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第104話 アクアティアの姫君と同盟の誓い

嵐の後のような、

不思議な、そしてどこか厳かな静けさの中。

俺たちは、吟遊詩人リオと名乗る、

胡散臭いがどこか憎めない男が船長を務める

小さな船『さざなみ号』の上で、

仮面をつけた、アクアティア公国の若き領主――

アリア様とその一行と、

改めて、しかし未だに、

お互いの運命を探り合うような、

緊張感を伴って対面していた。


(ドラゴン…

やっぱり、本物なのよね…

それに、このケンタという人…

あの、傲慢で残忍なテオン王子を、

言葉だけで、その存在感だけで、

退けてしまうなんて…

一体、この人は、何者なのかしら…?)


アリア様は、その優美な仮面の下で、

俺と、そして俺の背後で、

海面を優しく翼で撫でるように、

静かに空中に浮かぶリュウガの姿を、

警戒と、それ以上の強い好奇心と、

そして、これが最後の希望かもしれないという、

ほんの少しの、しかし切実な期待が入り混じったような、

複雑な、そしてどこまでも深い蒼い瞳で見つめている。

その、言葉にならない心の声は、

リリアさんが持つ通信機を通じて、

俺の心にも、手に取るように、

そして少しだけ切なく伝わってきた。


彼女の隣に立つ、

銀髪の、まるで氷の彫刻のように美しい騎士…カイ様は、

依然として、その手を、

決して鞘から離されることのない剣の柄から離さず、

鋭い、しかしどこか憂いを帯びた紫色の瞳で、

俺たちの全てを射抜くように、

そして、何よりも大切な主君を守るために、

その全身全霊で睨みつけている。

その、あまりにも真っ直ぐで、

そして悲しいほどの忠誠心は、

敵ながら、いや、敵ではないが、

見事としか言いようがなかった。


そして、そのまた隣に立つ、

老練な宰相補佐らしき、フィンレイ様は、

探るような、そしてどこか、

極上の宝石でも値踏みするかのような目で、

俺、ケンタと、そして巨大な竜、リュウガの持つ

未知なる『力』の正体を、

その長年の経験と知識で、

冷静に、そして精密に分析しているようだった。

一番厄介な相手は、

やはり、この老獪な紳士かもしれないな、と俺は思った。


「……まずは、あなた方のお話を、

改めて、そして詳しく聞かせていただけますか。

先ほどの、あなた方のあまりにも見事な登場には、

感謝してもしきれません」

「わたくしは、アリア・ルミナ・アクアティア。

このアクアティア公国の領主代行を、

未熟ながら務めております」


仮面の下から聞こえてくる、

凛とした、しかしどこか、

張り詰めた弦のように儚げな声。

彼女は、覚悟を決めたように、

これまでの、あまりにも過酷な経緯――

海洋大国ネプトゥーリアからの、

人の心をじわじわと蝕むような、理不尽な圧力のこと。

尊敬する、そして何よりも愛する父であった先代領主の、

あまりにも突然で、そして多くの謎に満ちた死のこと。

そして、自分たちが、

この国に古くから伝わる、最後の、そして唯一の希望である

古代の遺物『海神の涙』を、

ネプトゥーリアの、その汚れた魔の手から守ろうとしていた、

嘘偽りのない、そして魂からの、

悲痛なまでの、しかし決して希望を捨てない言葉を、

俺たちに語ってくれた。


彼女の話を、

俺は、静かに、そして真剣に聞いていた。

その言葉の一つ一つが、

俺の胸に、重く、そして深く突き刺さる。

「……そうでしたか。

ご事情は、よく、痛いほど理解できました。

あなたは、たった一人で、

その小さな肩で、

本当に、本当に、想像を絶するほどの

大変な思いをされてきたのですね」

俺の、心の底からの言葉に、

アリア様の肩が、

ほんの少しだけ、しかし確かに、

震えたように見えた。

仮面の下で、彼女は、

きっと唇を噛みしめているのだろう。


「実は、僕たちも、

あなた方と、ほとんど同じ、

いや、全く同じ目的で、

この、世界の果てとも言えるアクアティアの海まで、

はるか北東の国、リンドブルムから、

長い、長い、そして決して楽ではなかった旅をしてきたのです」


「探しているもの…ですって?

