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第107話 偵察艇の奇襲と、リオの秘策

ピャアアアッ!!


マストの上で見張りをしていたウィンドランナーの、

甲高く、そして切迫した警告音が、

俺たちの束の間の平穏を、

まるでガラスのように、粉々に打ち砕いた。


船上の、あの穏やかで温かい空気は、

一瞬にして、氷のように張り詰める。


「ケンタ殿!」

フィンレイ様が、鋭い声で俺の名を呼ぶ。


「カイ!

アリア様をお守りしろ!」

その声は、もはや老練な宰相補佐のものではなく、

幾多の戦場を潜り抜けてきた、指揮官のそれだった。


カイ様は、言うまでもなく、

その美しい銀髪を翻し、

アリア様の前へと、まるで盾のように立ちはだかる。

その手は、既に愛用の剣の柄を、

白くなるほど強く握りしめていた。


「くそっ…!

やっぱり、来たか…!」


俺は、忌々しそうに吐き捨て、

スキルウィンドウを、全神経を集中させて起動する。

脳内に、半透明のスクリーンが展開され、

斥候のウィンドランナーが捉えた情報が、

膨大なデータとなって流れ込んできた。


(なんだと…!?)

俺は、その情報に、思わず息を呑んだ。


【敵性存在を探知】

【識別:ネプトゥーリア王国所属 高速偵察艇『シーサーペント級』×3隻】

【武装:小型魔力砲、速射クロスボウ搭載】

【特殊装備:長距離通信用魔晶石(高出力型)】

【乗員:各5名、練度C+】

【現在位置:当船団より北東、約5km。岩礁地帯を抜け、こちらへ向けて接近中!】


三隻…!

しかも、ただの偵察艇じゃない。

本隊に、こちらの位置情報をリアルタイムで送信するための、

強力な通信機能を持った、厄介な代物だ。


「どうする、ケンタ殿!?

今すぐ、あなたの、あの竜の力で、

奴らを叩き潰すべきではないのですか!?」

カイ様が、焦りを滲ませた声で叫ぶ。

彼の言うことも無理はない。

先手必勝。それが、戦いの基本だ。


「いや、待て、カイの旦那!」

その、血気にはやる若き騎士を制したのは、

意外にも、ギドさんだった。

彼は、工房から持ち込んだ、巨大な金槌を肩に担ぎ、

厳しい表情で海面を睨みつけている。


「奴らの目的は、戦闘そのものじゃねえ。

俺たちの、この場所を、

そして俺たちの戦力を、本隊に知らせることだ。

下手にここで派手な戦闘をすれば、

魔力の大きな残滓が、この海域に残っちまう。

そうなれば、奴らの思う壺だ。

もっと巨大な本隊が、この場所に押し寄せてくることになるぞ」


「ギド殿の言う通りです」

フィンレイ様も、冷静に頷いた。

「我々が今、なすべきことは、

静かに、そして、何よりも確実に、

奴らの『目』と『耳』を奪うこと。

つまり、あの忌々しい通信魔道具を、

奴らが作動させる前に、破壊することです」


だが、どうやって?

この、大海原の上で。

敵に気づかれずに接近し、

そして、通信魔道具だけを破壊するなど、

至難の業だ。


俺たちの間に、重苦しい沈黙が流れる。

焦りが、じりじりと、俺たちの心を蝕んでいく。


その、重く、張り詰めた空気を、

まるで、陽気な酒場の歌のように打ち破ったのは、

船長である、あの胡散臭い吟遊詩人、リオさんだった。


「へっへっへ。

旦那方、そんなに難しい顔をしなさんな。

ここは、この船長キャプテンリオに、

一つ、任せてもらおうじゃねえか」


彼は、舵を軽やかに操りながら、

ニヤリと、まるで全てお見通しだとでも言うように、

不敵な笑みを浮かべてみせた。


「なんだと、吟遊詩人?

