第111話 蒼き炎と、沈みゆく野望
「グルルルルルァァァァァッ!!!!」
俺の、魂からの叫びに、
リュウガが、
そして、全ての仲間たちが、
最後の、そして最大の決戦への覚悟を込めて、
雄叫びを上げた!
双月の、妖しい光の下、
俺たちの、未来を賭けた、
最後の戦いの火蓋が、
今、まさに、切って落とされた。
戦場は、混沌を極めていた。
ギドさんが『さざなみ号』に仕掛けたドワーフ式カタパルトが、
轟音と共に火を噴き、
魔力で強化された炸裂弾が、
ネプトゥーリアの護衛艦の甲板を、
まるで巨大な拳で殴りつけたかのように粉砕する!
「ハッハッハ!
どうだ、海のチンピラども!
ドワーフの工学技術は、世界一だぜ!」
ギドさんの、勝利を確信したかのような雄叫びが、
荒れ狂う海に響き渡る。
「カイ様!
右翼の船、お願いします!」
「承知した!
ゲイル、私を頼む!」
銀色の流星が、戦場を駆ける。
ウィンドランナーのゲイルの背に乗ったカイ様が、
敵艦の一つへと、恐るべき速さで強襲をかける!
その手の中で、ギドさんが鍛え直した愛剣が、
月光を浴びて、鋭く、そして美しく、
しかしどこまでも無慈悲に輝く!
「姫君の剣に、一片の曇りもあってはならんのだ!」
彼の、その神業のような剣閃が、
ネプトゥーリの兵士たちを、
まるで、秋の日の枯葉のように、
次々と、容赦なく薙ぎ払っていく!
その姿は、もはや人間の騎士ではない。
戦場を舞う、気高き、銀色の死神そのものだった。
「アリア様!
結界の維持を!」
「ええ、お任せください、リリアさん!」
船上では、二人の姫君が、もう一つの戦いを繰り広げていた。
アリア様が、その身に宿す『海神の涙』の力を、
最後の力を振り絞るように解放し、
『さざなみ号』の周囲に、
青白い、神々しいまでの防御結界を展開する!
敵艦から放たれる、雨のような魔力砲の攻撃が、
その神聖な結界に触れた瞬間、
まるで泡のように、静かに消滅していく。
その隣で、リリアさんが、
負傷したウィンドランナーや船員たちに、
献身的に、そして驚くほど冷静に、
治癒の魔法と、薬草による手当てを施している。
その優しい手と、その強い瞳が、
仲間たちの、絶望しかけた心に、
再び、戦うための勇気の灯をともしていく。
そして、俺とリュウガは…!
(スキルウィンドウ、全開!
敵旗艦の構造データを、徹底的に分析しろ!)
俺は、リュウガの背中の上で、
これまでにないほど、全神経を集中させていた。
脳内に展開された、半透明のスクリーンに、
敵旗艦の、ありとあらゆる情報が、
膨大な、そして高速のデータとなって流れ込んでくる。
船体の材質、装甲の厚さ、
魔力シールドのエネルギー循環経路、
そして…
(見つけた…!)
俺の目が、スキルウィンドウが映し出した、
ある一点を、確かに捉えた!
船体の中央、喫水線のわずか下。
そこが、この巨大な軍艦の心臓部、
魔力エンジンの動力炉だ!
シールドのエネルギー循環も、
ほんの一瞬、そこだけが薄くなる周期がある!
「リュウガ!」
俺は、言葉ではなく、
魂で、相棒に呼びかけた!
「俺たちの、全ての想いを、
リリアの、アリア様の、仲間たちの、
全ての祈りを、
その一撃に、込めるんだ!」
「狙うは、あそこだ!」
「船底の、あの忌々しい心臓部を、
俺たちの、この蒼い炎で、
完全に、そして完璧に、貫けぇぇぇっ!!」
「グルルルルルァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
俺の、血を吐くような魂の叫びに、
リュウガが、呼応した!
それは、もはや、ただの咆哮ではなかった。
仲間を守りたいという、純粋で、
そして何よりも強い想い。
理不尽な暴力への、燃えるような怒り。
その全てが、リュウガの中で一つとなり、
かつてないほどの、神々しいまでの力へと昇華していく!
リュウガの全身から、
瑠璃色のオーラが、
まるで、蒼い炎のように、激しく立ち昇る!
そして、その大きく開かれた口元に、
これまで見たこともないような、
凝縮された、絶対的な破壊のエネルギーが、
まるで、小さな、蒼い太陽が生まれるかのように、
収束していく!
(これが、リュウガの、本当の力…!)
それは、もはやブレスというより、
神の、裁きの光。
俺は、その技の名を、
心の中で、確かに叫んだ。
(行けぇぇぇっ!
