第24話 帰還と迫りくる現実
王都の喧騒を背に、
俺は早足でリュウガを待たせている森へと向かった。
懐には、ずしりと重い金貨の袋。
宮廷魔術師からの報酬だ。
「ふぅ…正直、生きた心地がしなかったぜ」
独りごちながらも、口元は自然と緩む。
危険な依頼だったが、その見返りはあまりにも大きい。
これがあれば、『ドラゴン便』の運営資金にも余裕ができるし、
ギドさんへの新しい装備開発の依頼も本格的に考えられる。
森に入り、合図を送ると、
すぐに茂みの奥からリュウガが姿を現した。
「グルゥ…」
俺の無事な姿を見て、
安心したように鼻先をすり寄せてくる。
その仕草に、張り詰めていたものがふっと解けるのを感じた。
「ただいま、リュウガ!
やったぞ、大成功だ!
お前のおかげだよ」
俺はリュウガの首筋を思い切り撫で回した。
金貨の入った袋を軽く振って見せる。
「見てみろよ、これ!
これで、お前のためのもっと良い鞍とか、
新しい荷物カゴとか、色々作ってもらえるかもしれないぞ!
もう、俺が必死にしがみつかなくても済むようになるかもな!」
リュウガは金貨の意味は分からないだろうが、
俺の興奮と喜びは伝わったようだ。
「グルルゥ」と嬉しそうに喉を鳴らし、
大きな頭を俺の肩にぐりぐりと押し付けてくる。
「よし、帰ろう!
リンドブルムへ!
リリアさんとギドさんに、良い報告をしないとな!」
俺は再びリュウガの背に跨り、
空へと舞い上がった。
目指すは、俺たちの拠点があるリンドブルムだ。
帰り道、俺の頭の中は様々な考えでいっぱいだった。
宮廷魔術師という強力な顧客候補。
これは大きい。
「あの人、ただ者じゃなさそうだったな…。
俺たちの『翼』にも気づいてるっぽいし…」
彼のような有力者が後ろ盾になってくれれば、
運送ギルドの圧力も少しは和らぐかもしれない。
だが、同時に、彼が俺たちの「秘密」に
気づいているような素振りを見せたことも気がかりだった。
いつまで隠し通せるか…。
そして、運送ギルドの妨害。
王都への道中でさえ、
あれだけの執拗な追跡と罠があったのだ。
「あいつら、俺たちが成功したって知ったら、
ますます目の敵にするだろうな…」
俺たちが無事に依頼を成功させ、
しかも高額な報酬を得たとなれば、
彼らの嫉妬と敵意はさらに増すだろう。
リンドブルムに戻れば、
きっと新たな妨害が待ち受けているはずだ。
(スキルウィンドウ、起動。
リンドブルム周辺のギルド関連情報を表示…)
俺はスキルを使い、最新の情報を確認する。
(…やはり、いくつか不穏な動きがあるな。
『ドラゴン便』に関する悪評が、
さらに広範囲に流されている。
集荷ポイント周辺での、
見慣れない連中の目撃情報も増えている…)
「気を引き締めないとな、リュウガ。
リンドブルムに帰ったら、
また面倒事が待ってるかもしれないぜ」
俺はリュウガの首筋を軽く叩き、
周囲への警戒を強めた。
リュウガも心得たとばかりに、
低く喉を鳴らした。
幸い、帰り道では特に大きなトラブルもなく、
俺たちは夕暮れ時にはリンドブルム近郊の森へと
帰り着くことができた。
「ただいま戻りました!」
ボロ小屋へ駆け込むと、
リリアさんが心配そうな顔で出迎えてくれた。
その顔を見た瞬間、どっと安堵感が押し寄せてくる。
「ケンタさん!
お帰りなさい!
ご無事で…!
本当に心配しました!」
リリアさんは駆け寄ってきて、
俺の腕を掴んだ。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「ああ、なんとかな。
リュウガが頑張ってくれたからな。
見てくれ、これ!」
俺は金貨の袋をリリアさんに見せる。
彼女は目を丸くした。
「き、金貨…!?
