披露パーティ
こちらの世界での結婚は、町の庁舎に行き、結婚することにしたと報告するだけでいいらしい。
健二とサオは、フロイデの町の庁舎に行って結婚の手続きをすませた。
こんなにあっけなくていいものかと思ったが、郷に入りては郷に従えだ。サオが嬉しそうにしていたので、それが一番大切なことだろう。
結婚式や披露宴などで大騒ぎする人は少ないようで、仲の良い友達と個別にパーティをして結婚の報告をしたり、親や親戚と会食をするだけでことが足りてしまうようだ。
これも同棲が主流になってきているという社会的背景があるのだろう。
健二とサオの場合は、首都のエボルシオンで一度、お披露目の立食パーティをすることになった。
パーティには、ソンバック博士をはじめとする健二研究チームの先生方とサオのお兄さん夫婦が出席してくれた。
もちろんオウさんの家族も招待したのだが、オウ会頭は仕事が忙しく、ファシーノは海外出張に行ってもらっていたため欠席となった。二人とはまた家の方で個別に会食をすることになっている。
最近、仕事を通じて懇意になったオウの長男であるスクレと健二のアシスタントに昇格したブライが身内の代表として出席してくれた。
「まさか健二さんと結婚したのが先輩の妹さんだとは思いませんでした」
「こっちもお前とここで会うとは思わなかったよ。健二さん、こいつは大学在学中に優等賞をとったんですよ。スクレを金持ちの坊ちゃんだと侮っていた連中の鼻をあかしてやったのが痛快だったな」
スクレが先程からサオのお兄さんと話し込んでいたので、健二が気になって来てみたら、二人は同じサークルの先輩後輩だったらしい。世間というのは狭いものだ。
「そういえばお二人はセーラム大学の出身でしたね」
「ええ、今日はそこら中に知っている先生方がいるから、なんだか大学の謝恩会のような気がしてきます。でもオーカス大学の先生も来られてますね。ブライがあそこで恩師に捕まってますよ」
スクレに言われて、そちらに目を向けて見れば、経済学者のフォンさんに肩を叩かれてハッパをかけられているブライの姿が見えた。
「彼がさっき言ってたマコーミックの後継ぎかい?」
「ええそうです。妹のラナのことを託せる相手なのか、少々不安に思っていましたが、健二さんに鍛えられてあいつも成長したようです」
「いや僕はたいしたことはできていません。今回、スクレさんの会社と提携できたのはブライのアイデアが冴えていたからですよ。やっぱり人間、何でも経験しておくべきですね」
「ああ、聞いたよ。バイクタクシーに使うバイクの改造をするんだってな」
サオのお兄さんが言ったのは、バイクの後ろ座席に客が握ることができるバーをつけるという、ブライが出した改造アイデアのことだ。
運転手としても背もたれになるし、客も運転手の腰に手を回さなくても摑まるところができる。
スクレはバイクや自動車の大手企業の経営をオウに任されている。そこでブライがスクレに話を持ち掛けたところ、とんとん拍子に商談がまとまった。
全国に無数にあるすべてのセーオムがこの改造をすることになったら、大きな経済効果が期待できるだろう。
ブライがラナと結婚できるようになったのも、この実績がものをいったといえる。
サオは健二と一緒にソンバック博士と話をした後は、ずっと兄嫁のチムニさんと一緒にいるようだ。
チムニさんのお腹は少し目立ち始めている。ちょうど安定期になっていたため、パーティに出席してもらえた。
赤ちゃんか……
健二とサオにも子どもができるのだろうか?
さっき医学博士のダクタルさんと話をしていた時に、星を越えた異人種間での妊娠出産は例がないので、ぜひともうちの病院で出産してほしいと頼まれてしまった。
彼にとって健二はまだ研究対象であるらしい。
サオの兄であるマッチャンが勤めている病院なので、ダクタルさんに言われるまでもなく、何かあったらそこにかかることになるとは思う。
しかしダクタルさんにそう言われるまでは、健二も自分が異世界の人間であるということを忘れかけていた。そのため、結婚に際して子どもができるかできないかということについて、何も考えていなかった。
今夜、サオに相談してみなければいけないな。
健二がそんな心配をしていた頃、守護霊のシランは階層の守り人たちに赤ちゃんのことを相談していた。
上層階の神前会議の議題にもなったようなので、そのあたりは何とかなるのかもしれない。
親しく付き合う前に結婚してしまった健二たちだが、これからサオの仕事のことや家事の分担のことなども話し合っていくことになる。




