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リリアの冒険日記 第七話:届けたい想いと、生まれるカタチ

風花の村からの帰り道、

シルフィちゃんの背中に揺られながら、

私の心は、新しい発見への興奮と、

そして、ある想いでいっぱいになっていた。


エリアーヌおばあさんの、

嬉しそうな、でもどこか寂しそうな涙。

息子さんからの手紙を、

大切そうに胸に抱きしめていた、あの姿。


そして、風花の村の人々の、

諦めにも似た、静かな微笑み。

「この村でしか売れないんだ」

そう言った女性の声が、

まだ耳の奥で、小さく響いている。


(こんなに素敵なものが、

こんなに温かい想いが、

ただ「運べない」というだけで、

この場所に閉じ込められてしまっているんだ…)


それは、なんだかとても、

とても悲しいことのように思えた。

もし、私に、

ううん、私たち『ドラゴン便』に、

何かできることがあるのなら…。


ドラゴンステーションの灯りが見えてきた時、

私の胸の中には、

もう一つの、新しい決意が生まれていた。


「ケンタさん!

ギドさん!

聞いてください!」


事務所に駆け込むと、

ケンタさんとギドさんは、

ちょうど新しい『コールドボックス』の試作品を前に、

何やら真剣な顔で話し込んでいるところだった。


「おお、リリアちゃんか。

おかえり。

風花の村はどうだったかい?」

ケンタさんが、いつもの優しい笑顔で迎えてくれる。


「フン、嬢ちゃん。

また何か、厄介な発見でもしてきたのか?」

ギドさんが、ぶっきらぼうな口調の中に、

ほんの少しの期待を滲ませながら言った。


私は、息を整えるのももどかしく、

二人に、風花の村での出来事を、

夢中で話し始めた。


エリアーヌおばあさんのこと。

湿気に弱い、美しい織物のこと。

そして、一日しかその美しい音色を保てないという、

儚い風鈴草のこと。


「…というわけで、

ただ『速く』運ぶだけじゃなくて、

ただ『冷たく』運ぶだけじゃなくて、

もっと、それぞれの荷物に合わせた、

特別な運び方が必要なんです!

湿気から荷物を守ったり、

あるいは、ちょうど良い湿り気を保ったり…

そんな、魔法みたいな箱は、

作れないものでしょうか…?」


私の、拙い、しかし必死の訴えを、

ケンタさんとギドさんは、

黙って、真剣に聞いてくれていた。


ケンタさんは、私の話が終わると、

ふむ、と腕を組んで考え込み始めた。

その目は、いつものように、

遠い、私の知らない世界のことを

思い浮かべているようだった。


「なるほどな…

『湿度管理』か…。

確かに、俺がいた世界でも、

美術品や精密機械、

あるいは特殊な医薬品なんかを運ぶ時には、

温度だけじゃなく、湿度も厳密に管理する

専用のコンテナを使っていた。

除湿剤を入れたり、

逆に加湿器をつけたりしてな…」


「じょしつ…?

かしつ…?」

私には、また新しい、

不思議な言葉が聞こえてきた。


「ケンタさんの言う通りだ」

今度は、ギドさんが重々しく口を開いた。

彼の目は、もうすっかり、

新しい挑戦を前にした職人のそれに変わっている。

「ドワーフの技術にも、

特定の鉱石を使って、

閉ざされた空間の湿気を吸い取ったり、

逆に、一定の湿度を保ったりする古の知恵がある。

例えば、この『風吸いの石』と、

あの『潤いの苔』を組み合わせれば…

そして、箱の中の空気の流れを、

このわしが設計した特別な機構で制御すれば…

あるいは、嬢ちゃんの言う『魔法の箱』も、

夢物語ではないかもしれんぞ…!」


ギドさんの目が、

まるで工房の炉の火のように、

ギラリと力強く輝いた。


「すごい…!

ギドさん、そんなことができるんですか!?」

私は、思わず声を上げた。


「フン、誰に言っておるか。

このわしにかかれば、

竜の鱗を磨くより、ちと面倒なくらいなもんよ。

だがな、嬢ちゃん。

お前さんの、その『小さな声』を聞き分ける耳と、

『どうにかしたい』と願う熱い心がなければ、

このわしも、こんな面白いアイデアには

たどり着けなかったかもしれん。

礼を言うぞ」


ギドさんは、そう言って、

私の頭を、そのゴツゴツした大きな手で、

少しだけ不器用に、でも優しくポンと叩いてくれた。

なんだか、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「よし、決まりだな!」

ケンタさんが、明るい声を上げた。

「俺たちの次なる目標は、

温度と湿度の両方を自在に操れる、

究極の『特殊環境コンテナ』の開発だ!

それがあれば、

風花の村の美しい織物も、

繊細な音色を奏でる風鈴草も、

そして、リリアさんが見つけてくれた、

たくさんの人々の『届けたい想い』も、

俺たちの翼で、どこへだって運べるようになる!」


ケンタさんの言葉に、

私とギドさんは、

力強く頷き合った。


それは、ただ新しい道具を作るというだけじゃない。

人々の想いを、

そして、これまで届けられなかった可能性を、

形にするための、

大きな、大きな挑戦なのだ。


その日から、

ギドさんの工房は、

再び新しい熱気に包まれた。

ケンタさんは、スキルウィンドウの情報を駆使して、

様々な素材の特性や、

効率的な構造のアイデアをギドさんに伝え、

私は、薬草の知識を元に、

それぞれの荷物に最適な温度や湿度の条件を、

一生懸命に調べ上げた。


失敗もたくさんあった。

思ったように湿度が保てなかったり、

箱が重くなりすぎて、

ウィンドランナーさんたちが運べなかったり…。

でも、私たちは、一度も諦めなかった。

ケンタさんが励ましてくれ、

ギドさんが知恵を貸してくれ、

そして、リュウガさんやシルフィちゃんたちが、

辛抱強く、何度も試作品の飛行テストに

付き合ってくれたから。


そして、数週間後。

ついに、その箱は完成した。

それは、ギドさんの技術と、

ケンタさんの知識、

そして私の想いが詰まった、

世界でたった一つの、

『マルチ・コントロール・ボックス』。

夢を運ぶ、魔法の箱だ。


「リリアさん、

この箱の、最初の荷物は、

君に決めてほしい」

ケンタさんが、私にそう言ってくれた。


私は、迷わず答えた。

「はい!

風花の村の、エリアーヌおばあさんの息子さんに、

お母さんが心を込めて織った、

あの美しい織物を、

そして、村で一番綺麗に咲いた風鈴草を、

届けたいです!」

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