第129話 地底の傷跡
ガァァァァァァァァン!!!
ギドさんの、魂を込めた最後の一撃が、
古代の、呪われた封印の岩盤を、
完全に、そして見事に打ち砕いた。
ゴウッ、と、
まるで、
何百年もの間、その呼吸を止めていた、
巨大な、巨大な生き物が、
その、最初の、そして苦しげな、
深いため息を、漏らすかのように。
坑道の、その、新しく開かれた入り口から、
ひんやりとした、
そして、大地そのものの、その悲しみが凝縮したかのような、
カビ臭く、そして淀んだ空気が、
俺たちの、その顔へと、容赦なく吹き付けてきた。
「…さて、と」
俺は、仲間たちに向き直り、
その表情を、リーダーとしての、
いや、この、前代未聞の、
そして極めて危険なプロジェクトの、
総責任者としてのそれに、
完全に、切り替えた。
「これより、我々は、
『龍脈損傷箇所の特定、及び、恒久的修復プロジェクト』の、
第一段階…
『地底への先行調査及び、安全ルート確保』を開始する!」
俺の、その、少しだけ芝居がかった、
しかし、全員の士気を高めるための宣言に、
ギドさんとカイ様が、
ニヤリと、
そしてリリアさんが、
きゅっと、その唇を、決意を込めて結んだ。
「まず、このプロジェクトを成功させるためには、
徹底的な『事前準備』…ロジスティクスが、何よりも重要になる」
俺は、スキルウィンドウを起動させ、
その立体的な地図情報と、
これまでの冒険で蓄積されたデータを元に、
一枚の、大きな羊皮紙の上に、
今回の、その壮大なプロジェクトの、
詳細な『工程表』と『リスクアセスメント表』を、
瞬時に、そして驚くべき正確さで、書き出し始めた。
それは、かつて俺が、
あの灰色のオフィスで、
来る日も、来る日も、飽きるほど作成していた、
事業計画書そのものだった。
「今回の先行調査部隊のメンバーは、三名。
まず、この古代坑道の構造と、
地質に関する、最高の専門知識を持つ、
リードエンジニアとして、ギドさん」
「次に、
前方に潜む、あらゆる物理的な、
そして魔術的な危険から、我々を守るための、
ヘッド・オブ・セキュリティとして、カイ様」
「そして、
全体の工程管理と、
リアルタイムでのルート分析、
そして、地上部隊との連携を担当する、
プロジェクトマネージャーとして、この俺、ケンタだ」
「リリアさん、あなたとライラ様、
そしてウィンドランナーたちは、
地上で、この坑道入り口のベースキャンプを維持し、
我々、地底部隊への、
後方支援をお願いしたい。
特に、俺からの緊急の『輸送依頼』に、
いつでも、そして最速で応えられるように、
常に、準備を整えておいてほしい」
「はいっ!
ケンタさん!
お任せください!」
リリアさんの、その力強い返事が、
俺の、その心を、何よりも力づけてくれる。
「だが、この計画には、
いくつか、致命的な『不足物資』がある…」
俺は、リスクアセスメント表の一点を指差した。
「この、不安定な坑道を、安全に降下するための、
特殊な『登山用具』。
そして、ギドさんが、万が一の事態に備えて、
その場で、新しい道具を鍛え上げるための、
携帯用の、しかし高純度の『金属素材』と『魔力燃料』…」
「これらがなければ、
このプロジェクトの、その成功率は、
限りなく、ゼロに近くなる」
「そこで、だ」
俺は、ニヤリと、
この、絶望的な状況を、
最高の、そして『ドラゴン便』らしいやり方で、
解決するための、名案を、口にした。
「これより、
ウィンドランナーの精鋭たちによる、
『緊急物資調達・ミッション』を開始する!」
俺は、数頭の、
ひときわ飛行技術に優れたウィンドランナーたちに、
必要な物資のリストを、
そして、それを、リンドブルムのドラゴンステーションの、
どの倉庫から、ピッキングしてくればよいのか、
その、正確な棚番までを記した、
詳細な『ピッキングリスト』を手渡した!
