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スイーツな王様  作者: 月帆
番外編
97/114

アップルケーキのお味のあとに マリアのドレス選び

ロザリアとリュミエールがアップルケーキを作っているころ、ロザリアの自室には女官長が訪れていた。

「そうやってロザリア様のふりをしていたのですか。」

女官長は冷ややかな視線をマリアんに送っていた。

ロザリアのドレスをまとったマリアは肩を小さくしながら神妙に女官長の話を聞く。

「今回は陛下が着るように言われました。」

女官長が肩をすくめた。

「陛下も物好きなことです。」

もう少し小言を言われるかと思ったがあっさりとマリアは開放された。

「夜会のドレスを作ります。ロザリア様は付き合わないだろうから、お前がくるように陛下が言われました。」

マリアの顔が輝き始めた。

「では私に選ばせていただけるのですか。」

「意見を聞くだけです。」

女官長が冷たくあしらう。

「お任せください。」

マリアが力強くうなづいた。


「呼んでいる商人は以前から陛下の服を仕立てているものです。お前も失礼のないように。」

「わかっております。商人から、情報が回ることもありますもの。」

女官長は額に手を当てた。

「その一言が余計なのです。」


マリアが通された部屋には色とりどりの布が所狭しと広げられていた。

「これから必要になることも多いでしょうから、とりあえず舞踏会用に数着揃えるようにということです。今回は青い色ドレスをしつらえるように陛下がおっしゃっております。」

女官長がマリアに説明をする。

「この方がロザリア様ですか。可愛らしい。」

小太りの男か女か判断するには難しい容姿の黒い服をきた巨漢が音もなく現れ声をかけた。

「いいえ。」

女官長は首を振る。

「あとは任せます。ツーマ、デザインの最終確認は私がします。決定したら呼んでください。」

そう言うと女官長は、振り向きもせず部屋から出て行った。

「あの子、硬いわよね〜。」

巨漢がマリアの肩を叩きながら言った。

「あの子は亡き王妃様にぞっこんだったからね。」

「亡き王妃様ですか?」

「前国王とあの子で亡き王妃崇拝してたわよ。そりゃもう。」

「つまりマザコンだと。」

上品な笑いでも、下卑た笑いでもなく、ツーマの乾いた笑いが辺りを包む。

「やだ、そんなんじゃ、かわいすぎるわよ。亡き王妃様は切れ者だったからね、国王の名の元にほとんど仕事をしちゃってたんだから。」

笑いながら、まくし立てる。

「ま、まだ。あいつじゃ勝てないな。」

ツーマの声が艶めいた男のものに変わる。


「姫様は生きております。」

ツーマの言う『あいつ』が誰かも尋ねず、マリアが気分を害しながら言った。

「あーん、話のわからない子ね。冗談、冗談よ。死んでたら服なんてこさえないわ。」

そういいながら青い…紺藍色の男性用の服を取り出した。

「陛下のはこんな感じにするつもり。いいでしょ髪の色にあって。噂のロザリア様の青いドレスは、こんな感じなんてどうかしら。実物を知らないから困るのよね。サイズだって、きちんと測れないし。私の作品にケチがつくじゃない。」

巨漢が吼える。


マリアは無視し、リュミエールが着るはずの光沢のある生地を手にとる。

所々に真珠があしらわれ背の高さが圧迫感を与えないように計算されつけられている。

アスコットタイ、チーフには黄金色の布があしらわれ気品を与える。

そして、ロザリア用に仮縫いされたドレスを見る。


「素晴らしいです…が。」

「なによ。」

「タイの色かえられませんか?」

「気に入らないって言うの。」

巨漢の目が鋭く光る。

「いえ、ただ姫様のドレスと合わないと思いまして。」

「なに言ってんの、合うように作るわよ。」

「おそらく、そのドレスは今回は着られないかと。」

巨漢の眉間にシワがよる。

「あんた馬鹿?側室が、陛下からの贈り物に袖を通さないなんてあり得ないでしょ。」

しばしの沈黙。

それがすべてを語っていた。


「本気なの?」

口を開いたのは巨漢だった。

「はい。」

「じゃあ、何着るの。」

「おそらく誕生日に父君から贈られたものではないかと。」

「すぐ持ってきなさい。見るわ。でも、アテがはずたらしめるわよ、あんた。」

巨漢が大きな尻を揺らしながらマリアの額を指差した。

「はい。」


今度はマリアの持ってきたドレスを見て巨漢が叫ぶ番だった。

「あんたたちの国って、あそこだったの。」

「縫製だけでわかりますか。」

マリアの賞賛の声が聞こえる。

「縫製も…よ。この染めた染料、あんたの国でしかとれないじゃない。これはお金も暇もかかっているわ。これなら私の作品じゃなくても許してあげるわ。私の作品の隣がチンケなものだったら破るつもりだったけれど大丈夫ね。」

巨漢が納得する。


「ま、もしもの時のために青いドレスは私が作っておくわ。アテが外れた時は覚えておきなさいよ。」

マリアの言葉を信用しきれない巨漢がつぶやいた。

「覚える必要のないことは覚えません、それよりも…この青いドレス、もっとレースをここに縫い付けていただけませんか?」

「あら、あんた自分にセンスはないけれど、なかなかいいこというじゃない。」

二人の会話はドレスの話題へと移っていく。


巨漢とマリアが本当の知り合いになるのはもう少し先のお話。

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