表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スイーツな王様  作者: 月帆
本編
74/114

くちづけのスイーツ

月の離宮と呼ばれるだけあって、窓の外には月の形が美しく輝いている。

マリアが湯気の立ち上るカップを、手際よくテーブルの上に整えていく。

「マリアの入れてくれたお茶は久しぶりね。」

優雅にカップを口につけながらメマリーが嬉しそうに笑った。

そして、琥珀色をした液体をゆっくりと美味しそうに飲む。

「本題に入りたい。」

メマリーの嬉しそうな声とは対照的な、リュミエールの低い声が問いかけた。

「早い男は嫌われるわよ。」

優雅にことさらゆっくりとカップを置きながらメマリーが言う。

リュミエールの眉間に皺がより、王子が少し気の毒そうな表情を見せた。

「お姉様。」

ロザリアも静かに先を進めるよう声を上げた。

「せっかちね。」

途端にメマリーの笑顔は消える。


「マスキンの情報でね…」

そしてメマリーは世間話でもするような気軽さで口を開く。

「マスキン特有の香草が密売されていらしいわ…もちろんこの国で。」

「香草?」

あいまいな表現に再度問いかける。

「一種の麻薬ね、マスキンでも一番厳重に管理されている。そして-金になる。」

小国とはいえ大貴族の娘とはいえない言葉を口にした。

リュミエールとメマリーがしばらく見詰め合う。

「俺に教えてもいいのか。」

先に口を開いたのはリュミエールだった。

「すぐ抗議がくるんじゃないかしら。それとも…戦争?」

軽い調子で、怖いことをさらっと答えた。

「本当は、ロザリアをさっさとつれて帰ろうと思っていたんだけど、なんだかおもしろいことになりそうだから様子を見るわ。」

王子が非難のまなざしを向けるが、メマリーはゆっくりと視線を制する。

そしてお茶についていたスプーンをリュミエールの傷ついた肩に向かって投げつけた。

避けようとすれば、避けれたはずなのにスプーンはリュミエールの肩を直撃する。

「それから、これ以上ロザリアを危険な目にさらせたら。」

言葉を区切る。


「…殺すわよ。」

茶化した様子でメマリーは言ったが、瞳は笑ってはいなかった。

そしてリュミエールの返事を待たず立ち上がり、王子にも視線で立ち上がるように促す。

「そろそろ、夜も更けてまいりましたし、今日はお暇しますわ。」

そして王子を付き従え、堂々とした様子で月の離宮を後にした。


二人が去った後、マリアは事は終わったとばかりにお茶のかたづけをはじめた。

「皆、二人にしてくれないか?」

「どなたとですか?」

マリアが意地悪く尋ねる。

「ロザリアだ。」

リュミエールはむっとした態度で答える。

答えとともに宰相、女官長は立ち上がり『はじめっから姫様と話したいといえばいいものを。』とぼやくマリアの腕をマシが取り部屋から出て行った。


「どうされましたか?」

ロザリアの問いかけに、しばらく無言の時間が流れる。

「俺はお前が好きらしい。」

「らしい?」

唐突に話される言葉に、ロザリアは平静をよそおおいながらも顔が赤くなっていた。

「あの…」

「わかっている。お前の心が俺にないことは…寵妃をやめたがっていることは。」

窓から差し込む月光が、ロザリアの髪にあたり美しく柔らかい光を放つ。

ゆっくり、そうゆっくりとリュミエールはロザリアの傍に行き、ロザリアを立たせた。

そして跪き、ロザリアの手をとり恭しくくちづけをする。

「それでも…………ま、寵妃はやめさせてやる。だが逃げるなよ。」

支離滅裂な言葉を残してリュミエールは執務室から出て行った。


残されたロザリアもただ呆然としていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