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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
62/114

大人のスイーツ

結局、リュミエールに抱きかかえられたままつきの離宮にロザリアは帰ってきた。

戻ってきたロザリアとマリアを迎えたのは苦い顔をした女官長と宰相の姿だった。


「いい加減降ろして下さい。」

ロザリアは何度目かの抗議の声をリュミエールにあげた。

リュミエールがやっとロザリアを降ろす。

「私の管理不足でございます。申し訳ございません。」

言いたいことは他にもあっただろうに女官長はロザリアに頭を下げた。

「辞めないでくださいね。」

ロザリアが返した返事はあっさりとしたものだった。

「女官長が優秀なおかげで、あの程度の者しか入らなかったのですから。」

エリザの逃げていく姿を思い出しながらロザリアは言った。


そして視線を宰相に向ける。

「それに…泳がせておいた餌を捕まえてしまってごめんなさい。あれ以上大きな魚は釣れないと思います。むしろ…これからなんでしょうね。」

暗に宰相がエリザに疑念を抱いていたことを示す。

ロザリアは宰相との二度目の出会いを思い出す。

宰相職にあるものが、いくら夜会があるからといって本宮の裏庭にいること自体が不自然だった。

その不自然さを回りに与えないよう宰相は立ち回っていたけれど…一度不自然だと思ってしまえば、ちいさなほころびは見えてくる。

宰相が声をかけていた侍女―エリザ、今になってみれば泳がせていたのだとロザリアは思っていた。


「いえ、それよりも貴方をを危険に晒したことのほうが…皆様から怒られますね、こちらこそ早く手をうっておくべきでした。」

そう言って宰相は頭を下げた。


「それにしても、貴方達は驚きの連続ですね。」

宰相が軽く肩をすくめた。

「本当に、この二年間私たちは何をみていたのか。」

女官長が肩を落とす。

「聞きしに勝る姫様ですね。上手に隠れておいでだった。」

宰相が女官長を慰めるように言った。

「由緒のある…という聞こえのいい国で育ちましたが、小国こそ情報はなによりも大切だと父から学びましたから。」

ロザリアが自国を思い出して答える。

王族としての教育ももちろん受けたが、その中には姫らしくない鍛錬や国の特産である薬草の知識、秘薬の知識まで含まれていると言ったら、さぞかし女官長あたりはびっくりするだろうと思うとロザリアは自然と口元に笑みが浮かんできた。

「ロザリア様もお疲れでしょう。湯浴みの準備も整っておりますし、ゆっくりされてはいかがですか。」

女官長が形だけの提案を口にする。

眼は、それ以外の行動を許さないと言っている。

ロザリアは自分の土で汚れたドレスや見ながら、ぼさぼさになり肩に落ちた髪を手で耳にかける。

「それよりも陛下とお話をしなければ。」

ロザリアがリュミエールのほうを振り返った。

「いや…そうだな。女官長の言う通りだ、少し休め。」

「そういう訳には、どうしてこうなったのかお知りになりたいのでは?」

ロザリアが抗議の声を上げた。

「あの倒した男達に話を聞けばいい、それに情報をもらした貴族達にも一度会う必要がある。」

リュミエールは言った。

「昼のうちにしかすませることのできない用もありますからね。」

宰相がそう言うとリュミエールは露骨に嫌な顔をした。

「さあ、お仕事の時間です。女官長、貴方にも伺いたいことがあります。」

そう宰相が言い、リュミエールと女官長を連れて部屋の外に出て行った。

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