あなたたちも…?」

アリア様の声に、

隠しきれない驚きの色が混じる。


「はい。『深淵の水晶』と呼ばれる、

伝説の、そして神聖な遺物です。

それは、莫大な、そして未知なる、

しかし計り知れないほどの可能性を秘めたエネルギーを持ち、

僕たちの故郷の、

そして、僕たち『ドラゴン便』という、

ささやかな運び屋の未来を切り開くための、

かけがえのない、そして最後の鍵となるものなんです」


「僕たちは、あなた方が、

先ほど、あの美しい、そして神々しい光の柱を上げた時に発生した、

巨大な、そしてこれまでに感じたことのない

特殊で、そして純粋なエネルギーの痕跡を追って、

ここまで、導かれるようにやってきたのです。

もしかしたら、あなた方が、

その命を懸けて守ろうとしている『海神の涙』と、

僕たちが探し求めている『深淵の水晶』は、

同じものか、あるいは、

何か非常に密接に、そして運命的に

関係しているものなのかもしれません」


深淵の水晶…!

海神の涙…!


俺の言葉に、

アリア様の隣にいた、

宰相補佐のフィンレイ様の目が、

ギラリと、まるで獲物を見つけた鷹のように鋭く光ったのが、

俺にはっきりと分かった。

彼は、何かを確信したようだ。

俺たちの目的は、

そして、俺たちの運命は、

奇しくも、この広大な、そして嵐の過ぎ去った大海原の上で、

一つに、確かに交わったのだ。


「……では、ケンタ殿」

フィンレイ様が、一歩前に進み出た。

その声には、老練な政治家ならではの、

有無を言わせぬ、そして相手の心を見透かすような

不思議な響きがある。

「我々の目的が、もし本当に同じであるならば、

ここは、一時、

いや、永続的に、

我々と、手を組む、という選択肢は、

お考えにはなれませんかな?」


「手を、組む…ですか」

俺は、フィンレイ様の、

その老獪な、しかしこの国を憂う真摯な目を、

まっすぐに、そして一切逸らすことなく見つめ返した。


「いかにも。

我々は、ネプトゥーリアという、

あまりにも強大で、そして狡猾で、残忍な、共通の脅威を抱えている。

そして、あなた方が求める『水晶』への

最も重要な手がかりを、我々は握っている。

いや、もしかしたら、その『水晶』そのものを、

我々は、知らず知らずのうちに、

代々守り続けてきたのかもしれない」


「その代わり、あなた方には、

その圧倒的な、そして伝説的で、神話的なまでの『力』がある。

我々の持つ『情報』と、あなた方の持つ『力』。

これを、対等な立場で交換し、

そして共有するのです。

双方にとって、これ以上ないほど、

そしてこれ以上望むべくもないほど、

良い話ではないはずですかな?」


フィンレイ様の、大胆不敵な、

しかし、どこまでも理に適った、

そして何よりも魅力的な提案。

それに、俺は、

穏やかな表情のまま、少しだけ考えた後、

最終的な決定権を持つ、

この国の、そしてこの船の、

たった一人の、仮面をつけた姫君、

アリア様へと向き直って、

深く、そして心からの敬意を込めて、頭を下げた。


「……お話は、よく、痛いほどに分かりました。

フィンレイ様の、そしてアリア様の、

この愛する国を、そして民を想う、

その気高く、そして熱い気持ちは、

痛いほどに、私の心に伝わってきました。

もし、よろしければ、ですが……」


「僕たち『ドラゴン便』に、

あなた方、誇り高きアクアティア公国の、

そして、アリア様、あなたご自身の、

未来を切り開くための翼となることを、

どうか、お許しいただけませんか?」


「その代わり、もし、我々が求める『深淵の水晶』が、

この先の冒険で見つかった際には、

その偉大なる力を、ほんの少しだけでも、

