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第121話 集いし三つの奇跡と、ドワーフの醸造歌

夕焼けに染まる、リンドブルムのドラゴンステーション。

その中央広場に、

俺たち、三つのチームが、

それぞれの、命懸けの冒険の証を手に、

満身創痍で、しかし、

これ以上ないほどの達成感を、その胸に抱いて集結した。


広場は、

俺たちの無事の帰還を喜ぶ、

仲間たちの、温かい歓声と、

そして、安堵の涙で包まれていた。


「ケンタさん!

リュウガさん!

ご無事で…本当によかったです…!」

リリアさんが、俺とリュウガの元へと駆け寄ってくる。

彼女の瞳には、大粒の涙が浮かんでいたが、

その顔には、仲間を信じ、そして待ち続けた者だけが浮かべることのできる、

誇らしげな、そして何よりも美しい笑顔が咲いていた。

彼女の隣では、シルフィとレインが、

「やったね!」「やったよ!」とでも言うように、

嬉しそうに、そして少しだけ自慢げに、

「ピャウ!」「ピィ!」と鳴き交わしている。


「フン、小僧!

なかなかやるじゃないか!

あの、空の王者の機嫌を損ねることなく、

無事に、お目当てのものを持ち帰ってくるとはな!」

ギドさんも、

カイ様と共に、

その身に、激しい戦いの痕跡を刻みながらも、

満足そうに、そして力強く、俺の肩を叩いた。

カイ様も、その美しい、しかし今は少しだけ煤で汚れた顔に、

珍しく、穏やかな笑みを浮かべて、

静かに、しかし深く、頷いてくれた。


俺たちの前には、

三つの、伝説の材料が、

まるで、古の儀式のための供物のように、

静かに、そして神々しいまでのオーラを放ちながら、

並べられている。


月光を浴びて、星のように、

淡く、そして幻想的に煌めく『酵母』。

水晶のように、どこまでも、

そしてありえないほどに清らかで、

光そのものを内に閉じ込めたかのような『湧き水』。

そして、太陽の、その心臓のかけらを、

そのまま封じ込めたかのように、

黄金色に、そして力強く輝く『マグマ』。


それぞれが、

それぞれの仲間たちの、

その勇気と、知恵と、そして絆の力によって、

この場所に、確かに、集められたのだ。

それは、まさに、

三つの、かけがえのない、小さな奇跡だった。


「…さて、と」

ギドさんが、

その場の、全ての視線が自分に集まっているのを確認すると、

ゴホン、と一つ、

大きな、そしてわざとらしい咳払いをした。

その顔には、

いつもの不機嫌さではなく、

これから、己の生涯で、

最も神聖で、そして最も重要な仕事に取り掛かろうとする、

一人の、ドワーフの職人としての、

厳かで、そしてどこまでも誇り高い表情が浮かんでいる。


「ここからは、このわしの領域だ」

「伝説の酒、『山の心臓』の醸造を、

これより、執り行う」


「これは、単なる酒造りではない。

ドワーフに、その古より伝わる、

大地への、そして素材への、

感謝と、敬意を捧げるための、

神聖な、神聖な儀式だ。

お前たち、決して、私語は許さんぞ。

ただ、その目で、

そして、その魂で、

この、奇跡が生まれる瞬間を、

しかと、見届けるがいい」


ギドさんの、そのあまりにも真剣で、

そして荘厳なまでの言葉に、

俺たちは、

ゴクリと、固唾を飲んで、

力強く、そして深く、頷いた。


儀式の舞台は、

ドラゴンステーションの、

その一角に新設された、

ギドさんの、新しい鍛冶工房。

その中央には、

この日のために、ギドさんが、

それこそ、寝る間も惜しんで、

その魂の全てを注ぎ込んで鍛え上げたという、

巨大な、そして美しい、

ミスリル銀と、アダマンタイト合金で作られた、

特殊な、そして神聖な輝きを放つ、

巨大な醸造の樽が、

静かに、そして堂々と、鎮座していた。


ギドさんは、

まず、俺たちに、

その身を清めるようにと、指示した。

俺たちは、工房の隣にある井戸で、

この数日間の、冒険の汚れと汗を洗い流し、

そして、心を、無にするように、

静かに、瞑想を始めた。


やがて、

ギドさんの、その厳かな合図と共に、

儀式は、静かに、そして厳かに、開始された。


「まず、器となる、この星の涙を…」

ギドさんの、その低い声に、

リリアさんが、

ゆっくりと、そして祈りを込めるように、

『水晶清水』の入った革袋を、

醸造樽へと、そっと、傾けた。


トクトク…トクトク…

この世のものとは思えないほど、

清らかな、そして純粋な水が、

樽の中へと注がれていく。

その水が、樽の底の、

ミスリル銀に触れた瞬間、

キィン、と、

まるで、教会の、その神聖な鐘の音のように、

美しく、そしてどこまでも透き通った音が、

工房全体に、優しく響き渡った。

工房の、その淀んでいたはずの空気が、

一瞬にして、浄化されていくのが、

肌で、感じられる。