お前に、何か策でもあるというのか?」

ギドさんが、訝しげに尋ねる。


「策、なんて大層なもんじゃねえよ。

ただの、この海に古くから伝わる、

ちょっとした『まやかし』さ」


リオさんは、そう言うと、

俺に向かって、悪戯っぽくウインクした。

「ケンタの旦那。

この入り江はな、ただの岩礁地帯じゃねえ。

古代の、巨大な海竜が、その生涯を終えた、

聖なる墓場なのさ。

その、海竜が遺した強大な魔力の影響で、

この辺りの海流は、まるで生き物のように乱れ、

そして、霧は、意思を持ったかのように、

常に、その姿を変えながら渦を巻く」


「俺たち『語り部』の一族はな、

その、海の唄を聴き、

そして、霧の心を読むことができるのさ。

ネプトゥーリアの、あの頭でっかちな海軍どもには、

決して真似できねえ、特別な航海術でな」


リオさんの言葉に、俺はハッとした。

そうだ、彼には、

俺のスキルでも計り知れない、

この世界の、自然と共生する、

古代からの知恵があるんだ。


「つまり、こうだ」

俺は、リオさんの意図を瞬時に理解し、

仲間たちに向き直った。


「作戦は、二段構えで行く」

「まず、リュウガとウィンドランナーたちが、陽動部隊として、

霧の中から、敵の前に一瞬だけ姿を現しては消え、

奴らを挑発し、この岩礁地帯の奥深くへと誘い込む!」


「そして、敵が完全に俺たちの陽動に気を取られている隙に、

リオさんの『さざなみ号』が、

この霧と、複雑な海流を利用して、

音もなく、敵の背後へと回り込む!」


「最後は、ギドさんとカイ様が、

さざなみ号から敵の偵察艇に飛び移り、

通信魔道具と、船の舵を、

一撃で、そして確実に破壊する!」


俺の、その大胆不敵な作戦に、

仲間たちは、一瞬、息を呑んだ。

だが、その瞳には、

恐怖ではなく、

新たな挑戦への、燃えるような闘志が宿っていた。


「…フン、面白い。

やってやろうじゃないか、小僧!」

ギドさんが、金槌を鳴らして応える。


「姫君をお守りできるのなら、どんな危険な任務も」

カイ様が、静かに、しかし力強く頷く。


「ケンタさん…!

私も、何か…!」

リリアさんが、決意を秘めた目で俺を見る。


「ああ、頼む、リリアさん。

君には、船の上から、

俺のスキル情報をリアルタイムで伝え、

全体の動きをサポートしてほしい。

君の冷静な判断が、この作戦の鍵になる」


「はいっ!」


俺たちは、それぞれの役割を胸に、

夜の闇に紛れて、静かに出航した。

リュウガは、俺を乗せ、

ウィンドランナーたちと共に、

音もなく、闇夜の空を舞う。


作戦は、開始された。


霧が、まるで生き物のように、

俺たちの姿を、優しく、そして巧妙に隠してくれる。


リュウガとウィンドランナーたちが、

霧の切れ間から、

まるで幽霊のように、

ネプトゥーリアの偵察艇の前に姿を現した。


「な、なんだ、あれは!?

ドラゴン…!?

なぜ、こんな場所に!」

「数は…一、二…いや、もっと多いぞ!」

「追え!

絶対に逃がすな!

本隊に、このことを知らせるんだ!」


敵は、俺たちの陽動に、

見事に食いついてきた。

三隻の高速艇が、

我先にと、ドラゴンたちを追い、

岩礁地帯の、迷路のような奥深くへと、

吸い込まれていく。


その隙を、俺たちが見逃すはずがない。


「今だ、リオさん!」


「おうよ!

唸れ、俺の魂のエンジンよ!」


リオさんの神業のような操船で、

『さざなみ号』が、

音もなく、岩礁の間をすり抜け、

敵の、完全にがら空きになった背後へと回り込む。


ギドさんが、魔力エンジンを一時的にオーバーブーストさせ、

船は、まるで水面を滑る矢のように加速する!


「行くぞ、カイの旦那!」

「ああ!」


敵艇に、さざなみ号が体当たりするように接舷した、その瞬間!

ギドさんとカイ様が、

まるで黒い疾風のように、敵の甲板へと飛び移った!


ガァン!

ギドさんの投擲斧が、

敵兵が操作しようとしていた通信魔晶石を、

木っ端微塵に粉砕する!


ヒュン!

カイ様の、水のように滑らかな剣閃が、

船の命綱である舵を、

一刀のもとに、正確に両断する!


「な、何が起こったんだ!?」

「敵襲!?

どこから!?」


ネプトゥーリアの兵士たちは、

自分たちの船が、

一瞬にして、ただの鉄の棺桶と化したことに気づき、

狼狽し、恐慌をきたしている。


作戦は、完璧に成功した。


俺は、上空からその全てを見届け、

静かに、しかし確かな手応えを感じて、

拳を握りしめた。


だが、安堵している暇はない。


「よし、この海域を全速力で離脱する!

奴らの本隊が、異変に気づいてやってくる前に!」

「リリアさん、古文書の解読を急いでくれ!

俺たちの未来は、

君の、その知識と、その瞳にかかっているんだ!」


俺たちの、次なる目的地。

そして、本当の希望が眠る場所、『賢者の隠れ島』。

そこへの道は、

まだ、深い霧の向こうに隠されたままだった。

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