こんなにたくさん!
すごい!
本当に成功したんですね!
よかった…本当によかったです!」
リリアさんは自分のことのように喜び、
満面の笑みを浮かべた。
「ああ。これで、当面の運転資金はなんとかなりそうだ。
ギドさんにも、もっと良い装備の開発を
本格的にお願いできるかもしれない。
リリアさんにも、ちゃんとした給料を払えるようになるかもな」
「きゅ、給料なんて!
私はケンタさんとリュウガさんの
お手伝いができるだけで…!」
慌てて手を振るリリアさん。
俺たちは顔を見合わせ、喜びを分かち合った。
だが、喜びも束の間、
リリアさんの表情が曇る。
「それが…ケンタさんが留守の間、
またギルドの嫌がらせが…
前よりも酷くなっている気がします」
「やっぱりか…
今度は何だ?
具体的に教えてくれ」
俺の声が低くなる。
「はい…。
集荷ポイントの看板が、また壊されてしまって…。
それに、利用してくれているお客さんのところに、
『ドラゴン便を使うな。
さもないとどうなるか分かっているだろうな』って、
ほとんど脅迫に近いような手紙が届いたりもしているみたいで…。
何人かのお客さんからは、
怖くて依頼できないって連絡も…」
リリアさんは悔しそうに唇を噛む。
その目には怒りの色も浮かんでいる。
「くそっ…!
やることが陰湿すぎる!
リリアさんにも怖い思いをさせてしまって、
本当に申し訳ない…大丈夫だったか?」
俺はリリアさんの肩に手を置いた。
「私は大丈夫です!
でも、お客さんたちが可哀想で…。
それに、ケンタさんが一生懸命築いてきたものが、
こんな形で…」
俺の怒りが再び込み上げてくる。
だが、ここで感情的になっても仕方がない。
相手は、俺たちが真っ向から喧嘩を売って
勝てるような組織ではないのだ。
「分かった。リリアさん、教えてくれてありがとう。
看板は何度でも直せばいい。
脅しを受けているお客さんには、俺から直接話をしに行こう。
『絶対に屈しない、安心して任せてほしい』って、
俺たちの姿勢を見せないと。
そして、何か対策を考えないとな…」
俺は冷静に、しかし強い口調で言った。
リリアさんを不安にさせたままではいけない。
翌日、俺はまずギドさんの工房へ向かった。
王都での成功と報酬(金貨を見せる)、
そして今後の『ドラゴン便』の運営について相談するためだ。
工房の扉を叩くと、
中からギドさんの不機嫌そうな声が聞こえた。
「誰だ!
今、取り込み中だぞ!」
「ケンタです!
ギドさん、少しお話が!」
しばらくして、ギィ、と重い扉が開く。
ギドさんは汗だくで、大きな金槌を手にしていた。
「なんだ小僧、騒々しい。
…ほう、その金貨袋、
随分と膨らんでおるではないか。
例の王都の仕事は上手くいったようだな」
ギドさんは金貨を一瞥し、
ニヤリと口の端を上げた。
「はい、おかげさようで。
それで、この資金で、
今後のことを相談したいんです」
俺は王都での出来事と、
ギルドからの嫌がらせが酷くなっていることを説明した。
「それで、この金で何を作るつもりだ?
まさか、あの馬鹿げた設計図の素材集めにでも行く気か?