ウィンドランナーたちは、
その、初めて見る、しかし極めて合理的な指示書に、
一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、
すぐに、その、賢い瞳で、
その、任務の重要性を理解し、
一斉に、「ピャウ!」と力強い承諾の声を上げると、
風のように、
リンドブルムの、その故郷へと、
一直線に、舞い戻っていった!
これこそが、
俺たちが築き上げた、
『ドラゴン便』の、本当の力なのだ!
数時間後。
ウィンドランナーたちが、
その、奇跡のような速さで持ち帰ってくれた、
最新鋭の装備と、資材。
その、全てが、揃った時。
俺たち、三人の、
その、地底への、最初の、そして重要な一歩が、
ついに、踏み出された。
坑道の、その内部は、
まさに、
俺の、そのスキルが予測した通りの、
危険と、そして未知に満ちた、
闇の、迷宮だった。
「ギドさん、その先の岩盤、
スキル分析によると、内部に亀裂が多数入っています!
非常に、脆い!
ハンマーは使わず、慎重に進んでください!」
「カイ様!
左手の、その壁の奥から、
微弱な、しかし敵意のある、魔力の反応を探知しました!
おそらく、あの『悲しみの群れ』の、残党です!
警戒を!」
俺は、
まるで、暗闇の、その倉庫の中を、
最新の、在庫管理システムと、
そして、監視カメラの映像を頼りに、
進んでいくかのように、
仲間たちに、
リアルタイムで、
そして、コンマ一秒の、その遅れもなく、
的確な、指示を出し続ける。
ギドさんの、そのドワーフとしての、
その、長年の経験と勘。
カイ様の、その騎士としての、
その、超人的なまでの、鋭い五感。
そして、
俺の、その異世界の、
その、チート級の、情報分析能力。
三人の、その、異なる、しかし最高の専門技術が、
この、地獄のような、暗闇の迷宮の中で、
完璧な、そして美しいまでの、
ハーモニーを奏でていた。
そして、
どれほどの、時間を、
下り続けた、だろうか。
俺たちが、
ついに、
巨大な、そして、
その、向こう岸すらも見えないほどの、
広大な、地底の、大地の裂け目…
巨大な、クレバスの、その前に、
たどり着いた時。
俺たちは、
一度、その足を、止めざるを得なかった。
「…ここまで、か…」
ギドさんが、
その、クレバスの、
その、吸い込まれるような、漆黒の闇を、
覗き込みながら、
悔しそうに、そして絶望的に、呟いた。
「龍脈の、その傷跡は、
間違いなく、この、対岸の、
その、さらに奥だ。
だが、
これを、どうやって、渡れというんだ…?
翼も、橋も、ない、この場所で…」
カイ様も、
その、あまりにも、絶望的な光景に、
ただ、言葉を失っている。
だが、
俺は、
その、二人の、その絶望的な表情を、
見て、
ニヤリと、
この、プロジェクトの、
その、全ての、工程を、
その、最初から、見通していた、
その、プロジェクトマネージャーとして、
最高の、そして自信に満ちた、
笑みを、浮かべた。
「大丈夫ですよ、二人とも」
「この、巨大な『障害物』の発生も、
そして、それを、どうやって『解決』するかも、
全て、俺の、この、
『工程表』の、中には、
ちゃんと、織り込み済みですから」
俺は、
再び、
あの、ドワーフ特製の『通信機』を、
手に取った。
そして、
上空で、俺たちの、その指示を、
今か、今かと、
待ちわびているであろう、
最高の、そして最速の、
その、翼へと、
次の、
そして、この、プロジェクトの、
その、第二段階の、
その、開始を、告げた。
「リュウガ!
聞こえるか、相棒!」
「今から、
この、プロジェクトの、
その、成功の、その鍵を握る、
最も、重要な『資材』の、
その、『搬入』を開始する!」
「ギドさんが、
この日のために、設計してくれた、
『懸架橋建設キット』の、
その、緊急輸送を、
今すぐ、開始してくれ!」




