本当に甘いスイーツができるには?
リュミエールは何事もなかったかのように舞踏会の場へ入る。
宰相はその姿を見届けてから、ロザリアを城の一室へと案内する。
室内はきらびやかな飾りは最小限に抑えられ、大きな鏡や化粧道具などが所狭しと置いてある。
「御髪を直されたほうがよろしいでしょうね。」
そう言い宰相が部屋からでると、代わりにエミリアとマシが入ってきた。
「お姉様、ご無事で。」
そう言いながらエミリアがロザリアの手をとる。
「お転婆なお姫様。」
そう言いながらマシが鏡の前に座るように身振りで促す。
ロザリアは何も言わず鏡の前におかれた椅子に座り、鏡越しにマシの姿を見る。
マシは視線輪輪セルよりも先に、鏡の前にある櫛をとり、大きな手が器用に髪をとかしはじめる。
「黒幕は知っていたの?」
ロザリアが声をあげた。
「…確証はなかった。」
マシの肯定と取れる言葉にロザリアはため息をつく。
「秘密ごとが多い国ね。」
「嫌になった?」
語尾を軽く上げ、冗談めかした口調でマシが尋ねる。
会話を交わしながらも、器用に動く大きな手が髪をしっかりと結い上げていく。乱れていた髪が見る間に形を美しく変化していく。
エミリアも負けじと、ロザリアのドレスに付いた芝を払いながらドレスを整える。
「密輸…飛び交う金。欲ってのは怖いね。」
マシがロザリアからの返答を待たず軽く言う。
「欲というよりも、あの方は嫌気が指したのですわ。」
エミリアがつぶやいた。
マシが続ける。
「あの人は頭も腕もあったが、頭が必要な人間だったからな。」
手早く結い上げた髪に、髪飾りを結いこむ。
「…陛下の教育係としてがんばって…それが突然伯爵に。政務に精を出して、それが王妃様が死んだら王様がやる気なくなって…何度も頭が代わることに嫌気が差したんじゃないか。」
そう言いながら、綺麗に結った髪を四方から眺める。
「いいでき。」
満足そうに頷いた。
そしてロザリアを立ち上がらせた。
「私の王にはなれない…って最後に言ったわ。きっとあの人にとっての王は別にいたのよ。」
よく知らないカエ伯爵の最後を思い出す。
「では姫様にとっての王様はいらっしゃいますか?」
口調をかえマシが腰を折り、手を差し伸べながら尋ねる。
ロザリアはため息をついた。
「いないわ。」
きっぱりと言い切り、マシの腕を取りエスコートするように立ち上がらせながら小さく耳元でささやいた。
マシの口元がおかしそうにほころんだ。
「相変わらず甘いお姫様だ。」
「そうかしら…でも、ま、甘いだけじゃ本当の甘さはわからないのよね。」
ロザリアが長いまつげを伏せた。
「行きましょう。」
扉は開かれる。
扉の外には宰相が控えていた、マシはエスコートの役を宰相に譲る。
「素敵な姿にしてくださってありがとう。」
ロザリアがにっこりと微笑んだ。
マシが僅かに目を開いた。
「そうそう、言い忘れてたわ。この国いやじゃないわよ。」
そう言うとロザリアは、宰相に進むように促す。
「甘いだけのお姫様じゃないかもな。」
二人の姿を見送りながら、マシがつぶやいた。




