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チャーリーは波に乗らない

本日2回目の更新です。

……………………


 ──チャーリーは波に乗らない



 鳴りやまない砲声。


 ドラゴニア帝国陸軍第35師団の兵士たちは塹壕に籠ったまま神に祈りを捧げていた。


 スターライン王国抵抗運動による昼夜を問わない砲爆撃が始まって4日が経つ。


 その4日でドラゴニア帝国陸軍は恐ろしいまでの精神的損耗を強いられていた。


「ああ! ああ! 助けてくれ!」


「馬鹿! 塹壕から出るな!」


 パニックになって塹壕から飛び出す兵士。


 シェルショックは深刻だった。絶え間ない砲撃という名の暴力に晒され続け、睡眠時間を奪われた兵士たちからは士気が失われていく。精神的に病んでいく。病気になって意味の分からないことを呟き続ける兵士、友軍に向けて斬りかかり野戦憲兵に処刑される兵士、砲爆撃中に塹壕から飛び出し肉片に変わる兵士。


 その光景を見た兵士がさらに精神を病む。


 その負の連鎖がドラゴニア帝国陸軍の陣地を襲っていた。


 砲撃は不規則に昼夜に渡って行われる。爆撃は今のところ、昼間だけ。


 第35歩兵師団師団長のアールザ・ツー・ステルンベルギ中将も参っていた。


 率先して塹壕で生活してみせたものの、雨が降れば塹壕は泥まみれ。立派な軍服も泥まみれになり、威厳が失われる。そして、司令部を狙った爆撃があったため、司令部に戻ることもできなかった。


 彼は塹壕の中で被害報告を受ける日々にドラゴニア帝国陸軍精神で耐えていた。


 だが、このままでは戦線が決壊しかねないということは明白だった。


 恐らくは第10歩兵師団と第21歩兵師団も同じ手でやられたのだろう。昼夜を問わない砲撃で兵を疲弊させ、疲弊しきったところに軍を投入する。これならば小規模の兵力でも大部隊を撃破できる。


 スターライン王国は魔法の発展が極めて高度だったとの報告も受けている。少数でこのような砲爆撃を行う術もあったのだろう。


 だが、誰もが思う。どうして今になって?


 最初の戦闘ではドラゴニア帝国陸軍の方が火力において圧倒的にアドバンテージがあった。双方の戦力を比べるまでもなく、ドラゴニア帝国陸軍は圧倒的火力で敵を粉砕し、歩兵同士の決戦において勝利した。


 だが、今となっては火力の差は逆転している。


 確かに歩兵部隊は4個大隊かもしれない。だが、魔術連隊の数は明らかにドラゴニア帝国陸軍の1個師団に割り当てられるそれを上回っている。


 まさかアールザもこれがたった3個中隊の砲兵による砲撃だとは思いもしていないだろう。1個連隊どころか別々の火砲が1個中隊ずつしか装備されていないのである。


 こうしている間にも精神を病む兵士は増えていき、前線の士気はどん底まで落ちる。


 だが、彼らは理解していなかった。この砲爆撃が単なる嫌がらせなどではなく、陽動作戦であるということを。


 砲爆撃が始まって7日目の夜。


 ようやく司令部から第29歩兵師団を増派するとの報告を受けてアールザは安堵していた。あと数日でこの地獄の負担も半分になると。


 だが、そう甘くはなかった。


 アールザの籠った塹壕に爆弾が落ちてきた。


 アールザたちは直撃こそ免れるも、通信機が破損。指揮が行えなくなる。


「クソ。みみっちい嫌がらせをしおって!」


 アールザが夜空に向けて叫ぶ。


 だが、そう叫んだのも束の間。けたたましい轟音が山岳地帯の方から響いてきた。


「な、なんだ……?」


 アールザが塹壕の中から夜の闇に包まれた空を見つめる。


 音は聞こえるが、姿が見えない。


「篝火をもっと燃やせ! 敵は闇に乗じて攻撃してくるぞ!」


 アールザが伝令を走らせてそう命令しようとしたところ伝令が突如として弾け飛んだ。アールザたちには何が起きたのかも分からず、次の瞬間には地獄の業火が湧き起ったかのように司令部周辺の塹壕陣地が燃え上がる。


