苦いスイーツ
月の離宮では着替えもせずロザリアが仁王立ちになっていた。
「あの男は何様よ。」
呆然としたまま宰相に連れられて月の離宮にロザリア腰を落ち着けていた。
「王様ですよ。
宰相が辛辣に言った。
「知ってるわ。」
ロザリアは煮えたぎる思いを宰相にぶつけたことを後悔する。この人が悪いわけじゃないのに…。
「ごめんなさい。」
すぐに謝る。
気持ちは晴れるものではなかったが八つ当たりをしたことはわかっていた。
「リュミエールに比べれば対したことありません。」
陛下ではなく名前を呼ぶことで宰相のリュミエールに対する親愛の深さをロザリアは感じる。
「マリアが言っていましたよ。陛下が訪れるようになってから贈り物がくるようになったこと。中には気持ちのいいものばかりではないことも。」
大きなため息をオスカーは吐いた。
「一週間…二年も捨て置かれたのに、面白いほど人はかわれるものなのですね。」
口調を改めながらロザリアは言った。
「あなたは、もっと頼ってもいいと思いますよ。」
宰相が優しく言った。
「優しさは毒より怖い。」
ロザリアはつぶやいた。
「何ですか?」
「いえ…。」
この状態に陥った元凶はこの宰相にあるはずなのに…答えるのもうんざりしてきたところやっとロザリアは質問から開放された。
荒々しく部屋の扉が開かれリュミエールが入ってくる。
リュミエールの後ろには女官長とマリアが控えていた。
「どうして、こんなことになるんですか。」
宰相に八つ当たりして幾分冷静さを取り戻したロザリアが尋ねた。
「俺がお前を好きだからだろう。」
リュミエールの答えに、かかとの高い靴をロザリアは踏み鳴らす。
「馬鹿も休み休みにしてください。」
「本気だと言ったら?」
リュミエールの瞳が光る。
リュミエールが手を延ばしロザリアの頬に手をやるが、ロザリアは冷たく叩き落とした。
「もう舞踏会は終わってます。」
リュミエールは咎めることもせず話題を変えた。
「そうだ、なぜ誕生日のことを言わなかった」
ロザリアは目を丸くした。
誕生日なんて一ヶ月少し前に終わっているのに、あの時は何も言わなかったのに…食べられたフォンダショコラを思い出す。
時間をかけてカカオから作ったフォンダショコラ。
「なぜと言われましても…伝える必要がありましたか?」
別に、ここにきてからはじめての誕生日でもないのに、知らない方が悪いとロザリアは思う。
「可愛い側室に贈り物も贈らないとは、俺がケチみたいじゃないか。」
真剣に言っているのか、笑わせようとしているのかロザリアは悩む。
「どうして、贈った服をきてこなかった?」
リュミエールは不機嫌ではないが不思議そうな声を出す。
「父の…父からいただいた服ではいけませんか?」
ロザリアが伏し目がちに答える。
マリアが気まずそうに青いドレスをつかむ。
「演技力はさすがだな。」
ロザリアが可愛らしいしぐさをすれば、普通の男ならば伏し目がちに答えるだけで自分のいいように解釈するか、好意を示されたと有頂天になるかどちらかだがリュミエールは、そのどちらでもなかった。
「あんな動きにくくて重そうな服着ていられません。」
マリアの方を向きながら言った。
「陛下からの贈り物のでも陛下がお選びになったのではないでしょう。」
マリア好みのドレスを見ながらロザリアは言った。
「舞踏会の服は俺が選んでもいいが、俺が口を出せば仕立屋の仕事が減るからな…いや増えるか。譲れるところは譲っておかないとな。それとも選んで欲しかったのか?」
少し王らしい言葉をリュミエールが口にした。
腐っても王様…ただの俺様じゃないか。
とロザリアはつぶやく。
「聞こえているぞ。」
「聞こえるように言ってるんです。」
ロザリアは胸を張った。




