美味しいアップルケーキ
「私は親切でりんごの向き方教えてあげようとしたのに。どう思う。」
リュミエールと別れ自室に戻ってきたロザリアはマリアと二人なのをいいことに、アップルケーキを食べながらリュミエールと過ごした時間のことを話す。
そして、りんごのむき方を教えようとして馬鹿にされたことを頬を膨らませなが話した。
「姫様は子どもですわね。」
マリアが残念そうな表情で、アップルケーキを口に運びながら言った。
「なによ、見た目は変わらないわよ。三つもマリアの方が年上なのに童顔なんだから。」
憐れむようなマリアの視線に、見当違いの答えをロザリアは返す。
「童顔は余計です。全く姫様はご自分のご興味のあることしか頭が回らないんですから。」
だんだんと小言のようにマリアが言い始める。
「そんなことないわよ。私だって体裁を考えてマリアのふりをしたりして…大人しくしていたのに。」
「ばれましたけれどね。」
冷たくマリアが言った。
「それにしても姫様ともあろう方が後ろから抱きつくなんて。私ではなく、陛下に。」
チクリとマリアが釘を刺した。
「抱きついてないわ…段々話していると弟みたいに思えきたのよ。」
ロザリアは即座に否定の言葉を口にするが、言動が一致していないことがわかっているのか口調は弱かった。
「あのシスコンですか。」
祖国に残してきたロザリアと同じ金色の髪と緑色の瞳を持つ少年をバッサリとマリアは切った。
「シスコンじゃないわよ。姉思いなだけ。」
「僕が王位継承権一位になったら迎えにきます…ですか。」
ロザリアより一つ年下の王子の声色を真似してマリアが言った。
ロザリアの国では王位は男子優先、18歳の誕生日をロザリアの弟が迎えればロザリアは王位継承権第二位に繰り下がる。
そして、その時は迫っていた。
「姫様より一つしか違わないだけなのに姫様、姫様とまさにシスコンですわ。」
段々とマリアの話がそれていく。
「もう、いいじゃない。」
ロザリアがフォークにアップルケーキを突き刺しマリアの口へと運ぶ。
貴婦人とは言い難い、それでいて愛嬌のある行動をロザリアはとる。
「アップルケーキ美味しいでしょ。」
ロザリアの笑顔の問いかけにマリアはうなづき、ロザリアにうまくあしらわれたことを感じた。
「ね。」
ロザリアは笑顔をマリアに向けた。
結局、ロザリアの弟も、マリアも…ロザリアの周りの人間は、この屈託のない笑顔とスイーツに魅せられているのだから。
「まあ、いいでしょう。」
こうして二人の他愛もない話は続いた。
その夜もリュミエールはやってきた。
「今日のケーキは甘さが足りないな。」
上着を脱ぎ、綺麗に結ばれたタイを外し首元を楽にしながらリュミエールはアップルケーキの味について語る。
「控えめな甘さも上品で良いでしょう。」
ロザリアが言い返す。
「お菓子は甘いほどいいだろう。」
「口がおかしくなります。」
リュミエールとロザリアの他愛もない会話が続いた。
そして、毎日ではないにせよ、リュミエールはロザリアの元を訪れる日は続き…次第に訪れることが日常になってきた日。
リュミエールの言った夜会の日がやってきた。




