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第120話 水晶の洞窟と、炎の山

俺とリュウガが、

双月の輝く極寒の頂で、

空の王者グリフォンとの、

その魂の対話を繰り広げていた、ちょうどその頃。


アースガルド大陸の、

同じ、しかし全く異なる場所で、

俺たちの、かけがえのない仲間たちもまた、

それぞれの、困難な、

そして何よりも重要な試練に、

その身一つで、立ち向かっていた。


***


リンドブルムの東、

深く、そしてどこまでも静かな森を抜けた先にある、

巨大な水晶の鉱脈。

その、地底深くへと続く、

ひんやりとした、そして湿った空気に満ちた洞窟の入り口に、

リリアさんと、

彼女の忠実な相棒であるウィンドランナーのシルフィ、

そして、斥候役のピクシー・ドレイクたちが、

静かに、そして決意を込めて立っていた。


彼女たちの目的は、

この洞窟の、その最も奥深くで、

何千年もの時間をかけて濾過され続けたという、

伝説の、そしてこの世で最も清らかな湧き水、

『水晶清水』を手に入れること。


「シルフィちゃん、レインちゃん、

これから、この中に入るわ。

中は、すごく暗くて、

それに、どんな魔獣がいるか分からない。

でも、怖くないわ。

私には、みんながついているもの」


リリアさんは、

少しだけ震える、自分の小さな手を、

ぎゅっと、強く握りしめた。

その瞳には、不安の色よりも、

ケンタさんから託された、

この重要な任務を、必ずやり遂げるのだという、

強い、強い意志の光が宿っている。


彼女はもう、

ただ守られるだけの、薬屋の娘ではない。

『ドラゴン便』の、

そして仲間たちの未来を背負って立つ、

一人の、誇り高き冒険者なのだ。


洞窟の中は、

まるで、異世界に迷い込んだかのような、

幻想的で、そしてどこか神秘的な光景が広がっていた。

壁も、床も、天井も、

全てが、巨大な、そして様々な色に輝く水晶でできており、

それが、リリアさんの持つ、

小さな魔力ランプの灯りを、

キラキラと、そして複雑に乱反射させて、

まるで、無数の星々の中にいるかのような、

美しい、しかし方向感覚を失わせるような、

不思議な空間を作り出していた。


「わぁ…きれい…」

リリアさんは、思わず、

感嘆の声を漏らした。

だが、その美しさとは裏腹に、

この洞窟には、

何やら、得体の知れない気配が満ちている。


カサ…カサ…


不意に、

水晶の壁の向こうから、

何かが、ゆっくりと近づいてくる音がした。

シルフィとピクシー・ドレイクたちが、

一斉に、警戒の鳴き声を上げる!


リリアさんは、咄嗟に、

護身用の短剣を構えた。

その、小さな体の、どこに、

これほどの勇気が隠されていたのだろうか。


やがて、

暗闇の中から、姿を現したのは…。

それは、リリアさんが想像していたような、

凶暴な、牙を剥く魔獣ではなかった。


体長は、人間の子供くらいだろうか。

その甲羅は、

まるで、この洞窟の水晶そのものが、

長い、長い時間をかけて命を宿したかのような、

透き通るほどに美しく、

そして、淡い、優しい光を放っている。

巨大な、古代の亀のような、

穏やかで、そしてどこか物悲しい瞳をした、

不思議な生き物だった。

その数は、十数匹。

彼らは、リリアさんたちの前に、

ゆっくりと、しかし確かな意志を持って、

立ちはだかった。


(この方たちが、

この『水晶清水』の、守り手なのかしら…)

