第123話 目覚める大地の王、マグナ
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!
それは、もはや、
ただの地響きではなかった。
俺たちが立つ、この大地そのものが、
この星そのものが、
一つの、巨大な意志を持って、
ゆっくりと、しかし、絶対に抗うことのできない、
絶対的な力をもって、脈打っている。
俺たちの目の前で、
一つの、新しい山脈が、生まれようとしていた。
いや、違う。
永い、永い、
何世紀、いや、何千年もの眠りから、
この星の、そのものの記憶をその身に宿した、
古の、そして絶対的な王が、
今、まさに、目覚めようとしているのだ。
岩石の、その巨大な、山脈のような肩が、
ゆっくりと、大地から、その姿を現す。
その背中には、
何千年もの時を経て、
まるで、この世界の歴史そのものが降り積もったかのような、
深い、深い森が、静かに息づいている。
その、あまりにも壮大で、
そして、あまりにも神々しい光景の前に、
俺たちは、
ただ、ちっぽけな、
本当に、ちっぽけな存在でしかなかった。
やがて、
その、山脈の頂が、完全に姿を現した。
それは、
岩石の、そのものの鱗に覆われた、
途方もなく、そして信じられないほどに巨大な、
アースドラゴン『マグナ』の、
気高い、そしてどこまでも威厳に満ちた、頭部だった。
そして、
二つの、
まるで、地底の、その奥深くで、
静かに、しかし確かに燃え続ける、
マグマ溜まりのような、
どこまでも深く、そして温かい、
琥珀色の、巨大な瞳が、
ゆっくりと、
本当に、ゆっくりと、
その、重い、重い、岩の瞼を、
持ち上げた。
その、古代の、
そしてこの世界の全ての歴史を、
その、穏やかな輝きの内に秘めているかのような瞳が、
真っ直ぐに、
俺たち、ちっぽけな、
しかし、彼を目覚めさせた、
その、勇敢な者たちの姿を、
確かに、そして力強く、捉えた。
その、視線が交わった、ただそれだけで、
俺の、その魂の、最も深い場所が、
ビリビリと、
心地よく、しかし畏怖の念と共に、震えた。
『……………。』
『…あの、香り…』
『…永い、永い、時が、流れたものよのう…』
マグナの、その声が、
再び、俺たちの心に、直接響き渡る。
その声は、
以前よりも、さらに力強く、
そして、どこまでも深く、
まるで、この星そのものの、
魂の、そのものの響きだった。
マグナの、その巨大な、琥珀色の瞳が、
俺たちの、その一人一人を、
ゆっくりと、しかし確かに、見定めていく。
そして、その視線が、
ギドさんの上で、ピタリと、止まった。
『…アイアンハンドの、子か』
『…見事な、腕前よ。
おぬしが捧げた、その『心臓』…
確かに、わしの、その乾ききった魂に、
温かく、そして力強く、染み渡ったわ』
『おぬしの、その祖先たちも、
天の、その高みで、
きっと、誇らしく思っておるじゃろう。
真の、そして気高き、醸造家の魂を、
おぬしは、確かに、受け継いでおるわ』
その、古の王からの、
あまりにも、あまりにも、
そして、これ以上ないほどの、最高の賛辞。
それを聞いたギドさんは、
その、ゴツゴツとした、
そして、いつもは不機嫌そうな顔を、
くしゃくしゃに歪ませ、
そして、その瞳から、
子供のように、
大粒の、熱い、熱い涙を、
止めどなく、止めどなく、流していた。
ドワーフとしての、
その生涯の、全ての誇りが、
今、この瞬間に、報われたのだ。
やがて、
マグナの、その視線は、
俺と、そして俺の隣で、
同じように、畏敬の念に打たれながらも、
決して、その気高い瞳の輝きを失わない、