「…うむ。見事だ、嬢ちゃん。

お前さんの、その清らかな心が、

この水に、確かに宿っておるわい」

ギドさんは、満足そうに頷いた。


「次に、命の種を…

星の、その煌めきを、ここに…」

今度は、俺の番だった。

俺は、

グリフォンとの、あの月下の舞踏を、

そして、王者への敬意を、心に思い浮かべながら、

『煌めき苔の酵母』を、

そっと、その清らかな水の中へと、

振り入れた。


酵母は、

ただ、水に溶けるのではなかった。

まるで、夜空に、

新しい、無数の星々が生まれたかのように、

キラキラと、そして幻想的に輝きながら、

水の中を、ゆっくりと、

そして優雅に、舞い始めたのだ。

樽の中は、

さながら、小さな、美しい銀河系のようだった。


「そして、最後に…」

「この星の、その情熱の、

そして、その魂の鼓動を…!」

ギドさんとカイ様が、

二人掛かりで、

あの、灼熱の『太陽石のマグマ』が封じ込められた、

特殊な耐熱性の容器を、

慎重に、そして力強く、持ち上げた。


容器の蓋が、開けられる。

ゴウッ、と、

凝縮された、しかし決して暴力的ではない、

温かく、そして力強い熱波が、

工房全体を、優しく包み込む。

ギドさんが、その額に、

玉のような汗を浮かべながら、

黄金色に輝く、その粘性の高い液体を、

樽の中へと、

一気に、しかし驚くほど正確に、注ぎ込んだ!


ジュワアアアアアアアッ!!!


三つの、伝説の材料が、

ついに、一つの器の中で、出会った!

その瞬間、

樽の中の液体は、

激しく、そして荒々しく泡立ち、

赤、青、そして黄金色の、

混沌とした、危険な魔力の火花を、

バチバチと、激しく散らし始めた!

まるで、制御不能な、

小さな、そして危険な嵐のようだ!


「まずい…!

このままでは、暴走する…!」

俺が、そう叫んだ、その時だった。


「ここからが、本番だぜ、小僧!」

ギドさんが、

ニヤリと、

この世の、全ての自信を、その顔に浮かべて笑った!


「最高の酒を造るための、

最後の、そして、何よりも重要な材料はな…」

「この、わしの…

ドワーフの、魂だッ!!」


ギドさんは、雄叫びを上げると、

その両手に、愛用の、

しかし、今日は、その輝きがいつもとは違う、

神聖なまでのオーラを放つ金槌を、力強く握りしめた!


そして、彼は、

歌い始めた。


それは、

俺がこれまで聞いたこともないような、

どこまでも深く、

どこまでも力強く、

そして、どこまでも、

この星の、その魂に直接響くような、

古の、そして神聖な、

ドワーフの、『醸造歌』だった。


カン…!

「おお、偉大なる、大地の御母よ…!」

コン…!

「我らに、その揺るぎなき、強さを与えたまえ…!」

カン…!

カン…!

「おお、燃え盛る、山の心臓よ…!」

コン…!

コン…!

「我らに、その尽きることなき、情熱を与えたまえ…!」


ギドさんの、そのリズミカルな、

そして魂のこもった金槌の音と、

その、大地そのものが唸っているかのような、

力強い歌声が、

樽の中の、あの混沌とした魔力の嵐を、

少しずつ、少しずつ、

鎮め、そして、一つの、

大きな、そして力強い鼓動へと、

調和させていく。


それは、もはや、

ただの酒造りではなかった。

これは、

この星の、その生命そのものを、

再び、この世に生み出すための、

神聖な、神聖な、創造の儀式だった。


やがて、

ギドさんの、その最後の、

力強い一打と共に、

歌は、終わった。

工房には、

まるで、世界が生まれた直後のような、

深く、そして心地よい、

絶対的な静寂が、訪れた。


俺たちは、

恐る恐る、

そして、大きな期待を胸に、

醸造樽の、その中を、覗き込んだ。


そこにあったのは…。

もはや、液体ではなかった。

それは、

樽の中で、静かに、

しかし、力強く脈打つ、

この星の、そのもののように、

温かく、そして黄金色に輝く、

一つの、大きな『心臓』だった。

そこからは、

嗅いだだけで、

魂が、その奥底から震えるような、

芳醇で、甘く、

そして、どこまでも力強い、

生命の香りが、立ち昇っていた。


「…できた…」

ギ-ドさんが、

その場に、どさりと、

全ての力を使い果たしたかのように、座り込んだ。

その、汗だくの、そして煤で汚れた顔には、

一筋の、

しかし、どんな宝石よりも美しい、

満足の、そして歓喜の涙が、

静かに、流れていた。


「…できたぞ…小僧…」


「これこそが、伝説の…」


「『山の心臓』だ…」


俺たちは、

目の前の、その、

あまりにも神々しく、

そして、あまりにも美しい、

奇跡の産物を前に、

ただ、言葉もなく、

立ち尽くすことしか、できなかった。

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