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第117話 東山脈ルート開拓計画

凱旋の祝賀と、アクアティアとの同盟締結という、

目まぐるしくも希望に満ちた数日間が過ぎ、

リンドブルムのドラゴンステーションは、

再び、その本来の活気を取り戻していた。

いや、以前とは比較にならないほどの、

新しい時代の熱気が、この場所には満ち溢れている。

その、熱気の中心。

ドラゴンステーションの、まさに心臓部である作戦司令室で、

俺は、仲間たちと共に、

壁一面に広げられた、巨大なアースガルド大陸の地図の前に立っていた。

「みんな、見てくれ」

俺は、進化した『異世界物流システム Lv.3』の力で、

地図の上に、半透明の、

まるでホログラムのような立体的な情報を投影させた。

青い光の線が、大陸の西と南を結ぶ「南西航路」の、

活発な物の流れを示している。

そして、その流れが、リンドブルムとアクアティアに、

どれほどの富と、そして人々の笑顔をもたらしているかを、

誰の目にも分かりやすく可視化していた。

「南西航路は、完全に軌道に乗った。

これは、俺たちだけの力じゃない。

アリア様や、カイ様、フィンレイ様、

そして、この同盟を信じてくれた、

全ての人々の力だ」

俺の言葉に、

この会議に、アクアティア公国の代表として

正式に参加してくれていたアリア様が、

仮面の下で、誇らしげに、そして優しく微笑んだのが分かった。

「だが、俺たちの夢は、ここで終わりじゃない」

俺は、地図の、ある一点を、力強く指差した。

そこは、リンドブルムの東に、

まるで、世界の果てを示す巨大な壁のように、

どこまでも、どこまでも連なる、

険しく、そして未踏の山脈地帯だった。

「東山脈ルート…」

「この、巨大な壁に閉ざされた、

大陸の東側と、俺たちの住む西側を繋ぐ、

新しい、そして何よりも重要な物流ルートを、

俺は、開拓したいと思っている」

俺の、そのあまりにも大胆な提案に、

部屋にいた誰もが、息を呑んだ。

「ケンタ殿、それは…無謀ですわ」

アリア様が、心配そうな声で言った。

「東山脈は、古くから『神々の背骨』と呼ばれ、

天候は常に荒れ狂い、

その谷は、あまりにも深く、

どんな熟練の竜騎士でも、

越えることは困難だと、古文書にも記されています」

「ああ、姫さんの言う通りだぜ、小僧」

ギドさんが、腕を組み、唸るように言った。

その顔には、いつもの不機嫌さとは違う、

この山脈を知る者だけが浮かべる、

厳しい、そしてどこか懐かしむような表情が浮かんでいる。

「あの山脈を、生半可な覚悟で越えようなどと思うな。

風は、カミソリのように翼を切り裂き、

谷底には、光すら届かん。

それに、あの山に棲む魔獣は、

平地の奴らとは、その凶暴さも、強さも、

桁が違うぞ」

仲間たちの、その心配は、もっともだった。

だが、俺には、勝算があった。

いや、勝算というより、

どうしても成し遂げなければならない、

強い、強い理由があった。

俺は、再び、スキルが映し出す立体地図を操作する。

すると、山脈の向こう側に、

いくつかの、小さな光の点が現れた。

「見てくれ、みんな。

この山脈の向こう側には、

ギドさんの故郷である、ドワーフたちの地下都市がある。

そこでは、俺たちが求める、

最高品質の鉱石や金属が、

今も、豊富に産出されているはずだ。

ギドさんが、究極のギアやコンテナを開発するためには、

どうしても、その素材が必要になる」

「そして、そのさらに東。

鬱蒼とした、広大な森の中には、

エルフたちが隠れ住むという、『静寂の森』がある。

リリアさん、君が求める、

どんな病をも癒すという、伝説の薬草も、

あるいは、そこにあるのかもしれない」

「今、彼らは、完全に孤立している。

良いものを持っていても、

それを、必要としている人々に届けることができない。

逆に、生活に必要な物資を手に入れることすら、

困難な状況にあるのかもしれない。

それは、かつてのアクアティアが、

そして、ゴードンに支配されていた頃のリンドブルムが、

抱えていた問題と、全く同じなんだ」

