交渉の結末は?
本日1回目の更新です。
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──交渉の結末は?
二度目のスターライン王国とドラゴニア帝国の交渉が始まった。
ドラゴニア帝国側は意外なことに譲歩して見せるかのような素振りが見られたが、スターライン王国が踏み込むと、撤回するという明らかな時間稼ぎを始めていた。
ドラゴニア帝国使節団を盗聴してる鮫浦たちはドラゴニア帝国が属領から軍を引き抜き、前線に集結させつつあるとの情報を入手していた。恐らくはそれが完了するまでの時間稼ぎに入ったのだろう。
この事実はスターライン王国側には伏せておき、鮫浦は戦争に備えるべく、燃料や弾薬の調達に奔走する。大量の燃料が運び込まれ、弾薬が運び込まれ、それらがピンクダイヤモンドに変わり、アメリカドルに変わり、そして現地の官憲を買収するのに使われる。
ドラゴニア帝国側でもトーリニアだけは戦争継続に断固として反対していたが、事前の話し合いの通り、戦争を継続するかしないかを決めるのは国家全体戦線党の党員であり、この外交使節の代表であるバールだった。
3日、4日、5日、6日と時間が過ぎていき、ついに14日目となった時にドラゴニア帝国側が動いた。
「スターライン王国の要求は一切受け入れられない。我々の要求はひとつだ。属領となり、ドラゴニア帝国のために尽くすこと。それだけだ」
ついに友好国とするとのカードまで捨てて、スターライン王国側に一方的な要求を突き付けたバール。スターライン王国側はこれまでドラゴニア帝国側が譲歩の姿勢も見せていたことから、このことに困惑する。
「つい先日までは譲歩もあり得ると聞いていましたが」
「ふん。蛮族どもにそのようなことをするはずがなかろう。偉大なるドラゴニア帝国の前にひれ伏せ、蛮族よ。さもなければ死かだ」
バールが一方的な要求を突きつけるのにユースが他の外交官と顔を見合わせる。
「では、拒否させていただきます。戦うというのであれば、戦いましょう。ただし、覚えておいていただきたい。我々は最後まで平和のために尽力したという事実を。戦争を求めたのはあなた方であることを」
「蛮族が。それが最後の言葉となるだろう。覚悟しておけ。ドラゴニア帝国はこのような蛮地の小国に負けるほどの弱小国家ではないことを思い知らせてやろう」
交渉は見事に決裂した。
両国は一斉に戦闘準備に入る。
国境で待機していた第77独立装甲猟兵大隊と第8独立装甲猟兵大隊の王立機甲連隊が国境線で守りを固め、後続の部隊が到着するのを待つ。
バイラクタルTB2の偵察映像が送られ、進軍中のドラゴニア帝国陸軍部隊が捕捉される。レーダーには飛竜騎兵の姿も確認できた。
飛竜騎兵が作られたバンカーにワイバーンを収容したところでMiG-29戦闘機がそれを爆撃する。激しいこの爆撃により、派遣が決定していた第605飛竜騎兵旅団、第606飛竜騎兵旅団全12個大隊中8個大隊が壊滅する損害を負った。
飛竜騎兵は育成するのにも時間のかかる兵科であるが故に、この損害はまさに大損害だった。帝国本土に残る飛竜騎兵部隊は第604飛竜騎兵旅団と第607飛竜騎兵旅団の2個旅団しか存在しないのである。
そうしている間にも戦争の準備は進み、戦略機動により第4独立装甲猟兵大隊、第6独立装甲猟兵大隊、第7山岳猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊、第13独立空中機動猟兵大隊が集結する。王立機械化歩兵連隊は王立機甲連隊の後に付き、前進を開始。残る大隊は第13独立空中機動猟兵大隊が先手を打って、ドラゴニア帝国陸軍が後方拠点とするだろう後方都市ワナリアを強襲する。
「降下、降下!」
突如として降下してきたスターライン王国陸軍部隊を前にドラゴニア帝国市民は大混乱。第13独立空中機動猟兵大隊は市庁舎を制圧し、衛兵を武装解除し、城門を押さえるとドラゴニア帝国陸軍を迎え撃つ準備を始めた。
