消えたスイーツ
リュミエールとマリアが無言で月の離宮に戻る途中、エミリアの次兄と出会う。
「おや?お優しいお姫様の侍女殿まで引き連れて。」
エミリアの次兄が面白そうな声で言った。
「お前がいるなんて、どうした。」
リュミエールが、その言葉を無視して尋ねる。
「会いたかったから。」
そう言いながらエミリアの次兄はリュミエールの肩に親しげに手を置いた。
リュミエールは間髪いれず払いのける。
「つれない。」
「今はなんの用だと、聞いている。」
リュミエールが再度尋ねる。
「大事なお姫様が狙われた。もしくはうちのじゃじゃ馬…馬より猪のほうがいいか。」
リュミエールの耳元で他には聞こえないようにエミリアの次兄はささやいた。
「ロザリアは大丈夫なのか?」
リュミエールが焦ったように尋ねた。
「お熱いことで。今はエミリアと休んでいる。」
「そうか。」
安堵の言葉をリュミエールは口にした。
「マシ様。」
騎士が慌てたようすでエミリアの次兄の元へ駆け寄ってきた。
「陛下の前だぞ。」
エミリアの次兄―マシは騎士に軽く注意を促す。
「それが…ロザリア様がいらっしゃらなくなりました。」
「またか。」
リュミエールが面白そうに声を上げた。
「出し抜かれる騎士か…一体、どんな仕事をしている。」
マシが腕を組み報告に来た騎士に苛立たしげに歩み寄った。
「探索は。」
「もちろんしております。」
報告に来た騎士は青ざめながらも、マシの冷たい言葉に返事をする。
「そう怒るな。」
リュミエールが軽く止めた。
「狙った犯人が分からないのにか。」
マシが騎士やマリアがいるにもかかわらず、リュミエールに反論する。
「姫だとはわからないようにしているだろう。な、マリア。」
リュミエールが面白そうに後ろに控えていたマリアに話題を振る。
『そうですね』と、同意の言葉を期待していたリュミエールの目に写ったのは、誰よりも青ざめているマリアの姿だった。
「どうした。」
真剣な表情でリュミエールが尋ねた。
「姫様は…犯人に会っいるのでは…と思います。」
マリアの言葉にリュミエールとマシの表情が厳しいものに変わる。
「どういうこと…だ。」
マシがマリアに尋ねる。
「…この後、陛下と合流し情報を漏洩した者と会う予定だったのですが。」
マリアは言葉を濁した。
「狙われた…ということで、予想外の展開に姫様なりに対応されているのだと思うのですが…。」
マリアの言葉をリュミエールがさえぎった。
「どこで会っている。」
「おそらく本宮の厨房ではないかと…。」
「話は後だ。」
リュミエールは顔色をかえマリアと共に走り出した。
「本当にお熱いこと…熱さは判断を狂わせることもあるのに…な。」
マシがつぶやく。
「マシ様?」
報告に来た騎士が怪訝そうな声を出す。
「いいか、探索は続けろ。確証のない話には乗れない。…が、本宮の厨房にも人を出せ。」
「了解しました。」
騎士が敬礼する。
「俺は厨房に行く、お前達の不手際が原因だ、次は許さない。」
そういうと、リュミエールとマリアの後をマシは追いかけた。
誤字脱字訂正しました。




