第131話 癒やしの光と、大地の涙
「第一段階、
そして、第二段階、完了です」
俺の、その、通信機を通じた、
疲労に満ちた、しかし、確かな達成感を込めた声。
それが、
この、地底の、その最も深い場所から、
地上で、俺たちの帰りを、
そして、この星の、その夜明けを、
祈りながら待ち続けてくれていた、
二人の、その、優しく、
そして、誰よりも、強い姫君たちの元へと、
確かに、届いた合図だった。
***
「…ケンタさん…!」
「…ケンタ殿…!」
リリアさんと、アリア様の、
その、安堵と、
そして、これから始まる、
自らの、その最も重要な役割への、
その、決意に満ちた声が、
同時に、重なった。
彼女たちは、
俺たち、地底部隊の、その無事を、
そして、作戦の、その第一段階の成功を、
心の底から、信じてくれていたのだ。
「ライラ様、
ケンタさんたちが、道を、
未来への、道を、切り開いてくださいました。
今度は、わたくしたちの番です」
アリア様は、
エルフの長老、ライラ様へと、
その、領主としての、
その、気高い、そして揺るぎない覚悟を込めて、
静かに、しかし力強く、告げた。
「ええ、分かっておりますわ、アクアティアの姫君よ。
そして、リンドブルムの、心優しき薬師の娘よ」
ライラ様もまた、
その、何千年もの時を、その内に秘めた、
その、森の、そのものの叡智に満ちた瞳で、
二人を、
そして、二人が、これから成し遂げようとしている、
その、奇跡の、その儀式を、
温かく、そして、どこまでも深く、
見守っている。
「行きなさい、光の御子たちよ。
あなた方の、その、優しく、
そして、何よりも強い、その魂の光こそが、
この、傷ついた、
この、悲しい大地を、
その、永い、永い、苦しみの眠りから、
救い出すための、
最後の、そして、唯一の、希望なのですから」
リリアさんと、アリア様は、
ライラ様の、その、温かい、
そして力強い、その激励の言葉を、
その、胸に、深く、深く刻み込むと、
互いの、その顔を、一度だけ見合わせ、
そして、固く、固く、頷き合った。
二人の、その降下は、
俺たちの、あの、泥と汗にまみれた、
その、無骨なものとは、全く違う。
それは、
まるで、天上の、その女神たちが、
その、傷ついた、下界へと、
その、救いの手を、差し伸べるために、
舞い降りてくるかのような、
どこまでも、神聖で、
そして、どこまでも、美しい、
光の、降臨だった。
ウィンドランナーの、そのシルフィたちが、
エルフに伝わる、
その、特殊な、そして淡い光を放つ、
『導きのランタン』を、その口に咥え、
二人の、その進むべき道を、
優しく、そして荘厳に、照らし出す。
その光景は、
もはや、ただの、坑道への降下ではない。
神殿の、その、最も神聖な、
その、聖域へと続く、
光の、階段を、
二人の、その、巫女が、
静かに、そして厳かに、
降りてくるかのようだった。
やがて、
二人が、
この、地底の、その最深部、
俺たちが待つ、その大空洞へと、
その、姿を、現した時。
俺は、
そして、ギドさんも、カイ様も、
その、あまりにも、神々しく、
そして、あまりにも、
その、美しい、その光景に、
ただ、
言葉を、失い、
そして、知らず知らずのうちに、
その場に、跪いて、
その、頭を、垂れていた。
彼女たちは、
もはや、ただの、薬屋の娘や、
あるいは、小国の、若き領主ではない。
この、星の、その運命を、
その、か細い、しかし、誰よりも強い、
その、双肩に、背負って立つ、
二人の、気高き、
そして、偉大なる、
『癒やしの女神』そのものだった。
「ケンタさん、ギドさん、カイ様。
お疲れ様でした。
そして、本当に、ありがとうございました」
リリアさんの、
その、いつもの、
しかし、今日は、
どこか、神々しいまでの、
その、優しい声が、
俺たちの、その疲弊しきった、
その、心に、温かく、染み渡る。
「あなた方が、
その、力の限りを尽くして、
この、大地の、その物理的な傷口を、
塞いでくれたおかげで、
わたくしたちは、
その、最後の、そして最も重要な、
『心の治療』に、
その、全ての力を、集中することができますわ」
アリア様の、
その、凛とした、
そして、どこまでも、その澄み切った声もまた、
俺たちに、
新たなる、そして最後の、
その、希望の光を、与えてくれた。
彼女たちは、
俺たちが、命懸けで守り抜いた、
その、ドワーフの炉の跡地、
そして、
ギドさんが、その魂を込めて打ち込んだ、
その、新しい、白銀の『楔』が、
静かな、しかし力強い鼓動を刻む、
その、龍脈の、その傷跡の、
その、両脇に、
そっと、そして、
まるで、最初から、
そこが、自らの、その祈りの場所であったかのように、
静かに、膝を、ついた。
儀式は、
リリアさんの、
その、小さな、そして優しい、
その、祈りから、始まった。
彼女は、
目を閉じ、
その、懐から、
この日のために、
この、瞬間のために、
故郷リンドブルムの、
その、最も、生命力に満ちた大地から、
大切に、大切に、摘み取ってきた、
いくつかの、
特別な、そして、
新しい、生命の息吹を、
その、内に秘めた、
『再生の種』を、取り出した。
彼女は、
その種を、
この、瘴気に、まだ汚染された、
この、黒い、大地に、
そっと、
まるで、傷ついた、我が子を、
その、温かい、寝床に、
寝かせるかのように、
一つ、一つ、
優しく、そして丁寧に、植えていく。
そして、
彼女は、
