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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
42/114

今日のスイーツはシュークリーム

久しぶりに侍女服に身をつつんだロザリアは本宮の中を何食わぬ顔で歩く。

見慣れない侍女も、堂々としていれば誰も気にも留めない。


「久しぶり、マリアちゃん。」

意外な人物からロザリアは声をかけられた。

声の先にいたのは人のよさそうな笑顔の料理長だった。いつもの普段着や白い服ではなく、格式張った金糸の入った上着に藍色のズボンを合わせている。

後ろには護衛の騎士までついてきている。

顔が料理長でなければ、どこの上流貴族かと思うほどだった。


「その格好。」

思わずロザリアが口を開く。

「ちいっと前に王様に会ってな。格式も大事だとかでこんな衣装、どうだ似合っているだろう。」

料理長が胸をはった。

ロザリアがくすりと笑う。

「マリアちゃんこそ、珍しい場所で。どうしたんだい。」

「ちょっと姫様の御用で。」

料理長に声をかけられた時は、内心ばれちゃった?と焦ったものの、普段と変わらない料理長との言い合いにロザリアはほっとする。

「そうか…用は終わったのかい?久しぶりによっていかないかい?」

ロザリアは少し考え込んだ。

「せっかくだし何か作っていけばいい。」

本当なら、本宮にしかこない貴族の姿を何人か確認したかったのだけれども。

ロザリアは一瞬迷う。

「本当。作りたいものがあるの。」

結局スイーツの魔法の前には、あっさりと貴族たちの姿を確認するのをやめにした。


いつもの格好に着替えた料理長と、いつもの厨房で会う。

「よかったな。陛下がマリアちゃんところの姫に気がついてくれて愛して下さって、これでマリアちゃんの心配事も消えたな。」

料理長が嬉しそうに話しかけてくる。

「ええ。そうなの。」

愛して?

気がついて?

2年もほっておかれたのにいまさら気がついて、愛する側室だなんてありえるわけない。

ただ敵を選別するためだけにいいように扱われる駒…契約の関係にすぎないのに。

顔には出さずロザリアはにっこりと笑う。

「しかしな〜月の離宮は厨房もあるしもうマリアちゃんの顔を見れないかと思うと寂しくってさ。」

料理長が話し続けている。

「ええ、でも料理長とはこうしてお話をしておきたいし、また来てもいい。」

にっこりとかわいい笑顔を向ける。

料理長は年甲斐もなく顔を赤らめた。

「もちろんだ。で、今日はなにを作るんだい?」

「ええ、今日はシュークリームを作ろうと思って。」

ロザリアは久しぶりに腕が鳴るのを感じた。


牛乳を温めたところに、卵、砂糖、小麦粉を混ぜた材料を少しづついれ木べらでかき混ぜる。

「カスタードクリームのできあがり。」

そういいながら最後にバニラビーンズを一本いれる。

それから、小麦粉をふるい、材料を鍋の中にいれる。

粉だらけだった鍋の中身が徐々に滑らかなシュークリームの生地に変わる。

最後にシュークリームの生地をゆっくりと鉄板にのせる。

「我ながら完璧…。」

本来の目的も忘れてロザリアは久しぶりのお菓子作りを楽しむ。

「そうだ。ねぇ料理長、お時間大丈夫ですか?」

ロザリアが尋ねた。

「ああ、今日の夕餉は陛下が視察で遅くなるから大丈夫だよ。何を思いついたんだい。」

「秘密。」

そう言ってロザリアは微笑んだ。

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