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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
30/114

舞踏会のスイーツはどこですか?

「あら可愛らしい方をお連れですわね。陛下。」

リュミエールとロザリアの微妙な雰囲気を破ったのは、恰幅のいい装飾品を多数つけた貴婦人だった。

リュミエールはロザリアを引き寄せ、腰に手を回した。

「ああ、彼女はロザリアです。」

「あら噂のお方ですわね。」

嫌に耳に残る声で貴婦人が問いかける。

「彼女は身体が弱くてね。この場所まで連れてくるのに何年もかかってしまいました。」

ロザリアの腰に回された手に力が入りさらに身体が密着する。

「あら、まあ。」

貴婦人の好機に満ちた視線がロザリアに注がれる。

不自然にならない程度にロザリアはリュミエールの手をのけ優雅に一礼する。

「申し遅れました。チトーさま。ロザリアでございます。」

にっこりと微笑むロザリア、そして紹介もされていない貴婦人ーバミュー侯爵夫人の名前を呼んだ。

チトーと呼ばれた貴婦人は大きな扇を広げながら声高く笑った。

「あら、私のことをご存知ですの。」

「知っていたのか。」

リュミエールも意外そうな声を出す。

名前とプロフィールを知ってはいても顔まで知っているのが不思議そうな様子だった。

ロザリアは言われて始めて気がついたように、恥じらいながら目を伏せる。

「申し訳ありません。陛下。チトー様は貴婦人の中でもあこがれの方ですから…お話をさせて頂くのは初めてなのですが…思わずお名前で呼んでしまって……バミュー様もお許しください。」

さりげなく褒め言葉をまぜ、ロザリアは言葉を紡いだ。

バミュー侯爵夫人は扇を口元に当て『あら、まあ。』と嬉しそうな声をあげた。

ロザリアは長いまつげを伏せた後、上目遣いにリュミエールを見つめる。

「このような場は不慣れなもので…陛下、少し人に当たりました。夜風に当たってきてもよろしいかしら。」

リュミエールに問いかける。

内心ロザリアは、これでリュミエールとダンスを踊らなくてすむとほくそ笑んだ。

噂好きのバミュー侯爵夫人が声をかけてくれたおかげだと。この時ばかりは噂好きの貴族に感謝する。

「ああ…私も行こう。皆は楽しんでいってくれ。」

リュミエールはロザリアの手を引いた。


逃げられない。

ロザリアの声が聞こえた。


リュミエールはロザリアをバルコニーに招いた。

「どうだ。」

舞踏会の会場に視線をやる。

「ええ、気分も良くなってきました。」

ロザリアが従順に答える。

「ここは大丈夫だ。人払いをしている。」

リュミエールがそっけなく言った。

「愛しい寵妃のふりは合格ですか?」

嫌味たっぷりにロザリアは応える。

「バミュー夫人の顔はしっていたのか。」

「…あの方噂好きですから、マリアの格好をして王宮内を歩いていたらよくお見かけしました。大体顔を見なくても、あんな大きな声で話している人なんて限られてます。あんな暇人も含め…王宮にこられるかたは大体わかります。」

頬を膨らませてロザリアはつまらなそうに言った。

「宰相がいう通り本当に拾い物だな。」

リュミエールが声を殺して笑った。

「二年間捨てられていましたけど。」

「すねるな。」

バルコニーから暗い庭をロザリアは眺める。

「そのままでもよかったのに…。」

そう忘れられた存在のままでよかったのに……ロザリアはリュミエールに聞こえるように大きなため息をついた。

あいかわらずリュミエールは無視する。

「さあ、もういいだろう。戻るぞ」

リュミエールがホールへ促す。


ロザリアも促されるまま、きらびやかな光が輝くホールに体を向けた。


「せめて美味しいスイーツでも食べれるかしら。」

ロザリアは小さなため息をつき、無理だと思いつつリュミエールの手をとった。

そして二人は舞踏会へと戻って行った。

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