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第16話 見えざる壁、国境を越えて

「お任せください!」


商人Aからの『ドラゴン特急便』での

隣国ヴェリタスへの契約書配達依頼。

これは、『ドラゴン便』として掲げた新しい看板と料金体系にとって、

最高の船出となる依頼だ。

俺は高鳴る胸を抑え、力強く請け負った。


「頼むぜ、ケンタさん!

今日中に、だ!

失敗したらタダじゃおかねえからな!」


商人Aは念を押しながらも、

その目には期待の色が浮かんでいる。

彼は俺たちの速さを知っているお得意様だ。

その期待に、絶対に応えなければ。


俺は商人Aから、

厳重に封蝋された契約書の筒を受け取ると、

足早に集荷ポイント(旧見張り小屋)へ向かった。

リリアさんに事情を話し、

他の依頼のスケジュールを調整してもらう。


「隣国ヴェリタスへ…!

すごいですね、ケンタさん!

でも、国境越えは色々と手続きが大変だって聞きますし、

気をつけてくださいね!」


リリアさんは心配そうにしながらも、

テキパキと他の依頼主への連絡を取ってくれた。

本当に頼りになる。


森へ戻り、

リュウガに今日の特別な任務について説明する。


「リュウガ、今日は初めての隣国へのフライトだ。

距離は約150km。

しかも『特急便』だ。

頼むぞ!」


「グルゥ!」


リュウガは力強く頷き、

その黄金色の瞳に闘志をみなぎらせた(ように見えた)。


スキルウィンドウを起動し、

詳細な飛行プランを立てる。


(目的地:ヴェリタス商業地区。

荷物:契約書(Sサイズ)。

期限:今日中。

距離ランク:S。

オプション:ドラゴン特急便。

料金:銀貨2枚。よし)


(推奨ルート表示…国境線を確認。

最短ルートだが、国境付近は警備隊の巡回エリア。

要注意だな。

天候は晴れ、風は穏やか。

リュウガの稼働時間は…往復で2時間弱。

Lv.1ギアの耐久度も問題なし。行ける!)


契約書の筒を、

衝撃と水濡れから守るために布と油紙で丁寧に包み、

腹部懸架式の荷物カゴにしっかりと固定する。


「準備完了!

行くぞ、リュウガ!」


鞍に跨り、固定ベルトを締める。

リュウガは翼を広げ、

リンドブルムの空へと舞い上がった。


目指すは東、商業都市ヴェリタス。


Lv.1のギアとはいえ、

鞍があるだけで飛行は格段に楽になった。

風を切る感覚を楽しみながら、

俺はスキルマップで現在位置とルートを確認する。

眼下には見慣れたリンドブルムの街並みが広がり、

それが徐々に小さくなっていく。


順調な飛行を続け、約40分後。

眼下に、国境線を示す簡素な柵と、

小さな砦が見えてきた。

リンドブルムが属する王国と、

隣国ヴェリタスを擁する商業連合との境界線だ。


(ここが国境か…。

スキル情報通り、警備隊がいるな。

さて、ここからが本番だ)


俺はリュウガに合図し、

高度を下げて国境の砦から少し離れた、

人目につかない森の中に着陸した。

リュウガにはそこで待機してもらい、

俺は徒歩で国境ゲートへ向かう。


ゲート前には、

思ったよりも多くの人や荷馬車が列を作っていた。

通行には厳格な審査があるようだ。

槍を持った兵士たちが、鋭い目つきで一人一人、

荷物の一つ一つをチェックしている。


(うわ…思ったより厳しいな。

日本の国際物流だって、税関手続きとか、検疫とか、

輸入規制とか、山ほど書類が必要でめちゃくちゃ大変だったけど、

こっちはこっちで物理的な壁と人の目による圧力がすごい…)


俺は列の最後尾に並び、

自分の番を待つ。

前の商人らしき男が、荷物の中身について

兵士と押し問答しているのが聞こえる。

どうやら、持ち込みが制限されている品物があったらしい。

書類の不備で追い返されている者もいる。

ピリピリとした空気が漂っていた。


ようやく俺の番が来た。


「待て! 何者だ!

どこから来た!」


兵士の一人が、槍先をこちらに向けながら、

厳しい口調で尋ねてきた。


「リンドブルムから来た、ケンタという者です。

商業都市ヴェリタスへ、急ぎの届け物がありまして」


俺はできるだけ丁寧に応じる。


「届け物だと?

怪しいやつめ。

身分を証明するものはあるのか?

荷物は何だ? 全て見せろ!」


兵士たちは俺を取り囲み、

矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。

その目は、俺の服装や持ち物を

値踏みするように細められている。


(まずいな…身分証なんて持ってない。

荷物は契約書だけだが…)


「荷物は、リンドブルムの商人A様から、

ヴェリタスの取引先への重要な契約書です。

これが商人様の身分証の写しと、

通行許可の依頼状になります」


俺は商人Aから預かっていた書類を差し出した。

これが命綱だ。


隊長らしき、ひときわ体格の良い兵士が書類を受け取り、

じろじろと眺める。


「ふむ…商人Aの名前と印は確かにあるな。

だが、お前は何者だ?