僕たちの故郷の、そして新しい時代の物流の未来のためにも、

使わせていただきたいのです。

……いかがでしょうか、アリア様?」


再び、その場の全ての視線が、

仮面をつけた、小柄な、

しかし、その存在感は、

この場の誰よりも大きく感じられる姫君、

アリア様へと、一斉に、

まるで運命の審判を待つかのように集まる。

アクアティアの、そして、

彼女自身の運命を左右する、

あまりにも、あまりにも大きく、

そして重い決断。


銀髪の、そして氷のように美しい騎士カイ様は、

まだ、その手を、

主君を守るための最後の砦である剣の柄から離さず、

その美しい紫色の瞳で、

警戒の色を隠さずに、俺を睨みつけている。

得体の知れない、あまりにも強大すぎる力を、

そう安易に信じるべきではない、と

その瞳が、強く、強く語っている。


(どうすれば……)

(この、突然現れた、竜を従える不思議な人を、

私は、信じていいの……?)

(でも、今の、この絶望的な状況の私たちに、

他に、どんな道が、どんな希望が、

残されているっていうの……?)


仮面の下で、

アリアは、そっと目を閉じた。

そして、思い浮かべたのは、

ネプトゥーリアの、理不尽で非道な圧政に、

ただひたすらに苦しむ、

愛すべき、アクアティアの民の、

暗く、そして悲しみに満ちた顔、顔、顔。

そして、自分を信じて、

この絶望的な船旅に、

その命を賭けて、ここまでついてきてくれた、

かけがえのない、そして何よりも大切な、

仲間たちの顔だった。


私は、ゆっくりと目を開けると、

ケンタの、その真っ直ぐで、

そしてどこまでも澄んだ、

まるでリンドブルムの青空のような瞳を、

まっすぐに、そして強く、見つめ返した。

その瞳には、嘘も、偽りも、

そしていかなる邪な感情も、見当たらなかった。


「……分かりましたわ、ケンタ殿」

「その、あまりにも魅力的で、

そして、少しだけ、本当に少しだけ胡散臭い、

しかし、希望に満ちたご提案、

このアリア・ルミナ・アクアティア、

謹んで、お受けいたします」


「このアリア・ルミナ・アクアティアの名において、

あなた方、『ドラゴン便』と、

そして、その未来を切り開く、力強い翼と共に、

我が愛するアクアティア公国が、

永遠の、そして揺るぎない同盟を結ぶことを、

我らが信じる海の神々と、

そして、天におわす我が父レオンの魂に、

ここに、固く、固く誓いましょう」


仮面の下で、私は、

この国の若き領主として、

そして、一人の、ただの少女として、

人生で、一番大きく、

そして、最も希望に満ちた、輝かしい賭けに、出た。


私の、その決意に満ちた、

そして震えるほどの覚悟を込めた言葉に、

ケンタは、

「ありがとうございます、アリア様。

そのご決断、そしてその絶対的な信頼に、

我々『ドラゴン便』は、

必ずや、この命に代えても、

全力でお応えします」

と、心の底から安堵したように、

そして、これから始まるであろう、

新たな、そして輝かしい未来への確かな手応えを感じたかのように、

柔らかく、そしてどこまでも優しく、

太陽のように、微笑んだ。


そして、その背後で、

巨大な瑠璃色の竜、リュウガが、

まるで、その歴史的な、そして神聖な誓いを祝福するかのように、

低く、しかし、力強く、

そして、アースガルド大陸の、

いや、この世界の未来そのものを揺るがすかのように、

一声、天に向かって、高らかに、

そしてどこまでも雄大に咆哮した。

その声は、

絶望の闇を打ち破り、

新たな時代の始まりを告げる、

力強い、そして希望に満ちたファンファーレのようだった。

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