俺は、仲間たちの顔を、一人一人、

確かめるように見渡した。

「俺は、この『歪み』を、正したいんだ。

調停者として、じゃない。

一人の、運び屋としてだ。

人々の想いを、そして未来を繋ぐ、

『ドラゴン便』のマスターとして、

この、分厚い、そして冷たい壁を、

俺たちの翼で、打ち破りたいんだ」

俺の、その魂からの言葉に、

部屋の中は、静まり返っていた。

ただ、俺の熱い想いだけが、

その場の空気を、確かに震わせている。

やがて、

それまで黙って、

地図の、その東山脈の一点を、

じっと、何かを堪えるような目で見つめていたギドさんが、

重々しく、そして、

その心の奥底から絞り出すように、

低い声で、呟いた。

「…故郷、か…」

その声は、

俺がこれまで聞いたこともないほど、

寂しく、そしてどこか、

懐かしさに満ちていた。

「ギドさん…?」

俺が、彼の顔を覗き込むと、

彼は、ふいと顔をそむけ、

そして、照れ隠しのように、

しかし、その瞳の奥に、

熱い、熱い炎を宿しながら、言った。

「…フン。

わしは、もう、何十年も、

あの石頭どもが支配する、窮屈な故郷には戻らん、

そう、心に決めとったわい」

「わしの、この、新しい技術…

魔法と、工学とを融合させるという、

この革新的なアイデアを、

奴らは、『伝統への反逆だ』と、

一笑に付し、そして、わしをこの街へと追いやった。

あの、頭の固い、長老どもめが…!」

ギドさんの声には、

長年、その胸の内に燻り続けていたであろう、

深い、深い怒りと、

そして、故郷への、

断ち切ることのできない、複雑な想いが込められていた。

「だが…」

彼は、そこで一度言葉を切り、

そして、俺の顔を、真っ直ぐに見据えた。

「だがな、小僧。

お前さんの、その、馬鹿げた、

しかし、どこまでも真っ直ぐな夢を聞いていたら、

なんだか、少しだけ、

あの石頭どもに、

わしの、この最高傑作を見せつけてやりたくなったわい。

そして、あの頃の、わしを信じてくれた、

たった一人の、わしの師匠に…

そして、今もあの山で暮らす、わしの同胞たちに…」

彼の、そのゴツゴツとした拳が、

ぎゅっと、強く、固く、握りしめられる。

「…いいだろう、小僧!

その、無謀な、そして最高に面白い挑戦、

このギド・アイアンハンドが、

故郷への道案内役として、

そして、お前たちの、その翼を支える鍛冶師として、

最後まで、付き合ってやらあ!」

ギドさんの、その魂からの力強い宣言に、

俺たちの心にも、

新たな、そして燃えるような闘志の火が灯った。

「よし、決まりだな!」

俺は、力強く頷いた。

「作戦は、二手に分かれて進める!」

「まず、ギドさん率いる、地上部隊だ!

この東山脈を、安全に、そして確実に越えるための、

陸路を開拓してもらう!」

「そして、俺とリュウガ、リリアさん、

そしてウィンドランナーの精鋭たちからなる、空の部隊は、

上空から、そのルートの安全を確保し、

そして、エルフたちが住むという『静寂の森』との、

最初の接触を試みる!」

「だが、そのためには、

まず、どうしても必要な『仲間』がいる」

俺は、ギドさんの顔を、

期待を込めて見つめた。

「ギドさん。

あなたの故郷の、その山脈に眠るという、

伝説の『アースドラゴン』。

大地を揺るがし、山を切り開くという、

その、陸の王者を目覚めさせる方法を、

あなたは、知っているんじゃないですか?」

俺の、その核心を突いた問いかけに、

ギドさんは、

ニヤリと、

まるで、全てお見通しだとでも言うように、

この日一番の、

最高の、そして自信に満ちた笑みを浮かべた。

「フン、小僧。

ようやく、そこに気づいたか。

いいだろう、教えてやる。

あの、大地の頑固者を、

その長い、長い眠りから叩き起こす、

とっておきの、ドワーフの秘策をな…」

俺たちの、次なる、

そして、これまでで最も困難で、

しかし、最も胸躍る冒険の、

その最初の、そして最も重要な目標が、

今、確かに、定まった瞬間だった。


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