所属は?

なぜお前のような若造が、

こんな重要な書類を運んでいる?」


隊長の疑念は晴れない。


「私は『ドラゴン便』という運送業を営んでおります。

商人A様から、その速さを見込まれて依頼を受けました」


俺は胸を張って答える。


「ドラゴン便?

聞いたことのない名前だな。

それに、どうやってここまで来た?

ここまで馬車なら半日はかかる。

お前の足では一日以上だ。

まさか、空でも飛んできたとでも言うのか?」


隊長は嘲るように言った。

核心を突かれ、冷や汗が背中を伝う。


「そ、それは企業秘密でして…。

独自の輸送手段を用いております。

迅速・確実・秘密厳守がモットーですので」


俺はしどろもどろになりながらも、

なんとか言い繕う。

懐から例の看板のメモを取り出して見せるが、

隊長の眉間の皺は深まるばかりだ。


「ふん、怪しさ満点だな。

よし、荷物だけでなく、

お前自身の身体検査もさせてもらうぞ!

武器や禁制品を隠し持っていないか、

徹底的に調べる!」


隊長が厳しい声で命じる。

まずい! 下手に抵抗すれば、さらに怪しまれる!


俺は観念して、

兵士たちの身体検査を受けた。

服を調べられ、靴の中まで確認される。

もちろん、武器など持っていない。

荷物は契約書の筒だけだ。


(くそ…これが国境を越えるということか。

日本じゃ考えられない厳しさだ。

書類一枚運ぶのに、こんな屈辱的な思いをするなんて…)


身体検査が終わり、

荷物にも不審な点がないことが確認されると、

隊長は渋々といった様子で言った。


「…ちっ、何も出なかったか。

まあいい、書類は本物のようだ。

通ってよし。

だが、ヴェリタスで少しでも怪しい動きを見せたら、

即刻捕縛するからな!

よく覚えておけ!」


「は、はい!

ありがとうございます!」


俺は深く頭を下げ、

逃げるようにゲートをくぐった。

全身からどっと汗が噴き出す。

たかが国境を越えるだけで、

これほど神経をすり減らすとは…。


森で待っていたリュウガと合流し、

再び空へ。


「危なかったぞ、リュウガ…。

やっぱり、ちゃんとした身分証とか、

ギルドの認可とかがないと、

国境越えは厳しいな…」


俺はリュウガに愚痴をこぼす。

リュウガは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


国境を越え、ヴェリタスの領空に入る。

景色が少しずつ変わっていく。

リンドブルム周辺よりも、

整備された農地や大きな建物が増えてきた。

さすが商業連合の中心地だ。


さらに30分ほど飛行すると、

前方に巨大な城壁に囲まれた、

壮大な都市が見えてきた。

リンドブルムとは比較にならない規模と活気だ。

あれが商業都市ヴェリタスか!


俺たちは街の外れに着陸し、

徒歩で商人Aの取引先だという立派な商館へ向かった。

街並みは活気に溢れ、

様々な人種や服装の人々が行き交っている。

リンドブルムとは違う、国際的な雰囲気を感じた。


受付で契約書を渡し、受領印をもらう。

ミッションコンプリートだ。


商館の主人は、

俺がリンドブルムから来た『ドラゴン便』の者だと知ると、

目を丸くした。


「リンドブルムから?

今日中に?

まさか! いったいどんな手段で…!?

これは奇跡だ!」


「企業秘密です」としか答えようがないが、

その驚きぶりは本物だった。


主人は、その速さと確実性にいたく感心した様子で、

報酬の銀貨2枚に加えて、

感謝の印としてさらに銀貨1枚を上乗せしてくれた。


「素晴らしい!

実は、我が商会もリンドブルムとの取引で、

輸送の遅さと不確実性に頭を悩ませていたのだ。

関税や手続きも煩雑でな…。

もしよければ、今後、定期的に貴社に輸送を

お願いできないだろうか?

もちろん、相応の対価は支払う!」


なんと、早くも定期便の具体的なオファーだ!

しかも、国際輸送の難しさを理解した上での依頼だ。

これは大きなチャンスだ!


「ぜひ、ご相談させてください!」


俺は喜びを隠さずに答えた。


大きな成果と、新たなビジネスチャンスを手に、

俺はヴェリタスを後にした。


帰り道、リュウガの背中で、

俺は今日の出来事を反芻していた。


国境を越えることの物理的・法的な難しさ。

異国での情報収集と信頼の重要性。

そして、それらの壁を乗り越えた先に広がる、

俺たちのサービスの大きな可能性。


『ドラゴン便』は、ただ物を運ぶだけじゃない。

国と国を隔てる「見えざる壁」を打ち破り、

人々の交流と経済を活性化させる力を持っているのだ。


そのためには、やはり事業基盤の確立が急務だ。

ギルドの認可や、ちゃんとした身分証明。

そして、いつかはリュウガの存在を公にできるような、

社会的な信頼を得なければならない。


ダンジョン攻略による装備強化も重要だが、

それだけではない。

地道な信用獲得と、事業運営の改善。

やるべきことは山積みだ。


俺はリュウガと共に、

決意を新たにリンドブルムへの帰路を急いだ。

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