「ワナリアが陥落しただと?」
「はっ! 斥候による報告です。都市は敵によって占領されているとのことです」
「信じられん。スターライン王国との国境に近いとはいえ、我々よりも先に到達したというのか。使節団の報告ではスターライン王国国境の道路は軍の機動が難しい整備されていない道だと聞いていたのだが……」
その道が今では土魔術によってコンクリートで舗装された道路に変わってることをドラゴニア帝国陸軍は把握していなかった。
それに空中機動戦力についても。
「ワナリアを奪還する。ワナリアという拠点がなければ、我々は大きく後退することを迫られる。それは避けなければ。東部方面軍司令部に連絡を」
東部征伐軍は解体され、東部方面軍が新たに創設されていた。
兵士たちは属領の占領任務に当たっていたものを引き抜いて投入しており、前線部隊だけで8個師団という規模だ。
だが、鮫浦の予想通り前線に一度に投入できる戦力は限られていた。
ワナリアの正面に展開したのは1個師団。対するスターライン王国は第13独立空中機動猟兵大隊の1個大隊のみ。
しかし、忘れてはいけない。スターライン王国第13独立空中機動猟兵大隊にはあの恐るべきMi-24攻撃ヘリが存在するのだ。
今回も出撃した攻撃ヘリは地上に20ミリ機関砲から砲弾を叩き込み、ロケット弾で敵を吹き飛ばす。戦場は一瞬で屍の山が積み上げられ、それに続いて城壁に近づいた歩兵たちには56式自動小銃、80式汎用機関銃、RPG-7V対戦車ロケットの攻撃が浴びせかけられる。
TBG-7Vサーモバリック弾が炸裂して歩兵の陣形を薙ぎ払い、機関銃と自動小銃が歩兵の隊列を薙ぎ払う。補給はMi-8輸送ヘリが後方と前線を行き来して懸命に弾薬や食料などの物資を輸送していた。
敵の1個師団はワナリアを攻めあぐね、足止めされる。
そこに王立機甲連隊と王立機械化歩兵連隊が乱入した。
軍団砲兵の砲撃が始まり、加えて大隊本部迫撃砲小隊の砲撃が行われ、敵が混乱した隙にT-72主力戦車を先頭にした王立機甲連隊が突入する。
結果はドラゴニア帝国陸軍1個師団の壊滅。師団長は頭を拳銃サイズのマスケットで撃ち抜いて自決した。
ワナリアを攻略中だった1個師団の壊滅を知った東部方面軍の動きは早かった。
残る7個師団は直ちにその場で防衛体制に入り、塹壕が構築され、敵を迎え撃つための準備が始まる。トーリニアの言葉が正しければ、敵は数においては劣勢であり、7個師団を相手にすれば、武器弾薬が欠乏する。そう思われていた。
確かに王立機甲連隊と王立機械化歩兵連隊だけでは、7個師団の相手は難しかった。ここは歩兵による強力な火力支援が必要とされていた。
砲兵は主に面を制圧するものだ。もちろん、弾着観測射撃を行い、小さな的を狙い打つこともあるが、主な任務は面の制圧にこそある。
そして、その面を制圧するための実に強力な兵器が投入されようとしていた。
「ついにこいつを持ち出すのか」
トリャスィーロが戦闘飛行から戻ってきて、それを見上げる。
「相手は6から8個師団って無人偵察機からの情報だ。面を制圧しなけりゃならん。こいつはうってつけだろう?」
「確かにな。だが、不発弾が問題にならないか?」
「兵士には気を付けるように指示を出してある。実物も見せた。そして、スターライン王国にはドラゴニア帝国の占領という目的はない。民間人でも犠牲になるのは、ドラゴニア帝国の連中だけだ」
「そうか。だが、彼らのことを思うと気の毒になるな」
「敵に同情するにはまだ早いぜ、トリャスィーロ。敵はこれからだと思っているし、俺たちもそう思っている。だろ?」
「そうだな。やるしかない」
彼らの見上げる兵器とは──。
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