我が相棒、リュウガへと、向けられた。
『…そして、おぬしか』
『蒼き、空の翼を持つ者よ。
そして、その背に、
異界の、その理を乗せる、
『調停者』よ』
『わしは、この、永い眠りの中にあっても、
感じておったぞ。
お前たちの、その存在を。
お前たちが、この星の、その乱れた流れを、
正そうとする、その、ちっぽけな、
しかし、どこまでも気高い、その意志の光を』
『世界は、確かに、
それを癒やす者を、必要としておったわ…』
俺は、ゴクリと、
乾いた喉で、唾を飲んだ。
この、大地の王は、
全てを、お見通しだったのだ。
『…おぬしたちは、
見事な供物で、わしを目覚めさせた』
『だがな、小さき者たちよ。
わしの、この、助力を乞うというのであれば…』
『この、山脈そのものである、わしの体を、
お前たちの、そのちっぽけな夢のために動かせ、というのであれば…』
『ただの、酒の一杯では、足りんぞ』
マグナの、その声に、
初めて、
王としての、その絶対的な、
そして、決して揺らぐことのない、
厳しい響きが、混じった。
これは、試練だ。
俺たちの、その覚悟と、
そして、その夢の、本当の価値を問う、
最後の、そして最大の試練なのだ。
『…見せよ』
『わしに、見せてみよ』
『お前たちが、わしの、この力をもって、
一体、どんな未来を、築こうというのかを』
『お前たちが、わしに、
創り出させようとしている、
その『道』の、真の姿をな』
俺は、
その、あまりにも壮大で、
そして、あまりにも根源的な、
その問いかけに、
一瞬、言葉を失った。
だが、俺の心には、
もう、何の迷いもなかった。
俺は、一歩、前に進み出た。
そして、
この、大地の王の、
その、巨大な、琥珀色の瞳を、
真っ直ぐに、そして強く、見つめ返した。
「見ていてください、マグナ様」
俺は、
『異世界物流システム Lv.3』を、
これまでにないほど、
その全ての機能を、完全に解放させた!
そして、
俺の、その頭の中だけに映し出されていた、
あの、半透明のスクリーンを、
俺の、その強い意志の力で、
外の世界へと、投影させたのだ!
俺たちの目の前の、その空間に、
まるで、神々が使う、
魔法の地図のように、
この、東山脈全体の、
広大で、そして詳細な、
立体的な、ホログラムのマップが、
ふわりと、そして荘厳に、浮かび上がった!
俺は、
その、光の地図を、指し示した。
「これが、今の、この東山脈の姿です!
見てください、この、分厚く、そしてどこまでも続く壁を!」
光の線が、
ドワーフたちの、その地下都市と、
エルフたちの、その静寂の森を、
それぞれ、孤立した、小さな点として映し出す。
「この壁が、
人々を、そして文化を、分断している!
素晴らしい技術を持つドワーフも、
深い叡智を持つエルフも、
そして、その恵みを待つ、西側の人々も、
この壁のせいで、
その流れを、その可能性を、
完全に、止められてしまっている!」
「これは、ただの山脈じゃない!
この世界の、その健全な成長を阻む、
巨大な、巨大な『血栓』なんです!」
俺は、次に、
その立体地図の上に、
新しい、黄金色の、
力強い光の線を、描き出した。
それは、
険しい、そして誰も越えられなかったはずの山脈を貫き、
ドワーフの都市と、エルフの森、
そして、俺たちのリンドブルムを、
確かに、そして力強く、繋ぐ、
一本の、壮大な道だった。
「俺たちが、創り出したいのは、これです!」
「安全で、安定した、物流の道…
『東山脈ルート』!」
「この道が、開かれれば、
ドワーフの、その素晴らしい鉱石や武具が、
西の国々へと、安定して供給される!