リリアさんは、直感的にそう感じた。

彼らからは、敵意は感じられない。

ただ、この神聖な場所を、

外部の者から守ろうとする、

静かで、しかし、どこまでも強い意志が、

ひしひしと伝わってくる。


力で、ねじ伏せることはできない。

それでは、きっと、

彼らは心を、そしてこの泉を、

永遠に閉ざしてしまうだろう。


リリアさんは、

そっと、短剣を鞘に収めた。

そして、

ケンタさんが、いつも、

リュウガさんや、他のドラゴンたちにそうするように、

相手の、その心に、

直接語りかけることを選んだ。


彼女は、

薬草の籠の中から、

この旅のために、特別に用意してきた、

あるものを取り出した。

それは、リリアさんの実家の薬屋に、

古くから伝わる、

森の、そして大地の精霊たちが、

何よりも好むと言われている、

特殊な、そして甘い香りを放つ、

光る苔だった。


リリアさんは、その光る苔を、

亀たちの前に、

そっと、そして恭しく差し出した。


「こんにちは、水晶の守り手さん。

私たちは、あなた方に危害を加えるつもりはありません。

ただ、私たちの、大切な仲間を救うために、

どうしても、あなた方が守っている、

その清らかなお水が、

ほんの少しだけ、必要なのです。

どうか、私たちの、この真心を受け取って、

道を、開けてはいただけないでしょうか…?」


リリアさんの、

その、どこまでも純粋で、

そして、心からの、魂からの言葉。

それを、亀たちは、

その、古代の叡智を宿したかのような、

穏やかな瞳で、

じっと、聞いていた。


やがて、

群れの中でも、ひときわ大きく、

そして、その甲羅が、

まるで虹のように輝いている、

長老らしき一頭が、

ゆっくりと、リリアさんの前へと進み出た。

そして、

彼女が差し出した、光る苔の匂いを、

くん、と一度だけ嗅ぐと、

その、大きな頭を、

まるで、人間の、お辞儀のように、

こくりと、一つ、静かに下げた。


それは、

言葉を超えた、

魂の、そして心の、

確かな、和解の証だった。


***


一方、その頃。

東山脈の、もう一方の、

灼熱の地獄のような火山地帯では、

ギドさんとカイ様が、

全く異なる、しかし同じように困難な、

命懸けの試練に、挑んでいた。


ゴウゴウと、

大地が、その奥底から唸り声を上げ、

地面は、足の裏が焼けるかのように熱い。

空気は、鼻を突く、強烈な硫黄の匂いで満ち満ちている。


「カイの旦那!

気を抜くなよ!

一歩間違えれば、

お前さんの、その綺麗な銀髪も、

丸焦げになっちまうからな!」


「分かっている、ギド殿!

あなたこそ、足元には十分気をつけていただきたい。

この山は、あなたの故郷かもしれんが、

今は、我々にとって、完全な敵地だ!」


二人は、憎まれ口を叩き合いながらも、

その背中は、互いの死角を完璧に補い合い、

絶対的な信頼で結ばれていた。


やがて、

彼らが、目的の『太陽石のマグマ』が流れる

火口のカルデラへとたどり着いた時。

それを、待っていたかのように、

地面の、そのマグマの裂け目から、

複数の、燃え盛る獣が、

そのおぞましい姿を現した!


それは、体全体が、

ドロドロと溶けた、灼熱の溶岩でできており、

その口からは、炎そのものを吐き出す、

地獄の番犬、『ラヴァ・ハウンド』の群れだった!


「来たか、地獄のワンコロどもが!

ちょうどいい!

この、新しい得物の、試し切りにしてくれるわ!」

カイ様が、

ギドさんが鍛え直した、

その新しい愛剣を抜き放つ!

剣の刃は、

周囲の、燃え盛る炎の光を反射して、

まるで、氷のように、

冷たく、そして青白い輝きを放っている!


「フン、任せたぜ、騎士坊主!

わしは、ちと、準備運動でもさせてもらうとするかのう!」

ギドさんも、

その両手に、愛用の巨大な金槌を構え、

まるで、これから楽しい祭りが始まるとでも言うように、

不敵な笑みを浮かべていた!


戦いは、熾烈を極めた。

カイ様の、その水のように滑らかな剣技が、

ラヴァ・ハウンドの、その灼熱の体を、

面白いように切り裂いていく!

ギドさんの、その岩をも砕く金槌が、

地面を叩きつけ、

小規模な岩雪崩を起こして、

敵の動きを、巧みに、そして的確に封じ込める!

上空からは、ウィンドランナーのゲイルが、

風の刃を放ち、

二人の、その完璧な連携を、

力強く、サポートする!


それは、もはや、

ただの戦いではない。

剣と、槌と、そして風が織りなす、

荒々しく、そしてどこまでも美しい、

死の、三重奏だった!


全ての、地獄の番犬を打ち倒した後。

ギドさんは、

汗だくの、しかし最高に満足げな顔で、

ドワーフ特製の、巨大な、

そして何重もの魔法がかけられた耐熱性の柄杓を使い、

流れる、黄金色のマグマを、

慎重に、そして大胆に、掬い上げた。

その液体は、

まるで、太陽そのもののかけらを、

そのまま溶かし込んだかのように、

眩い、そして圧倒的な熱量の光を放っていた。


「よし、やったぜ、カイの旦那!」

「ああ、見事な腕前だった、ギド殿」


二人の、傷だらけの、しかし誇りに満ちた戦士は、

互いの、その健闘を称え合い、

力強く、そして固く、

その拳を、突き合わせた。


***


その日の、夕暮れ時。

リンドブルムのドラゴンステーションに、

三つのチームが、

それぞれの、奇跡のような『お土産』を手に、

ほぼ、同時に、帰還した。


俺とリュウガが持ち帰った、

月光を浴びて、星のように煌めく『酵母』。

リリアさんとシルフィが持ち帰った、

水晶のように、どこまでも清らかな『湧き水』。

そして、ギドさんとカイ様が持ち帰った、

太陽のように、黄金色に輝く『マグマ』。


アースドラゴン『マグナ』を目覚めさせるための、

三つの、伝説の材料が、

今、確かに、この場所に、集結したのだ。


俺たちは、互いの、

その満身創痍の、しかし、

これ以上ないほど晴れやかな顔を、見合わせた。

そして、誰からともなく、

大きな、大きな、

勝利の、そして歓喜の雄叫びを、上げた。

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