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昼の休憩時間になった時、健二はファシーノに拉致された。

健二の腕をつかんでグイグイと引っ張っていくファシーノは、見た目が細い割には力が強い。

有無を言わさずエレベーターに乗せられたのにはまいった。


しかしそこにブライが慌てて走って来て、閉まろうとしているエレベーターのドアの隙間から飛び込んできた。


「ちょっと、なんであんたまで来るのよ!」

「えぇー、だって俺、健二さんの付き人だもん」

「ブライ・マコーミック! こっそりとあんたの話をするつもりなのに、本人が来てどーするのよ!」

「……? 俺の話をするんなら、俺に直接聞けばよくない?」


「プッ、ハハハハハッ」

「健二、なに笑ってるの?!」


本人の目の前でこれからお前の影口をたたくんだと宣言するファシーノもファシーノだが、それに堂々と対峙するブライもブライだ。二人とも似た者同士だな。

健二としては笑えてくるが、これは互いに知り合ういい機会かもしれない。

それにブライの事情は、妹のラナの生活にも直結する。そうなると家族であるファシーノたちとも無関係だとはいえないだろう。


「ファシーノさん、ブライの言うことにも一理あるよ。これから一緒に働いていく仲間になるんだから、一緒に飯でも食べながら話をして、お互いに知り合おう。僕の国では『同じ釜の飯を食う』っていって、これもコミュニケーションの一環だったんだ」

「へー、仕事を一緒にしてるのに、飯まで一緒に食べるんっすか?」

「なんか……休めなさそうね」

「直接、話し合ってみないと相手が何を考えているかわからないだろう? それに原始的な欲求である食欲を介すると、飾らずに付き合えるもんだよ」



ビルの最上階にあるレストランで、ブライと健二からだいたいの事情を聞いて、ファシーノはようやく納得したようだった。


「もう、そんなことあの子は何にも言わないんだから……健二に頼るぐらいなら、私や兄さまに言えばいいのに」

「ラナは遠慮してるんすよ」

「なによ、それ! 姉妹じゃない」

「ラナだけが5歳下だからじゃないかなー スクレさんとファシーノさんは2歳しか違わないっしょ?」

「…………それにしたってねぇ」


ブライは婚約者のラナの気持ちをよくわかっているようだ。

だからしぶしぶでも、仕事を始めたのかもしれないな。


このレストランは窓から海岸や海がよく見えるので観光客も来るのだろう、昼の方がよく客が入るようだ。ここに来た時には満席のように見えたが、ファシーノとブライの顔を見ると、案内人がすぐに別室を用意してくれた。

二人ともグループ企業の社長令息や令嬢だけあって、こういうところに顔がきくようだ。

昼食にしては豪華なコース料理だったが、ファシーノが自分が話を聞きたかったんだからおごると言ってくれたので、ありがたくご相伴(しょうばん)にあずかることにした。


社長の肩書を持つ者としてはふがいないが、健二としてもまだ給料も出ていない極貧会社のトップなため、生活費は切り詰めておかなければならない。


さあ、なんとか利益が出るように、午後も頑張りますか!




仕事が終わって家に帰り、今日はやっと一人で過ごすことができた。


なんか引っ越しからこっち、慌ただしかったなぁ。


午後からはファシーノにも文具チームに加わってもらったのだが、彼女は買い物が好きなようで、今、世の中で流行っている柄やデザインのことなどをよく知っていた。

それはブライも同じようで、付箋に使うセリフに流行りのゲームやコミックスのセリフを提案したりして、チームの若手グループと意気投合していた。


あいつら、意外と使える人材だったのかもな。



今夜の夕食は、久々に食材を買いに行けたので、ちょっと凝ったものを作ることにした。


ちくわと小松菜をフライパンで甘辛く炒めたもの。

アジの干物をグリルで焼いて、ほぐした身をゴマ昆布とあえたもの。

そして秋の深まる夜には嬉しい、温かな湯豆腐だ。


このメニューだと、やっぱり清酒だよなー


健二はウジャの町から持ってきて、冷蔵庫で冷やしていた清酒をガラスのコップに注いだ。

澄んだ酒の向こうに、ソンバック博士と飲んだ居酒屋の光景が蘇る。


研究チームの先生方は、今頃、何をしているんだろう。

それにトーサンやチャンは元気かなぁ。

ファシーノに頼んで送ってもらったバーバルのメールは読んでくれただろうか。


健二の物思いをサカナに、今夜は酒もすすむ。


熱々の湯豆腐を頬張った健二は、今度は濃い味のアジの干物を一口食べた。

美味いなぁ。

昨夜のようなイタリアンなワインもいいけれど、やっぱりこういう日本食っぽい料理は落ち着くなぁ。


まだシャキシャキしている小松菜を甘辛いちくわと一緒に食べながら、健二はもう一杯、清酒をコップに注いだ。


暗くなった林の向こうから吹いてきた秋の風が、ガタガタと音を立てて窓ガラスを揺らしていた。

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