歌い始めた。
それは、
ギドさんの、あの、力強い、
ドワーフの、鎮魂歌とは、また違う。
彼女の、その、お母さんが、
彼女が、まだ、本当に、本当に、
幼かった頃に、
その、眠れない、夜に、
その、枕元で、
いつも、いつも、歌ってくれたという、
どこまでも、優しく、
どこまでも、温かく、
そして、どこまでも、
その、慈愛に満ちた、
古の、リンドブルムの、
子守唄だった。
その、
あまりにも、優しく、
そして、あまりにも、温かい、
その、歌声が、
この、傷つき、そして、
何百年もの、長い、長い間、
その、悲しみに、凍てついていた、
この、大地そのものの、
その、固い、固い、心を、
少しずつ、少しずつ、
溶かしていく。
彼女が、植えた、
その、『再生の種』から、
淡い、そして、
力強い、緑色の、
その、生命の、その光が、
芽吹き始めた。
大地が、
その、癒やしの、
その、準備を、始めたのだ。
そして、
今度は、
アリア様の、番だった。
彼女は、
その、気高い、
そして、美しい、
その、仮面を、
ゆっくりと、
そして、静かに、
その、顔から、外した。
月明かりの下で、
その、初めて、完全に、
その、姿を、現した、
その、素顔は、
この、世界の、
その、どんな、宝石よりも、
どんな、芸術品よりも、
美しく、
そして、どこまでも、
その、気高い、
その、覚悟に、満ちていた。
彼女は、
その、胸元から、
アクアティアに、代々伝わるという、
古代の、そして神聖な遺物、
『海神の涙』を、
その、両の手で、
大切に、大切に、掲げた。
「おお、我らが、祖先…」
「そして、この、偉大なる、海と、大地を司る、
全ての、神々よ…」
「今、ここに、
わたくし、アリア・ルミナ・アクアティアは、
その、全ての、生命を、
そして、その、全ての、魂を、
捧げます」
「どうか、
この、傷ついた、
この、悲しい、この大地を、
その、我らの、その愚かな過ちを、
お許しください」
「そして、
再び、
この地に、
その、生命の、その輝きと、
その、温かい、希望の光を、
お与えください…!」
アリア様の、
その、魂からの、
その、血を吐くような、
その、祈りの、その言葉に、
呼応するかのように。
彼女が、その手に掲げた『海神の涙』が、
これまでにないほどの、
そして、この、地底の、
その、全ての闇を、
完全に、そして永遠に、
払拭するほどの、
眩い、
どこまでも、純粋な、
そして、どこまでも、
その、清らかな、
青白い、浄化の光を、
解き放った!
その、光の、奔流は、
まるで、
天から、降り注ぐ、
聖なる、恵みの、雨のように、
この、大空洞の、
その、隅々までを、
そして、
ギドさんが、その魂で塞いだ、
その、龍脈の、その傷口へと、
優しく、
しかし、決して、抗うことのできない、
絶対的な、力をもって、
染み込んでいく!
ジュワアアアアア…
これまで、
この、大地を、
その、内側から、蝕み続けていた、
あの、黒く、おぞましい瘴気が、
その、聖なる、浄化の光に、
触れた、その瞬間、
まるで、
朝日に、溶ける、
夜霧のように、
音もなく、
そして、跡形もなく、
消え去っていく!
そして、
その、浄化された、
その、大地から、
リリアさんが、その想いを込めて植えた、
『再生の種』が、
一斉に、
その、美しい、
そして、力強い、
その、生命の、芽を、
吹き始めた!
大空洞の、その天井からは、
まるで、
この、大地そのものが、
その、嬉し涙を、
その、感謝の涙を、
流しているかのように、
キラキラと、
そして、水晶のように輝く、
清らかな、清らかな、
その、雫が、
ぽつり、ぽつりと、
そして、やがては、
優しい、優しい、
春の、雨のように、
降り注ぎ始めた。
その、
『大地の涙』を、浴びて、
芽吹いたばかりの、
その、若葉たちは、
瞬く間に、
その、美しい、
そして、見たこともないような、
色とりどりの、
そして、淡い、優しい光を放つ、
希望の、花を、
咲かせた。
その、甘く、そして清らかな、
その、生命の香りが、
この、大空洞の、
その、全ての、空間を、
優しく、そして温かく、
満たしていく。
「…やった…」
「やったのですね…!」
俺たちは、
目の前の、その、
あまりにも、神々しく、
そして、あまりにも、
その、美しい、
その、奇跡の、光景を前に、
ただ、
言葉もなく、
立ち尽くすことしか、できなかった。
疲れ果てた、
リリアさんと、アリア様が、
その場に、
くずおれるように、
倒れ込む。
その、か細い、
しかし、
この、世界を、救った、
その、偉大なる、二人の姫君を、
俺と、カイ様が、
その、たくましい腕で、
そっと、
そして、
心からの、感謝と、
そして、敬意を込めて、
抱きとめた。
ギドさんが、
その、ゴツゴツとした、
しかし、誰よりも、その優しい手で、
その、新しく、生まれ変わった、
その、温かい、大地を、
そっと、
まるで、愛おしい、我が子を撫でるかのように、
撫でていた。
その、瞳からは、
再び、
大粒の、
しかし、今度は、
心からの、そして何よりも、
温かい、
安堵の、涙が、流れていた。
この、星の、
その、傷は、
今、確かに、癒やされたのだ。
俺たちの、
そして、
かけがえのない、仲間たちとの、
その、絆の力によって。
この、東山脈に、
そして、
この、アースガルド大陸に、
新しい、
そして、本当の意味での、
夜明けが、
訪れようとしていた。




