舞踏会のスイーツはボーロ・レイ 女官長のため息
リュミエールが舞踏会のホールから出ると、ホールの外では女官長が待っていた。
「離宮の準備は?」
女官長に短く問いかける。
「手配はすんでおります。」
女官長も短く答える。
リュミエールは女官長とともに執務室へ足を運ぶ。
「離宮の警備はどうだ。」
「滞りなく。」
執務室で待っていたマシが答える。
「これで後宮も騒がしくなるな。」
「こんなことで膿が出てしまうとは思いませんが?」
「出るか出ないかはわからない。ただ、今の現状だと不法貿易の尻尾もつかめていない。何かいつもと違うことをすることもいいだろう。」
リュミエールが面白そうに言った。
「小国とはいえ姫だ、正妃になる可能性のある人間。この甘い餌に誰が食いつくか。」
「人を巻き込むなよ。」
マシがたしなめる。
「腹が減ったな。」
マシの言葉を無視し、リュミエールが女官長に言う。
「軽いものをご用意いたしております。」
短く女官長が答え、部屋を辞してしばらくすると銀の盆に盛られた菓子を持って現れた。
女官長は菓子の中の一つを小皿に盛りリュミエールに差し出す。
「何度も言いますが、遊びはほどほどにしてくださいますと助かります。」
「お前も、そんなことをいうのか。」
リュミエールが冷たい視線を向ける。
女官長は視線に気がつかないふりをする。
「俺が恋するのはおかしいか。」
「王という立場をお考えになって行動しなさいということです。」
珍しく幾分砕けた口調で女官長が言った。
「いつまでも男の子のままでは、嫌われますよ。」
リュミエールは肩を竦めた。
そしてリュミエールは女官長から渡された菓子をを荒々しく二つに切り分けた。
ボーロ・レイの中からは金の髪をした小さな人形が現れる。
「ブリンデだ。」
リュミエールが声を立てて笑った。
「やはり菓子の名前をご存知でしたか。」
女官長があきれたように肩をすくめた。
「月の離宮に行くぞ。」
「本当に嫌われますよ。」
女官長は静かに頭を下げながら言った。
ボーロ・レイの中に入る人形は幸運を運んでくるという逸話、運んでくるのは…
女官長はこれ見よがしにため息を吐いた。




