王都テルス解放
本日2回目の更新です。
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──王都テルス解放
王都テルスは解放された。
街は熱狂に包まれている。
街を行進するスターライン王国抵抗運動の兵士たちには歓声と花束が投げかけられ、町娘が兵士に接吻する。兵士たちは自分の家族を見つけると、再会を喜び合った。
「あれは何なんだろうか」
「鉄の馬車かね」
「馬が見えないぞ」
BTR-70装甲兵員輸送車を前に、住民たちが言葉を交わす。
上空をMi-24攻撃ヘリの編隊とMiG-29戦闘機の編隊が通過し、王都テルスの空はスターライン王国の民のものになったと印象付けた。
兵士たちは規律正しく動き、ただただ今は勝利の余韻に浸っていた。
「勝利に乾杯!」
「勝利に乾杯!」
無人偵察機の偵察結果でもこの付近にはもうドラゴニア帝国陸軍の部隊は存在しないと分かっていたために、兵士たちは久しぶりの飲酒を許可された。彼らは街の酒場でぐでんぐでんになるまで酔っ払い、酒代は店主からの奢りになった。
街が喜びに満ちる一方、王城では各大隊の大隊長とソーコルイ・タクティカルのトリャスィーロを始めとするコントラクター、そして鮫浦たちが集まっていた。
「一先ずはこの勝利を祝福させていただきます。おめでとうございます」
鮫浦は冒頭でそう言った。
「それでは今後の課題です。敵は大砲とマスケットを持ち出してきました。これらは確かに脅威な武器である反面、兵站のコストが上がります。そのことは既に戦車や装甲車を運用している皆様方にはお分かりかと」
鮫浦が言うのに、アウディスたちが頷く。
戦車の砲弾や兵士の銃弾。それらを輸送するコストは馬鹿にならない。戦車そのものを輸送するコストや榴弾砲を輸送するコストについても彼らは理解している。トラックにはガソリンさえ与えておけばいいが、これを馬車でやろうと思った場合はとんでもないコストになることも。
「敵はかなり高い可能性でスターライン王国に対して報復を実行するでしょう。ですが、機動力はかつてより落ちているものと思われます。砲弾、銃弾はこのタイプのものですと、それこそ教会の鐘を鋳溶かして加工すればそれで足りるでしょう。ですが、大砲そのものの輸送には軍馬が多数必要になります」
叩き込む砲弾、銃弾は初期の大砲やマスケットでは特に工夫されない。鉄の弾を発射するだけであり、サイズがある程度合っていればそれでいいというわけだ。戦車の対戦車榴弾のように複雑なメカニズムは必要ない。
だが、大砲そのものは、マスケットそのものは、やはりある程度の冶金技術のある人間が整った設備で作らなければならない。
「よって、敵の反撃を受けるとして、再びスターライン王国の大地を戦場とするのか、それとも先手を打ってこちらからドラゴニア帝国に攻め入るかです」
そこでハーサンたちが悩む様子を見せる。
「こちらから攻め入るとなるといよいよ以てドラゴニア帝国と対立することになる。中途半端な攻撃は命取りだ。やるならば帝都を落として、完全にドラゴニア帝国を降伏させるところまで進まなければならない」
ティノがそう言う。
「そうなると……我々が体験したことのない戦いになるな。我々が外に向かって戦いを挑んだのは数百年前の話だ。それからはずっとこの国土を守り続けるだけだった。兵站の維持は当然として、帝国側の住民とのトラブルや占領地の暫定的な統治についても考えなければならない」
ハーサンはこれまでは解放戦争だったが、これから逆侵攻を仕掛けるとなると住民からは歓迎されないだろうとの思いがあった。
「しかし、我々の国土をそう何度も戦場にしたくはない。ここは逆侵攻を仕掛けるべきだ。たとえ住民に歓迎されずとも、我々がドラゴニア帝国を降伏させない限り、永遠に我々はドラゴニア帝国の脅威にさらされる」
アウディスがそう述べて各大隊長を見渡す。
「同意する。逆侵攻を仕掛けるべきだ」
第7山岳猟兵大隊大隊長のレアン・デア・ケンタウリが同意してみせる。
「軍の増員を行いませんと。今の状態では兵站が切れるか、反抗的な敵の住民によって補給部隊が襲撃される恐れもあります」
第8独立装甲猟兵大隊大隊長のボルト・デア・プルートは心配そうにそう言った。
「その点は女王陛下と話し合わなければな。我々の一存で決められることではない。そして、女王陛下は明日大切な日を迎えられる。今はこの問題を持ち出すべきではない。それから上級司令部についても考えなければ」
「これまでは我が軍の参謀とソーコルイ・タクティカルの傭兵方に頼んでいたが、これから軍の規模が拡大するとなると、複数の段階に分かれた上級司令部が必要になるな」
これまでは大隊を直接上級司令部が指揮していたが、これから大隊の数が増えると上級司令部の負担も大きくなる。いくつかの大隊と上級司令部の間に司令部を設置した方がよいだろう。
「だが、我が軍には人材がいない。司令官となるべき人材が不足している。これから大隊を増強して、司令部を増やすとなると本格的に人材不足だ」
「ううむ。尉官から少佐、中佐クラスの若手の将校ならば多いのだが」
「非常時として昇進させるよう女王陛下に」
「これもまた明日以降の話だな」
女王シャリアーデが古参貴族たちに担がれたお飾りではなく、本物の国家元首となったため、彼女が軍の最高司令官ともなる。軍に関する高度な決断は、シャリアーデの対応を待たなければならない。
「鮫浦殿。あなたからも女王陛下にこれらの件について意見具申してもらいたい。今のところ軍事に関して女王陛下に直接意見を述べられるのはあなたである。我々はあくまで現場指揮官。上位のことについてはそれぞれの上官を経由してしか述べられぬ故」
「畏まりました。女王陛下のご意見を聞かせていただきます」
昔のお雇い外国人もこんな感じだったのかねと鮫浦は思う。
鮫浦は確かに軍事に関して、シャリアーデに率直な意見が述べられる立場にある。もっとも彼と彼女の関係が商人と顧客という関係である以上、そこまで踏み入ったことは述べられないが。
だが、確かに指揮系統を整理して、それから対帝国侵攻作戦について考えなければならないだろう。そのためにはシャリアーデの許可を受けなければならない。
明日以降。明日はシャリアーデにとって、そしてスターライン王国にとって重要な日となる。そのおめでたい日に血なまぐさい話を持ち掛けるのは得策ではないだろう。
とりあえず、シャリアーデからの許可待ちとして、細かなところを詰めていく。
人事案。軍の再編成案。占領計画案。統治機構の立ち上げ案。
後はシャリアーデの許可を受けるだけにしておいて、他はしっかりと詰めておく。
一見すると現場が暴走しているようにも見えるが、今のところもっとも現代兵器を使った戦闘を経験してるのは現場の人間であり、それに合わせなければいけない以上、現場の人間が計画を作るのが一番いい。
彼らは夜遅くまでスターライン王国のために準備を整え、ソーコルイ・タクティカルのコントラクターたちの助言を得て、計画を立案していく。
満足のいくものになるまで念入りに彼らは計画を立てていった。
この計画案は女王シャリアーデの許可を以てして効果を発揮することになる。
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本日の更新はこれで終了です。
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