スイーツの材料
リュミエールに手を引かれながらロザリアは宿を出た。
路地の交差点を何箇所か通り過ぎると、露天商の立ち並ぶ賑わいをみせる界隈に出てきた。
宮廷の華やかさとは違う賑わいが辺りを包む。商人や客達の 威勢のいい声が飛び交う。
「こういうところは初めてか。」
リュミエールの言葉に、ロザリアは自国で過ごした日々のことを思い出した。
王女として過ごしながら、市井で従姉妹と一緒に王宮を抜け出し遊んだ日のことを…そう言えば、弟は何度誘っても街に行くことを拒んでいたことを思い出す。
いたずらもよくした。
「笑ったな。」
リュミエールに指摘され、ロザリアは自分では気がつかないうちに頬が緩んでいたことに気がついた。
「初めてではないと言ったら驚かれますか?」
茶目っ気を含みながらロザリアは片目をつぶる。
「いいや。」
今度は二人で声を出して笑っていた。
「迷子になるなよ」
そう言ってリュミエールはつないだ手を力強く握りしめた。
それから二人はゆっくりと露天商を見て回る。
活気のいい声、人々のざわめき。
珍しい北方の毛織物や装飾品、南国の色鮮やかな果物、そしてロザリアの国の特産品になる薬草など、様々なものが売っていた。
争っているはずのマスキン国の品々でさえ並んでいる。
性根たくましい威勢のいい商人の声にも負けず、二人は時には笑いながら時には皮肉を言いながら一つ一つ店をのぞいていく。
「あっ」
ロザリアは思わず足を止めた。
「どうした。」
リュミエールも足を止める。
ロザリアの視線の先には、香辛料やハーブなどを取り扱っている露天があった。
「いえ、興味のある物があったんです。」
ロザリアは思案する表情になりやがて嫌そうに口を開いた。
「お金を貸して下さい。」
「はっ?」
「金です。」
周りの喧騒にリュミエールが聞き取れなかったのかと思い、ロザリアは大きな声をあげた。
「突然連れてこられましたし、手持ちがないんです。」
ロザリアは頬を膨らませながら理由を述べた。
「どれが欲しいんだ。」
ロザリアは指で香辛料やいくつかのハーブを指差す。
「500ロイドあれば足ります。」
合計金額を伝える。
「オヤジ、今言った物包んでくれ。」
リュミエールは露天商の主人に声をかけた。
「ありがとうございます。きちんと返しますから。」
「それぐらい大丈夫だ。」
リュミエールが軽く手を振った。
「でも…」
ロザリアが居心地悪そうにリュミエールに言い返そうとすると、露天商の主人が威勢のいい声をかけた。
「ねーちゃん、奢るのも男の冥利だ。まだまだわかっちゃいないな。」
そういいながらリュミエールから金を受け取り、ロザリアに品物を渡す。
「そういうことだ。」
リュミエールがロザリアの手の中から包まれた品物を取った。
「俺に持たせるなんて、なかなかできないぞ。」
茶目っ気を含ませた声でリュミエールが言う。
「でも…」
ロザリアが言い返そうとすると、繋いだ手を軽く力を入れられた。
「ローザ。」
つないだ手が温かい。
「ありがとうございます。」
ロザリアは素直に礼を言った。
そして、先ほどと同じように二人は露天商の立ち並ぶ路地ををゆっくりと歩き始めた。
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誤字脱字修正しました。