『蒼炎の裁き(ジャッジメント・フレア)』ッ!!!)
次の瞬間。
世界から、全ての音が、消えた。
リュウガの口から放たれた、
一条の、どこまでも純粋な蒼い閃光が、
夜の闇を切り裂き、
テオンの旗艦へと、
寸分の狂いもなく、そして一切の慈悲もなく、
突き刺さった!
敵艦の自慢であったはずの魔力シールドは、
その神罰のような光の前に、
まるで、薄いガラス細工のように、
音もなく、あっけなく砕け散る。
そして、その蒼き炎は、
分厚い鉄の装甲を、
まるで、熱したナイフがバターを溶かすかのように貫き、
船体の、まさに心臓部、
魔力エンジンの動力炉を、
完璧に、そして完全に捉えた。
一瞬の、静寂。
そして、
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
船の奥底から、
地獄の釜が開いたかのような、
低く、そして重い、断末魔の呻きが響き渡る。
次の瞬間、
凄まじい大爆発が、
テオンの旗艦を、内側から、
まるで熟れた果実が弾けるかのように、
無慈悲に、そして木っ端微塵に引き裂いた!
巨大なマストは、真っ二つに折れ、
燃え盛る炎と黒煙が、
双月の夜空を、醜悪に染め上げる。
船体は、ゆっくりと、
しかし確実に、その傾きを増し、
やがて、断末魔の叫びのような軋みを上げながら、
蒼く、そしてどこまでも深い、
海の底へと、その傲慢な姿を沈めていった。
「そ、そんな…
旗艦が…一撃で…!?」
「化け物だ…あれは、神の使いか、
それとも悪魔か…!?」
残された、二隻の護衛艦の兵士たちは、
目の前で起こった、あまりにも信じがたい、
そして絶望的なまでの光景に、
完全に戦意を喪失し、
ただ、呆然と、
空に浮かぶ、神々しいまでの瑠璃色の竜の姿を、
見上げることしかできなかった。
「…くっ!
おのれ…おのれぇぇぇっ…!」
燃え盛る旗艦の残骸から、
かろうじて救命ボートで脱出したテオン王子が、
生まれて初めて味わうであろう、
完全な、そしてどうしようもない、
屈辱的なまでの敗北に、
その美しい顔を、怒りと憎悪で真っ赤にして、
唇を、血が滲むほどに強く噛みしめている。
「覚えておれよ、ドラゴン便…!
そして、アクアティアの姫…!
この屈辱、決して、決して忘れはせんぞ…!」
「だが、これで終わりだと思うな!
お前たちが目指す、あの忌々しい島には、
この私や、この艦隊など、
赤子同然に思えるほどの、
我が国最強の『守護者』が、
既にお前たちを、手ぐすね引いて待ち構えている…!」
「せいぜい、その短い、最後の旅を、
存分に、楽しむがいい!」
テオンは、呪詛のような、
そして、あまりにも陳腐で、
負け犬の遠吠えにしか聞こえない捨て台詞を残すと、
残存する艦隊に、撤退を命じた。
彼らは、その巨大な船体に似合わぬほどの、
みっともない、そして哀れなほどの速さで、
その場を、逃げるように去っていった。
戦いは、終わった。
後に残されたのは、
静けさを取り戻した、しかしおびただしい数の残骸が浮かぶ海と、
そして、傷つき、疲れ果て、
しかし、確かに勝利を掴み取った、
俺たち仲間たちだけだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…
やった…のか…?
本当に…俺たちは、勝ったのか…?」
俺は、荒い息を整えながら、
ただ、呆然と、
静けさを取り戻した海面を見つめていた。
リュウガも、あの究極の一撃で、
全ての力を使い果たしたのか、
俺の背中で、ぐったりと、
しかし満足そうな、穏やかな寝息を立てている。
仲間たちも、
それぞれが、疲労困憊だった。
だが、その顔には、
確かに、この絶望的な死闘を乗り越えた者だけが浮かべることのできる、
勝利の、そして安堵の色が、
昇り始めた、朝日の光を浴びて、
キラキラと、輝いていた。
俺たちは、
この広大な、そしてあまりにも過酷な海の試練を、
仲間たちとの、
言葉では言い表せないほどの、
深く、そして強い絆の力で、
見事、乗り越えたのだ。
だが、休んでいる暇はない。
俺たちの視線の先、
水平線の、その遥か彼方には、
テオンが残した、不気味な予言と共に、
目的地である『賢者の隠れ島』の、
黒く、そしてまるで巨大な墓標のような、
不気味なシルエットが、
朝靄の中に、静かに、そして禍々しく、
その姿を、現し始めていた。




