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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
8/114

スイーツの作り手

宰相の不可解な行動に頭を悩ませつつも、ロザリアはあいかわらずマリアの格好をしてお菓子作りに精を出していた。

今日もお菓子作りを終え、マリアと二人っきりのお茶会を楽しんでいた。


「ねぇ聞いて、マリア。

この前の約束したお菓子…お仕事中に食べやすいかと思ってクッキー作って渡したんだけど、やっぱりあれ以来なんか作る度に宰相の使いがなぜかくるのよね。」

ロザリアは大きなため息をついた。

「で、結局作ったもの持っていかれるし。」

ロザリアは嫌ではないものの再びため息をついた。

「私のほうにも、時折女官長からこの日に合わせて作って欲しいと依頼もきております。…好みまで添えて。」

マリアもため息をついた。

「何もすることはないからいいんだけれど、マリアのふりがばれるのも時間の問題じゃないかしら。」

「姫様は、たまには良いことを言われますね。」

マリアが同意した。

「たまには余計よ。」

ロザリアは頬を膨らませる。

そして、二人して大きなため息をつく。


ロザリアの居室の扉を叩く音がした。

滅多に人の来ない部屋、ロザリア付きの侍女ですら食事と掃除の時以外は立ち入ることが少ない部屋でロザリアは不思議そうな顔をした。

「誰かしら?」

「さあ?」

そういいながらロザリアは衣服を軽く整え、姿勢を正す。

マリアは自分の茶器を素早く隠した。

「入りなさい。」

ロザリアが声をかけた。

「失礼します。ロザリア様。」

現れたのは珍しく女官長だった。

ロザリアの輝く金髪と異なり、同じ金髪でもアッシュブラウンと呼ばれる類のややくすんだ髪色に、灰色の瞳、スラリと背の高い、それでいて存在を感じせない年齢不詳の女官長だった。

「お久しゅう。」

ロザリアはいつもの天真爛漫な態度を改め姫らしく威厳を持って応える。


「お加減はいかがにございますか?」

体調はいつも元気だと思いつつ、義理で誘われる夜会やサロンの誘いを断るために気だるげな様子をみせ病弱な様子を気取る。

「ええ、大分いいですわ。ありがとう。」

ロザリアはにっこりと微笑む。

「今日は宰相よりお願いがございまして伺いました。」

女官長はいつも以上に顔を引き締める。

「なにかしら?」

「侍女を譲っていただきたいのです。」

「どの侍女かしら?」

とぼけていう。

「マリアです。」

「……国から連れてこられたのはマリアのみ。そのマリアも私から取り上げると。」

ロザリアは目を悲しそうに伏せ、自分のドレスをつかんだ手は震るわす。


見事です、姫様。

マリアは薄倖の美しい姫を演じるロザリアに喝采を心の中で送った。


「宰相にお伝えください。マリアを奪うことは、私を奪うことだと。」

そういって頬を一筋涙が伝う。


ええ、姫様は嘘はもうしておりません。

マリアは心の中で叫ぶ。

なぜなら宰相の知るマリアは姫様なのですから。

「わかりました。」

女官長は困惑し、退席する。


「いった?」

ロザリアは舌を出す。

「はい。」

「これで、しばらく静かだろうけれど…バレるのも時間の問題かなぁ。」

「そうでございますね。」

「女官長怒るわね。」

「そうでございますね。」

二人のため息の大合唱だった。


「そうですか。まあ予想通りの反応といえば反応ですね。」

宰相にロザリアの反応を報告しにきた女官長がため息をついた。

「べつに愛でたいわけでもないでしょうし。執着なさるのが歩に落ちません。姫自身もも控えめな方ですし、もともと後宮に上がられたと言っても政治的なものですし…王が熱望された方でもありませんし。

しかも王の関心もありませんし、捨て置かれるのがよろしいのではございませんか?

下手に関わって帰せなくなったり、処理する方が面倒だと思いますが。」

女官長は栗色の髪をした明るいマリアの顔と、幸薄いロザリア姫の顔を思い浮かべながら進言する。


「そうですか?愛するには足りる方だとは思いますが…残念ながら一応陛下の側室様の侍女を手にかけるほど私は好色ではありませんよ。」

女官長は浮世を流し、現在は一男六女の父となっている宰相の言葉にもう一度ため息をつく。

「では、なぜ固執されるのですか?」

「それは…まぁ、あなたにならいいでしょう。

王が彼女の作るものを好まれるんですよ。

ご褒美にお菓子とは、陛下もお子様ですからね。」

にっこりと微笑む。

「それだけですか。」

「陛下はイメージも大切ですからね。回りがイメージを守らないと、あのやんちゃさんはまわりから舐められるでしょう。」

事も無げに宰相は言った。

「聞こえているぞ。」

話の主のリュミエールは隣の部屋から出てきた。

「聞こえるように言っているのです。ご褒美がないと、拗ねて執務のペースが落ちるなど…私はそのようにお育てしたつもりはありません。」

普通の人間であれば捌き切れない量の執務をこなしていることを知っている宰相に、リュミエールはを心の中で罵る。

口に出せば「私もです。」と言われるか、「王は普通に人間とは違います。」と言われ働く量が増えることが目に見えていたから。

女官長はいつものやり取りにため息を吐くのをやめた。

「見苦しいですよ。」

年齢不詳の女官長は母のように二人を諭す。

「では、この件はなかったことに…ですね。」

そういうと一礼して退席した。

「さあ、働きなさい。」

宰相の言葉で日常が始まった。


ご指摘ありがとうございます。

「侍女をお譲りいたしたいと。」→「侍女を譲っていただきたいのです。」

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