スイーツにハーブティーはいかが?
「ゴードンは?」
リュミエールの声が星空の輝く時間にロザリアの部屋から聞こえる。
「山間の領主ですわね。先だって娘さまがご結婚されたとか…お孫様にも早くお会いしたいですわね。」
ロザリアは貴婦人のにっこりとした笑顔を向ける。
「……そろそろ、いいですか。顔はわかりませんが、そこそこ話を合わせるぐらいできます。」
リュミエールの貴族の名前あてにうんざりしながらロザリアは応じる。
「及第点だな」
リュミエールが問う。
あれから三日…ロザリアの部屋を訪れなかったリュミエールに、約束の夜会までリュミエールから開放されたと思っていたロザリアは訪れたリュミエールの顔を見てうんざりしていた。
そして同じような貴族にまつわる質問攻めにげんなりしていた。
貴族の作法には反するが、いつもならマリアと楽しく夕食を食べているはずがリュミエールが一緒に食べたことで更に機嫌は下り坂だった。
「一ヶ月後、夜会に出席するだけでいいはずではなかったのですか?」
ロザリアがリュミエールに尋ねた。
「夜会で寵姫として紹介するのに頻繁に訪ねない方がおかしいだろう。」
長椅子に足を投げ出しゆったりとくつろぎながらリュミエールが答える。
「それはそうですけれど…」
ロザリアは質問が止まったことにほっとしつつ、今度は話す話題がないことに気まずさを感じ始めた時助けを出したのはマリアだった。
「お茶が入りました。」
「いい香り。ローズゼラニウム?」
「よくお分かりで。」
マリアが答えた。
「めずらしいハーブなのにどうしたの?」
香りを楽しみながらロザリアはマリアに問いかける。
「陛下の贈り物でございます。」
侍女らしくマリアが静かに答えた。
「陛下の?」
「悪いか。」
ぶすっとした表情でリュミエールが答えた。
「いいえ。ハーブがお好きなんですか?」
「いや、勧められれば…という程度だな。」
マリアがリュミエールのそばに茶器をおく。
「お疲れが取れますわね。」
ロザリアはリュミエールの「薦められれば…」という点、そう誰に進められたのかという点は気がつかなかったふりをして相づちを打つ。
「偶然の出会いも続けば…どうなるかな。」
リュミエールの言葉にロザリアは首を傾げた。
意味深な言葉にロザリアはリュミエールを馬鹿にしたように視線を合わせた。
「偶然は偶然ですわ。」
はっきりと答えた。
「そうだな。休むか。」
「主室の隣にお部屋を用意いたしました。」
マリアが頭を下げ答えた。
「なかなか有能な侍女だ。偽りを気づかせないのは得意なようだしな。」
ロザリアがマリアのふりをしていたことを隠し通していた事について嫌味を残し、リュミエールは用意された部屋に消えて行った。
「意外に紳士ですわね、姫様。」
マリアがロザリアに問いかける。
「ま、姫様の許可なく姫様に手を出そうとしたら、間違いなく私が消しますけど。」
「やめてよ、洒落にならないわ。」
ロザリアは首を傾けた。
「でも、おかしいわね。ゼラニウムの花言葉って確か偶然の出会い…でしょ。こんなこと知っているお知り合いがいるならそちらを寵姫にすればいいのに。」
「調べますか?」
マリアが声を潜め尋ねた。
「いいわ。色恋じゃお腹はいっぱいにならないもの。もしかしたら、私はその方を寵姫か王妃にするための当て馬かしらね。ま、どちらでもいいけれど。」
ロザリアが華咲く笑顔をマリアに見せた。
リュミエールが初めて側室のそばで過ごす夜は、こうして過ぎていった。
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誤字脱字修正しました。