「な、な、な……!?」


 そして、襲撃者が姿を見せた。


 Mi-24攻撃ヘリ。その20ミリ機関砲とロケットポッドからの攻撃で、塹壕のドラゴニア帝国陸軍の兵士たちは薙ぎ払われてしまった。


「クソ。冷静に、だ。敵の航空戦力から塹壕に籠って攻撃を躱せ。前線部隊となんとか連絡を取らなければならないが……」


 夜の闇では発煙矢も見えにくく、また伝令を走らせようにも空から狙われている。


 通信機器が破壊されたのが本当に忌々しいとアールザは思う。


 だが、敵は空から狙ってくるだけではなかった。


 Mi-24攻撃ヘリが高度を保って護衛する中、Mi-8輸送ヘリが1個大隊規模の戦力を輸送してきた。輸送ヘリが次々に降下し、兵士を降ろして、後方に飛び去っていく。


「敵歩兵!」


「まさか、空から兵力を機動したというのか!?」


 ティノの率いる第13独立空中機動猟兵大隊は敵陣地傍に兵士を展開させ、塹壕に突入し、ドラゴニア帝国陸軍の歩兵部隊と交戦する。第13独立空中機動猟兵大隊は空挺仕様の自動小銃と対戦車ロケットを装備し、敵を滅多打ちにしながら、司令部に迫る。


 まさか敵がいきなりここに現れるとは思っていなかったアールザたちは困惑し、前線への連絡手段も断たれたまま、塹壕でスターライン王国抵抗運動の兵士たちと交戦していた。そして、徐々に彼らは追い詰められていき、ついにはアールザの傍まで敵が迫った。


「師団長閣下! 書類の焼却を!」


「実行しろ! 地図も何もかも全て燃やせ! 命令書もだ!」


 司令部では陥落を悟って地図や命令書、作戦計画書が燃やされる。


「動くな!」


 そして、ついに第13独立空中機動猟兵大隊の兵士たちがアールザたちの前に現れた。


「降伏する!」


「指揮下の部隊全てが、か?」


 そこで迷彩服を纏ったティノが姿を見せる。


「残念ながら、師団司令部が壊滅しても隷下部隊は壊滅するまで戦い続けるだろう」


「分かった。お前たちは捕虜とする。後送しろ」


 ティノは配下の兵士にそう命じる。


 華麗なヘリボーンで敵司令部を陥落せしめた彼らは、敵の後方に陣取り、そこから制圧範囲を広げていった。


 司令部からの連絡がなく、スターライン王国抵抗運動のヘリを目撃した前線の将兵たちはどうしていいかを話し合っていた。


 そこに砲弾が降り注ぐ。


 またいつもの嫌がらせの砲撃かと思ったが、今回は精度が違う。塹壕の中にまで砲弾が叩き込まれる勢いだ。砲弾は雨あられと降り注ぎ、そして──。


「敵が来たぞ! 噂の鉄の象だ!」


 T-72主力戦車を先頭にスターライン王国抵抗運動地上軍がドラゴニア帝国陸軍の前線に迫ってきた。クロスボウが放たれるが、クロスボウごときで戦車をどうこうできるはずもなく、戦車は一斉に主砲を放ち、塹壕内の敵を塹壕ごと吹き飛ばす。


「く、来るぞー!」


 そして同軸機銃を放ちながら戦車は塹壕を乗り越え、後方に突き進む。後続の86式歩兵戦闘車も塹壕を砲撃し、機関銃で掃射すると後方に向かう。


 後方が、連絡線が、退路が遮断されることを恐れたドラゴニア帝国陸軍第35歩兵師団の前線戦力が総崩れになる。砲撃が雨あられと降り注ぐ中、彼らは後方に向けて脱出を試み、そして砲爆撃によって吹き飛ばされた。


 生き残った一部部隊──第3501歩兵連隊は都市エウロパへの退避を命令。都市にドラゴニア帝国陸軍が逃げ込んでいく。


 第3501歩兵連隊を収容した都市エウロパは跳ね橋を全て上げ、籠城の準備に入った。


 第7山岳猟兵大隊と第9戦闘工兵大隊は後方の残党を掃討しながら、第77独立装甲猟兵大隊に合流する。


「立て籠もったな」


「立て籠もりましたね」


 第77独立装甲猟兵大隊のアウディス・デア・イオ少佐と第9戦闘工兵大隊のハーサン・デア・マース少佐がそれぞれ言葉を交わす。


「では、お手並み拝見といこう、マース子爵」


「お任せあれ」


 そう言ってハーサンは不敵に笑った。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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