エルフの、その奇跡の薬草や魔法が、
病に苦しむ、たくさんの人々を救うことになる!」
「そして、西の、その豊かな食料や物資が、
これまで、孤立していた、
東の人々の生活を、豊かに、そして確かに支えることになる!」
「あなたが、その偉大なる力で、
この道を、この『大動脈』を、
切り開いてくださるのなら!」
「それは、破壊のためじゃない!」
「それは、この世界を、
もっと、もっと豊かに、
そして、もっと、もっと多くの人々を、
笑顔にするための、
究極の、『創造』になるはずなんです!」
「あなたの、その力は、
何かを奪うため、何かを征服するためにあるんじゃない!」
「分断されたものを、『繋ぐ』ためにこそ、
あるんだと、俺は信じています!」
俺の、その、
拙い、しかし、魂の、
その全ての、ありったけの想いを込めた、
『プレゼンテーション』。
それを、
マグナは、
ただ、じっと、
その、琥珀色の、巨大な瞳で、
静かに、しかし、
その瞳の奥の、そのさらに奥深くで、
何か、大きな、そして温かい光を、
揺らめかせながら、聞いていた。
長い、長い、
まるで、この星の、その歴史そのもののような、
深く、そして重い、沈黙。
やがて、
マグナの、その声が、
再び、俺たちの、その心に、
静かに、そして確かに、響き渡った。
『……………。』
『…幾星霜、この大地で、わしは生きてきた』
『…幾多の、ちっぽけな、
しかし、愚かで、そして愛おしい者たちが、
わしの、この力を求め、そして願ってきた』
『…だが、その願いは、いつも、同じだった』
『戦のため、
その敵を、滅ぼすため。
己の、そのちっぽけな欲望を満たすため、
そして、骨の上から、そのくだらない帝国を築くため…』
『……………。』
『…おぬしのような、人間は、
初めてじゃ…』
『この、わしの力を、
征服するためではなく、
『繋ぐ』ために使え、と申した者は…』
『…物流、ネットワーク、か…』
『…フ、フフ…』
『…ククククク…!』
マグナが、
笑った。
大地が、
そして、この山脈全体が、
ゴゴゴゴゴ、と、
心地よく、そして楽しげに、
震えた。
それは、
何千年、いや、何万年ぶりかの、
この、大地の王の、
心からの、そして豪快な、笑い声だった。
『…面白い…!』
『面白いではないか、調停者の小僧よ!』
『おぬしの、その、馬鹿げていて、
しかし、どこまでも気高い夢…
この、わしが、気に入った!』
『…よかろう!
その、途方もない、そして最高に愉快な企てに、
この、わしの、
この、大地そのものである、わしの力を、
貸してやらんでもないわ!』
マグかナの、その、力強い、
そして、確かな、同意の言葉!
「…!
本当ですか、マグナ様…!」
俺は、思わず、叫んでいた。
『うむ。
ただし、その道筋を示すのは、
あくまで、おぬしの役目じゃぞ、ケンタ。
ドラゴン便の、マスターよ』
『道は、長く、
そして、その仕事は、骨が折れるであろうがな』
マグナは、そう言うと、
その、山脈そのものである、
巨大な、巨大な、右腕を、
ゆっくりと、
本当に、ゆっくりと、
持ち上げた。
そして、
これまで、誰も越えることのできなかった、
険しい、険しい、絶壁の、
その、一つを、
まるで、邪魔な小石でも払うかのように、
いとも容易く、薙ぎ払った!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
凄まじい、地響きと共に、
俺たちの目の前に、
新しい、
そして、どこまでも続く、
未来への、道が、
確かに、そして力強く、
開かれたのだ。
陸の、絶対的な王者が、
今、この瞬間、
俺たちの、
そして『ドラゴン便』の、
最も、頼もしく、
そして、最も、力強い、
新しい、かけがえのない仲間に、
加わった。
その、あまりにも神々しく、
そして、あまりにも、
あまりにも、圧倒的な光景の前に、
俺たちは、
ただ、
言葉を、
そして、これから始まる、
新しい、壮大な物流革命の、
その、輝かしい未来への、
抑えきれないほどの、興奮を、
胸に抱きしめながら、
立ち尽くすことしか、できなかった。