それはまだ早すぎるぞ」
ギドさんの言う「馬鹿げた設計図」とは、
以前話した『ドラゴンギア Lv.2』のことだ。
アダマンタイトだのグリフォンの腱だの、
伝説級の素材が必要な代物。
「いえ、さすがにそれはまだ…。
ですが、今の『ドラゴンギア Lv.1』も、
かなりガタがきています。
リュウガも、少し窮屈そうにしている時があって…。
それに、もっと効率よく、安全に荷物を運ぶためには、
やはり改良が必要です。
例えば、雨風から荷物を守るためのカバーとか、
リュウガの負担を減らすための新しいハーネスの仕組みとか…」
俺は、これまでの経験から感じていた改善点を
ギドさんに伝える。
「それと、運送ギルドからの嫌がらせも酷くなってきていて…。
何か、俺たち自身や拠点を守るための備えも必要かと…。
リリアさんにも危険が及ばないか心配で」
ギドさんは腕を組み、
しばらく黙って聞いていたが、
やがて大きなため息をついた。
「フン、小僧。
ようやく現実が見えてきたようだな。
派手な成功もいいが、
足元を固めることの方が肝心だ。
ギアの改良については、
考えておいてやらんでもない。
お前の言う通り、今のままでは効率が悪すぎる。
それに、相棒の竜に負担をかけ続けるのも良くないだろう。
あの瑠璃色の竜は、お前にとってかけがえのない相棒のはずだ」
その言葉には、
リュウガへの配慮も感じられた。
頑固だが、根は優しいドワーフなのだ。
「防御用の備えか…それも考えておく。
だがな、一番の防御は、
奴らが手出しできないほどの『信用』と『実力』を
身につけることだ。
小細工に頼るな。
お前が本物なら、客はついてくる。
くだらん嫌がらせなんぞ、いずれ通用しなくなるわい」
「はい…!
肝に銘じます!
ギドさん、ありがとうございます!」
ギドさんの言葉は厳しいが、的を射ている。
そして、その言葉の端々に、
俺たちへの期待が滲んでいるような気がした。
ギドさんの工房を後にし、
俺はギルドから脅しを受けているという顧客の元を数件訪ねた。
ある馴染みのパン屋の主人は、
俺の顔を見るなり申し訳なさそうに言った。
「ケンタさん、すまないねぇ…。
ギルドの連中が来て、
『ドラゴン便なんかに頼んだら、
うちの店に小麦を卸さないように他の商人に手を回す』
なんて言われちまってね…。
うちは小さな店だから、逆らえないんだよ…」
「そんな…!
分かりました、無理にとは言いません。
でも、もし何か本当に困ったことがあったら、
いつでも声をかけてください。
俺は、どんな圧力にも屈するつもりはありませんから」
俺は誠心誠意、頭を下げ、
そして力強く宣言した。
顧客たちは不安そうな顔をしながらも、
「ケンタさんのその言葉を信じよう」
「応援しているよ、負けるなよ!」と励ましてくれた。
その言葉が、今の俺には何よりの力になる。
そして、壊された集荷ポイントの看板。
俺は新しい木の板を見つけ、
今度はもっと大きく、もっと力強い文字で書き直した。
『ドラゴン便 -
いかなる困難にも負けず、あなたの想いを届けます。
リンドブルムの空は、誰にも止められない』
その看板を、以前よりも高く、
堂々と掲げた。
運送ギルドへの、俺からのささやかな、
しかし断固たる反撃の狼煙だ。
ギルドの圧力は、ますます強まるだろう。
だが、俺たちの覚悟も、日増しに強くなっている。
王都への成功は、確かに大きな一歩だった。
だが、それは同時に、より大きな戦いと、
地道な努力の始まりを告げるゴングでもあったのだ。
俺はスキルウィンドウを開き、
『次のマイルストーン』の項目を確認する。
そこには『事業基盤の安定化
(収入確保、信用度向上、ギルド対策)』という、
より現実的で、しかし重要な目標が新たに表示されていた。
(待ってろよ、運送ギルドめ…!
俺は逃げも隠れもしない。
このリンドブルムで、正々堂々、
あんたたちと勝負してやる!
リリアさんとギドさん、そしてリュウガがいれば、
きっと乗り越えられるはずだ!)
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これにて、第一部が終了し次のチャプターに移っていきます!
駆け足で進んできましたが、沢山の方に読んでいただき
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これからも読んでいてワクワクするような内容になっていくことは間違いないので
引き続きよろしくお願いします!




