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第97話 旅立ちの朝

リンドブルムの夜明け。

それは、いつもと同じ、

しかし、今日だけはどこか特別に感じられる、

清々しい朝だった。


ドラゴンステーションの中央広場には、

まだ朝靄が立ち込める早い時間から、

俺たちの新たなる旅立ちを見送るために、

多くの仲間たちや、

そしてリンドブルムの市民たちが、

どこからか噂を聞きつけて集まってくれていた。


「ケンタ! リリア! そしてギドの旦那!

絶対に、絶対に無事に帰ってくるんだぞ!

このリンドブルムは、俺たちがしっかり守っておくからな!

だから、安心して、行ってこい!」


バルガスさんの牧場の親父さんが、

まるで自分の息子や娘を送り出すかのように、

大きな、そして少しだけ震えた声で、

俺たちに激励の言葉をかけてくれる。

その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

彼が差し出してくれた、

特製の干し肉の入った大きな袋は、

ずしりと重く、そして温かかった。


「ドラゴン便の皆さん、

アクアティアの珍しいお土産、期待してますからね!

特に、海の幸とか!

帰ってきたら、盛大な宴会を開いて、

旅の話をたくさん聞かせてくださいよ!」


市場の商人たちが、

いつものように冗談めかして、

しかし本心からのエールを込めて、

俺たちに手を振る。

彼らの生活も、『ドラゴン便』の登場によって、

大きく、そして豊かに変わったのだ。

その感謝の気持ちが、ひしひしと伝わってくる。


そして、ステーションの若い職員たちや、

小さなピクシー・ドレイクたちは、

別れを惜しむように、

涙ぐみながら、俺たちの名を、

そしてリュウガやウィンドランナーたちの名を、

何度も、何度も呼び続けていた。

その純粋な、そして真っ直ぐな想いが、

俺の胸を熱く、そして強くする。


「みんな…本当に、本当にありがとう!

必ず、このリンドブルムに、

最高の報告と、そして最高の未来を持って帰ってくるからな!

俺たちの『ドラゴン便』は、まだ始まったばかりなんだ!

ここからが、本当のスタートなんだ!」


俺は、込み上げてくる熱いものを必死で抑えながら、

集まってくれた全ての人々の顔を見渡し、

力強く、そしてありったけの感謝を込めて、

そう宣言した。

この街と、ここにいる全ての人々が、

俺にとってかけがえのない宝物であり、

そして、守るべき故郷なのだ。


リュウガの背には、

ギドさんが、この旅のために、

まさに心血を注いで完成させてくれた、

長距離の海上飛行にも耐えうる最新型の

『ドラゴンギア Lv.2(アクアティア遠征仕様)』が、

誇らしげに装着されている。

その流線型の美しいフォルムは、

アダマンタイト合金の、鈍くも確かな輝きと相まって、

まさに空の王者の風格を漂わせていた。

荷物カゴには、

俺たちの長い旅に必要な食料や装備、

そして、リリアさんが念入りに、

何度も何度も確認しながら準備した、

アクアティアの特殊な気候や、

未知なる魔獣との遭遇に備えた、

特別な薬草や薬品が、

隙間なく、しかし驚くほど機能的に積み込まれている。

それは、もはや単なる荷物ではなく、

俺たちの命を繋ぐ、動く遠征基地そのものだった。


俺とリリアさん、そしてギドさんも、

ギドさん特製の、防水性と保温性に優れ、

そして何よりも動きやすい、

洗練されたデザインの旅装束に身を包み、

それぞれの、魂のこもった得物を、

腰に差したり、背負ったりしている。

その姿は、もはや単なる運び屋の集団ではなく、

未知なる、そして神話の領域へと挑む、

熟練の冒険者パーティーのようだった。

俺たちの顔には、

これからの旅への緊張と、

しかしそれ以上に、

仲間と共にあることへの絶対的な信頼と、

新たな挑戦への抑えきれない期待が漲っている。


数頭の、若く、しかし精鋭のウィンドランナーたちも、

俺たちの護衛と、そして斥候役として、

この危険で長い旅に同行してくれることになった。

彼らの俊敏な翼と、風を読む天性の能力は、

きっとこの未知なる大海原で、

俺たちの大きな力となるだろう。

特に、リリアさんに、まるで母親のように懐いているシルフィは、

心配そうに、しかしどこか誇らしげにリリアさんの周りを飛び回り、

時折、その小さな頭を彼女の肩に、

まるで「大丈夫、私がついていますから」とでも言うように、

優しく擦り付けていた。

その姿は、気高く、そして忠実な、小さな騎士のようだった。


「よし、みんな、準備はいいか!

忘れ物はないな!

特に、リリアさん特製の栄養バーは、

全員、ちゃんと持ったか!?」

俺の言葉に、

リリアさんとギドさん、

そして、ウィンドランナーたちが、

力強く、そして決意を込めて、

一斉に頷いた。

その瞳には、もう、何の迷いもなかった。


「行くぞ!

目指すは、南西の果て、アクアティア公国!

そして、その先に眠るという、伝説の『深淵の水晶』だ!

俺たちの手で、必ず、この手に掴み取る!」


「グルルルルルァァァァァッ!!!」

「ピャアアアアアッ!!!」


リュウガとウィンドランナーたちの、

天を衝き、そして大地を揺るがすほどの雄叫びが、

リンドブルムの空に、

そして、集まった全ての人々の心に、

高らかに、そして力強く響き渡った!

それは、新たなる冒険の始まりを告げる、

そして未知なる世界への挑戦を誓う、

揺るぎない決意を込めた、力強い宣戦布告だった!


俺たちを乗せた瑠璃色の翼と、

それを、まるで守護する騎士のように囲んで飛ぶ青緑色の翼たちは、

昇り始めた朝日をその全身に浴びて、

黄金色に、そして虹色にキラキラと輝きながら、

一路、南西の、まだ誰も見たことのない空へと、

力強く、そしてどこまでも美しく、

羽ばたいていった。


リンドブルムの街並みが、

愛おしい仲間たちの顔が、

みるみるうちに小さくなっていく。

だが、俺たちの心には、

故郷を離れる一抹の、切ない寂しさよりも、

これから始まる壮大な、そして未知なる冒険への期待と興奮の方が、

遥かに、遥かに大きく膨らんでいた。

この翼で、俺たちはどこまで行けるのだろうか。

どんな未来を、この手で掴むことができるのだろうか。

その答えを求めて、俺たちの旅は、今、始まる。



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