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本日1回目の更新です。
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「ささっ。どうぞ中へ」
鮫浦がシャリアーデたちを中に案内する。
「これは?」
「RPG-7V対戦車ロケットです。敵の陣地を攻撃したり、敵の重竜騎兵を撃破することにも使用できます。便利な道具ですよ」
RPG-7V対戦車ロケットは弾頭をサーモバリック弾に変更することもできる。そうすることでより高い陣地制圧力を発揮する。通常の対戦車榴弾でも今までは対空機関砲の水平射撃でなければ撃破できなかった重竜騎兵を撃破できるだろう。
相手は固い鱗があれど、戦車ほどではない。撃破は可能だ。
「鮫浦殿。これは?」
「DShK38重機関銃です。使用する銃弾は12.7ミリと大口径。それが重竜騎兵に通じるかは分かりませんが、飛竜騎兵に対しては簡易の対空火器として利用できるでしょう」
狙いを定めるのは難しいですがと鮫浦は言う。
ハーサンはその銃に興味をしめしたようでマジマジとそれを見ている。
「おお。もしや、これがヘリという兵器ではないだろうか?」
「まさにその通り。こちらにあるのはMi-24攻撃ヘリ、向こうにあるのはMi-8輸送ヘリです。全て購入なされば1個大隊の空中機動が可能になります!」
「空からの奇襲か。効果は絶大だろうな」
ティノは攻撃ヘリと輸送ヘリという航空機に興味を示していた。
「魔術を使った品ではないのか? 魔術を使っているのだろう?」
「ここにある品で魔術を使ったものはひとつもございません。全てが誰でも扱える武器です。魔力が必要であったり、魔術師ではない平民には扱えないというものではございません。全てが、全てが誰にでも取り扱うことのできる武器なのです」
現代兵器の強みは扱える人材の多さだ。56式自動小銃のような武器は簡単な訓練を施しただけで多くの人間を殺せる。RPG-7V対戦車ロケットもそうだ。簡単な訓練を受けただけのゲリラが数億円はする兵器を簡単に破壊できるのだ。
かつてのイギリス長弓兵のように長い訓練は必要ない。そこらの農民を徴兵して、武器を持たせれば、それで軍隊が出来上がる。それでいて長弓兵よりも破滅的な効果をもたらすことができるのだ。
魔術師になるのも素質と訓練が必要なようだが、現代兵器を扱うのに素質が必要と言われるのは戦闘機などの航空機ぐらいのものである。装甲車ですら、扱うのにそう長い訓練は必要とされないし、素質の有無は問われない。
まあ、もちろん、今から戦車や装甲車の取り扱いを訓練するつもりは鮫浦にはないが。彼はソーコルイ・タクティカルに全てを委託するつもりだった。
「こ、この巨大な兵器もかっ!?」
「ええ。それは戦車と言いまして、その中でもよく売れたT-72主力戦車と言います。その中でも近代改修されたモデルであり、我々の暮らす東方でも活躍いたしました」
確かにT-72主力戦車は活躍した。多くが撃破されたという事実を抜いてしまえば。
「あり得ない。あり得ない! 魔術もなしにへ、平民がこのような武器を扱うなどあってはならない! 女王陛下! 騙されてはなりませんぞ! このような兵器を購入すれば、スターライン王国の破滅を招きます!」
「鮫浦殿。こちらの戦車によく似た兵器はなんですか?」
既にイーデンを無視して、シャリアーデが次の武器について尋ねる。
「そちらは歩兵戦闘車というもので、戦場で歩兵を安全に輸送し、そしてその兵器そのものも火力を発揮して戦うものです。これは86式歩兵戦闘車といいます。東方の民が作った品でございます」
これもまあBMP-1歩兵戦闘車と大して変わらないから、ソーコルイ・タクティカルに丸投げしていいだろうと鮫浦は考えている。
「ふむ。こちらも歩兵戦闘車ですか?」
「そちらはBTR-70装甲兵員輸送車となります。こちらは歩兵戦闘車ほどの火力はなく、安全に兵士を戦場まで送り届けることのみが仕事となります」
「役割があるのですね」
