけた。


「…フン。

分かったような口を利きおって。

…まあ、竜の体の成長も考慮して、

多少の調整機構はつけてやってもいい。

だが、本格的な改良は、

例の『Lv.2』の素材が揃ってからだ。

それまでは、この試作品で我慢しろ」


「はい!

十分です!

ありがとうございます、ギドさん!」


なんだかんだ言いつつも、

ギドさんは俺たちのことを気にかけてくれている。

その不器用な優しさが、少し嬉しかった。


ギドさんの工房を後にした俺は、

次にリリアさんの薬屋へ向かった。

リュウガの食費問題について、

彼女が提案してくれた牧場の件を進めるためだ。


「リリアさん、昨日はありがとう。

おかげで、少し元気が出たよ」


「ケンタさん!

よかったです。

それで、ギドさんには相談できましたか?」


店先で薬草を整理していたリリアさんが、

笑顔で迎えてくれた。


「ああ、なんとかなりそうだ。

それで、リリアさんにお願いしたいのは、

リュウガの食費のことなんだけど…」


俺が切り出すと、

リリアさんは心得たとばかりに頷いた。


「はい!

実は、今朝、父に頼んで牧場を経営している

村の知り合いに手紙を出してもらったんです。

『大きなペットを飼い始めた友人がいて、

お肉を定期的に分けてもらえないだろうか』って。

もちろん、リュウガさんのことは伏せてありますけど」


「本当か!

仕事が早いな、リリアさんは!

ありがとう!」


「いえいえ!

私にできることなんて、これくらいですから。

でも、直接交渉した方がいいかもしれないので、

近いうちに一度、その村へ行ってみませんか?

私も一緒に行きますから」


「ぜひお願いしたい!

リュウガの食費は、今一番の悩みどころだからな…」


リリアさんの行動力には本当に頭が下がる。

彼女の協力がなければ、『ドラゴン便』は

とっくに立ち行かなくなっていただろう。


その日の午後、

俺は数件の配達をこなしながら、

スキルウィンドウの分析に没頭していた。


(飛行ログとマップ機能を照らし合わせると、

このルートは午前中の方が気流が安定しているな…)


(顧客管理機能…

Aさんは急ぎの依頼が多い。

Bさんは割れ物の依頼が多いから、

梱包に特に注意が必要だ…)


(収支計算…

やっぱりリュウガの食費が突出してるな。

ギルドからの嫌がらせでキャンセルも出てるし、

今月は赤字ギリギリか…?)


『異世界物流システム Lv.2』は、

単なるナビゲーションツールではない。

経営戦略を立てる上でも、

非常に強力な武器になる。

俺は前職で培ったデータ分析のスキル

(というほど大したものでもないが)を活かし、

より効率的な運営方法を模索する。


(そうだ、ヴェリタスの商人から定期便の話があったな。

あれが実現すれば、収入はかなり安定するはずだ。

早速、具体的な条件を詰めるための手紙を書こう)


俺は小屋に戻ると、

羊皮紙とインクを取り出し、

ヴェリタスの商人へ宛てて手紙を書き始めた。

輸送できる品目、頻度、料金体系、

そして国境での手続きについて、

こちらの希望と提案を具体的に記す。

もちろん、返事はリュウガに運んでもらうつもりだ。

これぞ『ドラゴン便』の有効活用。


そんなある日の夕方、

集荷ポイントの片付けをしていたリリアさんが、

少し強張った表情で俺の元へやってきた。


「ケンタさん…

さっき、見慣れない男の人が、

集荷ポイントの周りをうろついて、

私に色々聞いてきたんです。

『ドラゴン便は本当に速いのか』とか、

『どんな荷物を運んでいるのか』とか…

なんだか、探られているような感じで…」


「なんだと!?

そいつはどんな格好だった?

何か特徴は?」


俺の顔色が変わる。

運送ギルドの影が、またちらつき始めた。


「えっと…

普通の旅人みたいな格好でしたけど、

目が鋭くて、しつこく色々聞いてくるので、

少し怖かったです…。

私、適当にはぐらかしておきましたけど…」


「そうか…ありがとう、リリアさん。

よくやった。

これからは、少しでも怪しいと思ったら、

すぐに俺かギドさんに知らせてくれ。

絶対に一人で対応しようとするなよ」


「はい…」


リリアさんの声は少し震えていた。

彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


(ギルドの連中、

今度は情報収集に切り替えてきたか…?

リュウガの存在を嗅ぎつけられたら、

全てが終わる…)


俺は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


表立った妨害が減ったからといって、

安心している場合ではなかった。

敵は、より巧妙に、より執拗に、

俺たちの秘密を探ろうとしている。


「リュウガ…

俺たちがもっと強くならないと、

お前を守れないかもしれないな…」


その夜、俺はリュウガの大きな体に寄りかかりながら、

静かに語りかけた。

リュウガは俺の不安を感じ取ったのか、

優しく鼻先をすり寄せてくる。


雨雲の先には青空が広がっていると信じたい。

だが、その前に、乗り越えなければならない嵐が、

また近づいてきているのかもしれない。

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