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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
84/114

本当に甘いスイーツができるには?

リュミエールは何事もなかったかのように舞踏会の場へ入る。

宰相はその姿を見届けてから、ロザリアを城の一室へと案内する。

室内はきらびやかな飾りは最小限に抑えられ、大きな鏡や化粧道具などが所狭しと置いてある。

「御髪を直されたほうがよろしいでしょうね。」


そう言い宰相が部屋からでると、代わりにエミリアとマシが入ってきた。

「お姉様、ご無事で。」

そう言いながらエミリアがロザリアの手をとる。

「お転婆なお姫様。」

そう言いながらマシが鏡の前に座るように身振りで促す。

ロザリアは何も言わず鏡の前におかれた椅子に座り、鏡越しにマシの姿を見る。

マシは視線輪輪セルよりも先に、鏡の前にある櫛をとり、大きな手が器用に髪をとかしはじめる。


「黒幕は知っていたの?」

ロザリアが声をあげた。

「…確証はなかった。」

マシの肯定と取れる言葉にロザリアはため息をつく。

「秘密ごとが多い国ね。」

「嫌になった?」

語尾を軽く上げ、冗談めかした口調でマシが尋ねる。

会話を交わしながらも、器用に動く大きな手が髪をしっかりと結い上げていく。乱れていた髪が見る間に形を美しく変化していく。

エミリアも負けじと、ロザリアのドレスに付いた芝を払いながらドレスを整える。

「密輸…飛び交う金。欲ってのは怖いね。」

マシがロザリアからの返答を待たず軽く言う。

「欲というよりも、あの方は嫌気が指したのですわ。」

エミリアがつぶやいた。

マシが続ける。

「あの人は頭も腕もあったが、頭が必要な人間だったからな。」

手早く結い上げた髪に、髪飾りを結いこむ。

「…陛下の教育係としてがんばって…それが突然伯爵に。政務に精を出して、それが王妃様が死んだら王様がやる気なくなって…何度も頭が代わることに嫌気が差したんじゃないか。」

そう言いながら、綺麗に結った髪を四方から眺める。

「いいでき。」

満足そうに頷いた。


そしてロザリアを立ち上がらせた。

「私の王にはなれない…って最後に言ったわ。きっとあの人にとっての王は別にいたのよ。」

よく知らないカエ伯爵の最後を思い出す。

「では姫様にとっての王様はいらっしゃいますか?」

口調をかえマシが腰を折り、手を差し伸べながら尋ねる。

ロザリアはため息をついた。

「いないわ。」

きっぱりと言い切り、マシの腕を取りエスコートするように立ち上がらせながら小さく耳元でささやいた。

 マシの口元がおかしそうにほころんだ。

「相変わらず甘いお姫様だ。」

「そうかしら…でも、ま、甘いだけじゃ本当の甘さはわからないのよね。」

ロザリアが長いまつげを伏せた。

「行きましょう。」

扉は開かれる。

扉の外には宰相が控えていた、マシはエスコートの役を宰相に譲る。

「素敵な姿にしてくださってありがとう。」

ロザリアがにっこりと微笑んだ。

マシが僅かに目を開いた。

「そうそう、言い忘れてたわ。この国いやじゃないわよ。」

そう言うとロザリアは、宰相に進むように促す。


「甘いだけのお姫様じゃないかもな。」

二人の姿を見送りながら、マシがつぶやいた。

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