「その通りです。それぞれの兵器に一長一短があります。火力が高い。維持費が安い。装甲が分厚い。などなど。どれもセットで購入されることで、その真価が発揮されるでしょう。是非ともご検討ください」
「はい。分かりました。必要な武器を揃えていきましょう。私は戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車に興味があります。これらを運用するのはやはり傭兵たちですか?」
「はい。運用は彼らにお任せを。ですが、歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車が運ぶのはスターライン王国の民であり、勝利を勝ち取るのもスターライン王国の民です」
「ええ。それは確かでなければなりません」
流石の鮫浦も歩兵の教育はしても、歩兵として実戦に参加する戦力を提供するつもりはなかった。歩兵はいるのだ。ちゃんと4個大隊の歩兵がいるのだ。そいつらに仕事をしてもらえばいいと鮫浦は思っている。
「ですが、ここにあるものはどれもが我々にとって未知のものです。我々はどれから購入するべきか。これらを購入すれば何ができるのかを知りません。そこで鮫浦殿。あなたに私の相談役となっていただきたい」
「そ、それは……」
おいおい。身内に引きずり込んでただで兵器をいただこうって腹か? それだけは勘弁だぜと鮫浦は思う。
「もちろん、武器の代金はこれまで通りお支払いします。あなたをスターライン王国の臣民とするものではありません。ただ、外国の栄誉を得たものに与えられる。アルタイル勲章を授け、騎士の地位として扱います。その上で私に助言をお願いします。あなた方の売る武器で何ができるのか。そして、我々の祖国を取り戻すためには何が必要なのかを」
「女王陛下! なりません! 絶対になりません! 得体も知れぬ男に騎士の地位を授けるなどとは! それに平民をこのまま武装させていけば、いずれは貴族と王室に反旗を翻すでしょう! そうなってはならないのです! 魔術を、スターライン王国の守ってきた魔術を、どうか重要視なさってください!」
「メテオール侯。あなたは魔術で飛竜騎兵や重竜騎兵に勝てるというのですか。そこにある戦車という兵器に勝てるというのですか?」
「そ、それは……」
イーデンも指向性散弾の威力は見ている。あの小さな武器がサラマンダーを八つ裂きにしたのだ。それに加えて、対空火器というものは、飛竜騎兵をいとも簡単に撃墜した。戦闘機はさらに敵地上空の航空優勢を奪い、敵の大規模魔術攻撃陣地は破壊された。
魔術でできなかったことが、平民たちの操る武器でできてしまう。
ダメだ。それではダメなのだ。魔術師である貴族こそが絶対でなくてはならない。スターライン王国の国是は魔術の発展による国力の増強にあったのだ。それが歪められるようなことがあってはならない!
「女王陛下! このままでは国が滅びてしまいますぞ!」
「メテオール侯! 我々の最大の敵は自らの民ではありません! ドラゴニア帝国です! いい加減に目を覚ましなさい!」
イーデンの訴えをシャリアーデが切り捨てる。
イーデンはびくりと身を震わせ、屈辱に苦しむ。
「宰相としての私の地位はどうなるのですか? 女王陛下をお支えしてきた私をも無用だと仰るのですか?」
「そうは言いません。あなたにはこれまで通り財務、法律を管理してもらいます。ですが、軍事においては鮫浦殿の意見を最優先します」
シャリアーデは鮫浦の方を向く。
「いかがでしょうか、鮫浦殿?」
「私は仕事柄、宮廷──というよりもバンカーを離れなければならないことがあります。常にお傍にいるわけにはいきません。それでよろしければ」
「ええ、結構です。商品を仕入れに行かれるときは自由にされてください」
「助かります、陛下」
まあ、軍事顧問みたいなもんかと鮫浦は思う。
ただ、イーデンとかいうおっさんの嫉妬が面倒だなとも思った。美女の嫉妬は可愛くても、おっさんの嫉妬は見苦しいだけだぜと鮫浦は思うのであった。
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