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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
26/114

アップルケーキの作り方

ロザリアはなれた手つきで卵を割り、小麦粉と砂糖を振るい合わせた粉を混ぜあわせる。

「そうやって作るのか。」

珍しそうにリュミエールが、ロザリアの手の中のボールを覗き込む。

「手伝って見ますか?」

ロザリアがまじまじと観察される様子うんざりして声をかけた。

「俺が?なにをするんだ。」

そういいながらリュミエールは楽しそうにロザリアの横に立った。

「そうですね、じゃありんごを切っていただけますか?」

机の上に置かれたリンゴとナイフを指差す。

「切るっか。」

リュミエールはそう言うとナイフを持ちりんごを半分にたたき割った。

「普通にして下さい。」

ゴロンと床に落ちたりんごをロザリアは拾い上げ、軽く水でゆすぐ。

「と言ってもな、ナイフ投げはしたことがあるが、こんな小さなナイフ持ったことないしな。剣なら得意なんだがな。」

切るものが違う対象になっていると思いつつ、ロザリアはナイフを持ちりんごをむき始めた。

「器用なものだな。」

再びリュミエールはりんごを手にとる。

「普通です。ほらちゃんと見て下さい。こうりんごを回して。ああー、もう。」

リュミエールの拙い動きに痺れを切らしたロザリアは、手に持っていたりんごとナイフを置きリュミエールの背後に回る。

そして背後から、手をを取ろうとする。

「なにがしたいんだ。」

「手をとって教えようかと…弟にはこうやって教えたんです。」

リュミエール面白そうに笑った。

「弟君と一緒とはな。」

リュミエールの背後に回ったロザリアは、手はリュミエールの腕を取ることはできるもののリュミエールの広い背中に隠れてりんごの姿さえ見ることはできなかった。

「弟君はいくつでしたか?」

リュミエールが丁寧な口調でロザリアに尋ねた。

「当時は十歳かしら。」

ロザリアはすまして答える。

「体格を考えて欲しいな。」

ロザリアは悔しそうに唇を噛んだ

「ほら。」

そう言うと、リュミエールはロザリアの背後に回り込みりんごとナイフをロザリアの手の中に押し込んだ。

「教えてくれるんだろう。」

耳元でリュミエールの声が聞こえる。

少し低い声がロザリアの耳に妙に残った。

「りんごとナイフを持っているのは私なんですけど。」

冷たくロザリアが言う。

「見て覚えるさ。」

「腕を回されていると邪魔で切りにくいんですけれど。」

「残念だな。見やすかったのにな。」

そういうとリュミエールはあっさりとロザリア離した。

ロザリアは顔をしかめた。


「そう言えば、知っているか?」

脈絡なくリュミエールが質問をする。

「何がですか?」

「りんごの果実の意味。」

はっきりとロザリアは顔をしかめた。

「知りません。」

必要以上に大きな声でロザリアが言い放ち、綺麗に切ったりんごを鉄鍋に並べ手早く生地を流し込んだ。


「早く焼かなきゃ。」

忙しそうに釜戸の上に鍋を起き、まきで火を調整し始めた。


ロザリアの後姿を見ながらリュミエールは余ったりんごをひとかけら口にいれた。

「誘惑。」

小さくりんごの果実の意味を口にする。

口元には小さな悪戯っ子の笑みが、そこにあった。

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